第四話 世界が初めて認識する《魔法》
俺たち――俺、ゼロ、遼、イヴ――は、次の行動計画を話し合うため、再び廃校の屋上に集まっていた。夜が明け、朝日の光が街を照らし始めている。
「遼、計画の準備は?」
「問題ありません、レン様。『全知の探求者』の権能で、最も混乱が少なく、かつ効果的な『宣戦布告』の方法を模索しました」
遼は眼鏡をくいっと上げながら、冷静に報告する。
「ほう、どのような方法だ?」ゼロが前のめりになる。
「世界中の主要都市の上空に、巨大な『魔法陣』を描くのはどうでしょう? イヴの『幻想具現化』の力を使えば可能です。視覚的なインパクトは絶大です」
「賛成! 私の世界を見てほしい!」イヴが目を輝かせる。
「なるほど、悪くないな」
俺は頷いた。第一話でニュースサイトをいじった時はデジタルの中だけだったが、今度は物理的な「現象」として、世界の常識に叩きつけるわけだ。これぞ、神様が求めていた「スパイス」だろう。
「ゼロ、お前の出番は?」
「黒炎の出番はまだですか、レン様!」
「そのうちな。今回はイヴがメインだ。やるぞ、イヴ」
「はい!」
俺は『神の権能』で、イヴの『幻想具現化』の力をブーストする。俺自身が神だから、仲間の能力を強化することも容易い。
「イメージしろ、イヴ。世界中の空に、あんたが考えうる最も神秘的で、威圧的な魔法陣を」
イヴは深く息を吸い込み、スケッチブックを握りしめる。目を閉じ、集中する。
次の瞬間、空気が震えた。
世界中の主要都市――東京、ニューヨーク、ロンドン、パリ、北京――の上空に、突如として巨大な魔法陣が現れた。それは夜空にあっては青白い光を放ち、朝日に照らされては真紅に輝く、複雑怪奇な文様だった。
地上は大パニックに陥った。
人々は空を見上げ、スマホを空に向けて動画を撮り、叫び声を上げている。車が急停止し、衝突音が鳴り響く。
俺たちは東京上空の魔法陣を、屋上から見上げていた。
「すごい……私の絵が、本当に空に……!」イヴは感動で震えている。
「くっくっく、世界が混乱しているぞ! これこそ我が求める光景!」ゼロが厨二病全開で喜んでいる。
「国際的な通信はすでに麻痺状態です。原因不明の異常事態として、各国政府が緊急会議を招集しています」遼が状況を分析している。
俺は満足げに笑った。世界が初めて、科学では説明できない『魔法』の存在を認識した瞬間だ。
「さて、次はどうするか」
俺は空に浮かぶ魔法陣に手をかざし、最後の仕上げとして、神の権能で『音声』を世界中に響かせた。
『――退屈な世界人よ。我々は、この世界に新たな秩序をもたらす者なり』
俺の声が、世界中の人々の頭の中に直接響き渡る。遼の解析能力で、あらゆる言語に同時翻訳されている。
『我ら『神の使徒』は、世界の常識を書き換える。抗うも良し、従うも良し。さあ、面白く生きる準備をしろ』
俺はメッセージを締めくくり、魔法陣を空に固定した。魔法陣は消えることなく、世界を見下ろし続けている。
世界は、俺たちの存在を無視できなくなった。
退屈な日常は終わり、これからは俺たちのルールで世界が動く。
俺は、最高の気分だった。
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騒動から三日が経過した。
世界は混乱の極みにあった。各地で暴動や略奪が発生し、都市機能は麻痺状態。あの巨大な魔法陣は消えず、未だに空に浮かび続けている。
「遼、世界の状況は?」
「最悪です、レン様。経済活動は停止、各国政府は『神の使徒』なる存在への対応に追われています。テロ組織の犯行という見方が強いですが、魔法陣の存在がそれを否定しています」
俺たちはアジトにしている廃校の教室で、テレビのニュースを見ながら状況を確認していた。どのチャンネルも、魔法陣の映像と専門家の困惑したコメントを流している。
「やりすぎたか?」
「いいえ。これは必要な混乱です」と遼が冷静に言う。「世界の常識を破壊するには、これくらいのインパクトが必要でした。むしろ、ここからが本番です」
