第二話 この力、どう使おうか。とりあえず、協力者を探してみる
ついさっき俺が引き起こしたデジタル世界の混乱は、瞬く間に現実世界に波及していた。
俺は適当なカフェに入り、窓際の席から外を眺めながら、スマホでSNSのトレンドをチェックしていた。
『#ニュースサイト消滅』『#デジタル神隠し』『#世界線変動』といったハッシュタグがトレンドを埋め尽くし、人々は困惑していた。ニュースサイトは軒並み機能停止し、紙媒体の新聞社が特需に沸いているらしい。
(ふーん、思ったより影響大きいな。まあ、すぐに復旧するだろうけど)
俺はカフェラテを一口飲み、ため息をついた。別に世界を滅茶苦茶にしたいわけじゃない。ただ、退屈なのは嫌だ。
あの神様は「好きに生きていい」と言った。この『神の権能』があれば、何でもできる。金も情報も自由自在だ。
(最強の力を持って、コンビニバイトとか馬鹿らしいしな……)
平穏な日常に戻る気はない。だが、一人で好き放題やっていても、いずれ飽きる。
俺が求めているのは、「面白さ」だ。そして、どうせなら俺の『神』としての存在を面白がってくれる仲間が欲しい。
(そうだ。能力付与。あれをやろう)
最初のプロット段階で思いついていたアイデアが蘇る。厨二病的な能力に憧れている連中に、本物の能力を与えてみる。きっと面白い化学反応が起きるはずだ。
「よし、決まった」
俺はカフェを出て、目的地へと向かう。まずは、協力者探しだ。
「能力者、募集――か。どうやって探すかな」
街を歩きながら考える。普通の募集方法では、本気で能力を欲しがっている人間や、面白い人間は集まらないだろう。
(ネット掲示板? いや、効率が悪い。もっと直接的に、ピンポイントで探す必要がある)
俺は再び空を見上げた。神の権能を使えば、人の心の中の欲望や資質を読み取ることも容易いはずだ。
俺は意識を街全体に広げる。すると、人々の心の声や秘めた願望が、微弱な電波のように脳内に流れ込んできた。
『あーあ、宝くじ当たらないかな』
『上司マジむかつく、消えてほしい』
『この世界、もっと面白くなればいいのに』
圧倒的な情報の奔流の中、一つだけ異質な願望を捉えた。
『……俺にも、あの漫画の主人公みたいな力がもしあれば、この世界を変えられるのに』
それは、深く、強い、純粋な「力への渇望」だった。
俺は意識を集中させ、その声の主の場所を特定する。そこは、俺がさっきまでいた公園から少し離れた場所にある、廃校となった学校だった。
「見つけた」
俺はニヤリと笑い、その人物の元へと足早に向かった。退屈な日常が、少しだけ色づき始めた気がした。
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『炎よ!我に力を貸したまえ!ダークフレイム!!』
(わぁ...厨二病全開だな)
古びた廃校の屋上。夕暮れのオレンジ色に染まる空の下、一人の青年が右手を突き出し、虚空に向かって真剣な顔で叫んでいた。手には何も現れていない。
(まあ、これから現れて神っていう俺のほうが、厨二病だと思われそうだけど)
そう思いながら、俺は神の権能でテレポートをイメージする。
しゅん。
一瞬で男の近くにテレポートした。音もなく現れた俺に、男は気づいていない。まだ真剣な顔で空を睨んでいる。
「……何の真似だ?」
俺が声をかけると、男はビクッと肩を震わせて振り向いた。
そこにいたのは、背が高く、ガリガリに痩せた青年だった。年の頃は俺と同じくらいか。黒髪はボサボサで、眼鏡の奥の目はギラギラと輝いている。典型的な「こじらせた」風貌だ。
「だ、誰だ貴様! ここは一般人立ち入り禁止だぞ!」
男は焦った様子で俺を睨みつけ、突き出していた右手を慌てて隠そうとする。
「一般人なのはお前の方だろ。俺は通りすがりの、神だ」
俺がそう言うと、男は一瞬「は?」という顔をして、すぐにニヤリと笑った。
「くっくっく……やはり、来たか。貴様、まさか『監視者』か?」
「いや、違うな。協力者を探しに来た」
男は俺の言葉に興味を示したようだ。「協力者?」と怪訝な表情になる。
「お前、『力が欲しい』って強く願ってたろ。あの漫画の主人公みたいに、世界を変えられる力が」
男はギクリとした表情を浮かべた。心の声が聞こえる、なんて言っても信じないだろうから、適当に察したふりをする。
「なぜそれを……まさか、貴様、我の心の闇を覗いたのか!?」
「まあ、そんな感じだ。で、だ。お前の願い、叶えてやってもいいぞ」
俺はそう言って、男の前に立つ。男は警戒しているが、それ以上に期待の眼差しを隠せていない。
「力を、くれるというのか?」
「ああ。ただし、条件がある。俺の『面白そう』な計画に付き合ってもらう」
「……計画?」
男は訝しむ。俺は最高の笑顔で、第一話で神様(仮)に言われたセリフをそのまま引用した。
「退屈な世界に、少しスパイスを加えてほしいんだよ」
男――仮にAと呼ぼう――は、俺の言葉を聞いて数秒間固まった後、大きく口を開けて笑い始めた。
「くっははは! スパイスだと!? 面白い! 我、黒炎の支配者『フレイムマスター・ゼロ』、貴様の配下になってやろう!」
……名前まで厨二病全開かよ。俺は心の中でツッコミを入れたが、まあ、こういうノリの奴の方が面白い。
「ゼロ、お前に能力を付与する。イメージしろ。お前が一番欲しい『炎』の力を」
俺は右手をゼロの額にかざす。神の権能で『能力付与:黒炎操作』の概念を、ゼロという人間にインストールした。
「うおおおおおおっ!!」
ゼロが叫ぶ。その右手に、本当に漆黒の炎がメラメラと燃え上がった。それは熱を持たない冷たい炎だが、確実に世界を焼き尽くせる力だ。
ゼロは自分の手を見つめ、震えながら歓喜の声を上げた。
「本物だ……本物の、ダークフレイムだ! やった……やっと、俺にも力が……!」
「成功だな。これで最初の仲間ができた」
俺は満足げに頷いた。ゼロはすぐに俺の方を向き、深々と頭を下げる。
「レン様! このゼロ、貴方様の意のままに!」
「様はいい。レンでいい。とりあえず、次の計画だ。ゼロ、お前に最初の任務を与える」
俺はスマホを取り出し、街の地図アプリを開く。
「この街には、お前みたいな能力を欲しがってる『逸材』が他にもいるはずだ。全員集めるぞ。まずは、世界の常識をぶっ壊すための『軍団』を作る」
夕日が沈み、夜の帳が降り始める街を見下ろしながら、俺と最初の仲間――フレイムマスター・ゼロ――は、これからの面白すぎる未来に胸を躍らせていた。