「くっくっく、次はどう世界を焼き尽くすのですか、レン様!」ゼロが興奮気味に身を乗り出す。
「焼き尽くすのはまだ早い。次は、世界の『信頼』を破壊する」
俺はニヤリと笑った。世界を動かしているのは、結局のところ「情報」と「信頼」だ。銀行システム、国家間の条約、個人の信用情報。それら全てが、遼の『全知の探求者』の権能の前では無力だ。
「遼、準備はいいか?」
「いつでも」
「世界中の金融機関のデータベースをハッキングしろ。いや、ハッキングじゃない。権能で直接書き換える。個人情報、銀行残高、株価、全部シャッフルするんだ」
「なんてことを!」イヴが驚いた声を上げた。
「これが一番手っ取り早いだろ。お金の価値がなくなれば、みんな平等になる。そして、俺たち『神の使徒』の存在感がより強まる」
「なるほど……面白くなってきました」遼の目が青白く光る。
俺は再び、世界に向けて『神の権能』を行使した。今度は音声メッセージではない。世界の根幹を揺るがす、サイレントテロだ。
世界中の銀行口座の残高が、ランダムにシャッフルされていく。大富豪の資産はゼロになり、一文無しの男の口座に数兆円が振り込まれる。株価はジェットコースターのように乱高下し、世界の経済は瞬時に崩壊した。
これは、誰にも止められない、世界の終わりの始まりだった。
テレビのニュースキャスターが、絶望的な顔で叫ぶ。
「――速報です! 世界中の金融システムが同時に崩壊しました! これは、人類への宣戦布告です!」
俺は仲間たちを見て笑った。
「さて、第二ラウンドの始まりだ」
退屈な世界はもうない。これからは、俺たち『神の使徒』がルールだ。
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世界経済の崩壊は、第一ラウンドの混乱とは比較にならない規模だった。もはや貨幣経済は機能不全に陥り、人々は信用を失い、物々交換や略奪が横行している。法と秩序が崩壊し、街は混沌に包まれていた。
俺たちはアジトにしている廃校の教室で、テレビのニュースを見ながら状況を確認していた。どのチャンネルも、魔法陣の映像と、世界各地のパニック状態を報じている。
「思った通り、人間は脆いな」俺は呟く。
「レン様、各国政府から宣戦布告されました。我々を『人類の敵』と認定し、総攻撃を仕掛けるようです」遼が冷静に報告する。
「ほう、軍隊か。面白くなってきた」ゼロが嬉しそうだ。
「私の創造した魔法陣が、ターゲットにされています……!」イヴが不安げに空を見上げる。
上空に浮かぶ巨大な魔法陣に向けて、各国の戦闘機やミサイルが発射されている映像がニュースで流れる。しかし、ミサイルは魔法陣に触れる直前で霧散し、攻撃は一切通用しない。イヴの『幻想具現化』は、俺の権能で強化されているため、現代兵器では破壊できない防御力を持っていた。
「さあ、レン様。次は我らが討って出る番では?」ゼロが俺を見つめる。
俺はすぐに首を振った。
「いや、まだだ。すぐに制圧するのは面白くない。一方的な虐殺なんて退屈だろう」
「では、どうするのですか?」遼が尋ねる。
「まずは、力の差を理解させる。そして、向こうが本気で抗戦する姿勢を見せるのを待つ」
俺は再び、世界に向けて『神の権能』を行使する。今度は音声メッセージではない。世界の主要都市の広場や議事堂、ホワイトハウスの芝生といった目立つ場所に、突如として奇妙な石碑が出現した。
『――これは、貴様らが『神』に抗うための『試練』だ。我ら『神の使徒』は、貴様らが呼ぶところの『神』だ。争いを止め、我らに従うか。それとも、足掻き、抗い、滅びるか。選択権は、貴様ら人類にある』
メッセージが石碑に刻まれている。
人類はすぐに俺たちに従うことはないだろう。混乱の中でも、彼らは「自由」のために戦うことを選ぶはずだ。
俺はニヤリと笑った。これは、人類と神々による、血で血を洗う長期的な戦争の始まりだ。
「さて、どう足掻くか、人間ども」
世界の常識は完全に崩壊し、新しい時代の幕開けだ。




