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第一話 目覚めたら神だった。とりあえず、常識を壊してみる

白い。何もかもが、白かった。

「……あれ?」

俺――いや、僕? 自分の名前すら曖昧な意識の中で、ぼんやりと周囲を見回す。病院の天井だろうか? いや、少し違う。無機質で、広大で、何もない空間だ。

「おい、ようやく起きたか」

声がした方を見ると、そこに立っていたのは、白いスーツを着た、ごく普通のサラリーマン風の男だった。どこにでもいそうな顔だが、その存在感だけは異常に希薄だ。まるで、風景の一部のように。

「……誰、ですか?」

俺が絞り出した声は、驚くほど落ち着いていた。状況が理解できないパニック状態とは違う、もっと深い、静かな違和感。

「私は神だ。世界を管理している者の一人と言った方が分かりやすいか? まあ、その辺は適当でいい」

男は、神と名乗った。そして、手に持っていたクリアファイルから一枚の紙を取り出し、俺に差し出した。

「単刀直入に言おう。君は死んだ。私の手違いで」

「……は?」

「確認だが、君は昨日、横断歩道を渡っていたはずだ。そこで本来なら止まるはずのトラックが、私のシステムエラーで止まらず、君に激突した。本来なら、君はあと八十年ほど生きる予定だった」

神様は、事務的に、淡々と事実を告げた。その内容があまりにも非現実的すぎて、逆にすんなり頭に入ってくる。

「……つまり、俺は理不尽に殺された、と?」

「そういうことになる。で、だ。迷惑をかけたお詫びと言ってはなんだが、君を元の世界――現代日本だが――に転生させてあげようと思ってね。それも、特別な存在として」

男はニヤリと笑った。それはまるで、子供が新しいおもちゃを見つけたような、純粋な好奇心に満ちた笑顔だった。

「君には『神の権能』を与える。ルールはない。何も。常識に囚われず、好きに生きて構わない。退屈な世界に、少しスパイスを加えてほしいんだよ」


◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇


次に目を開けた時、視界に入ってきたのは、真夏の強い日差しと、青々とした公園の木々だった。

「……まじか」

どうやら、地元の駅前にある大きな公園のベンチに座らされているらしい。周りには、スマホをいじっている若者や、子供を遊ばせている親子連れなど、平和な日常の風景が広がっている。

(戻ってきた……?)

自分の体を見下ろす。手足はちゃんとある。服装は、白いTシャツにジーンズという見慣れた格好だ。一見すると、どこからどう見ても普通の人間だ。

(でも、あの神様は「人間じゃない」って言ってたよな……)

試しに、目の前にあった空き缶に意識を向けてみる。

「動け……」

念じてみたが、プルタブの一つすら動かない。やはり神の力なんて、ただの夢か幻だったのか?

その時、頭の中に、先ほどの神様の声が響いた。

『力の使い方は君のイメージ次第。まずは「神である自分」を強く意識しろ』

(神である自分……?)

俺は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。

そうだ、俺は死んだ。理不尽に命を奪われた。これは神が認めた『手違い』だ。だからこそ、俺は特別な存在としてここにいる。俺は、世界のルールを超越した『神』なんだ。

強く、強く、その事実を脳裏に刻み込む。

そして、再び目を開けた。世界の色が変わったわけでも、特別なエフェクトが見えたわけでもない。ただ、確信があった。

もう一度、空き缶に視線を合わせる。今度は念じるのではない。ただ、『認識』する。

「消えろ」

次の瞬間、空き缶は音もなく、まるで最初から存在しなかったかのように、完全に消滅した。原子レベルで分解されたのか、別次元に送られたのか、分からない。ただ、「そこにあったものが無い」という結果だけが残った。

「すげぇ……」

思わず声が漏れた。これは、物理法則とかいうレベルじゃない。世界の常識を書き換えた感覚だ。

しばらくそれに感動していた。


◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇


目の前を、楽しそうに笑いながら歩く女子高生たちの集団が通り過ぎる。スマホを見ながら、平凡な日常を謳歌している。

この平和な日常こそが、あの神様の言う「退屈」か。

(まあ、いきなり世界征服とかは面倒くさいな。まずは、手始めに……)

俺はベンチから立ち上がり、スマホを取り出した。ニュースサイトのトップページには、今日もどうでもいい芸能ニュースや政治の話題が並んでいる。

俺は指を動かし、ニュースサイトの運営会社に向けて、意識を集中させた。

「ちょっとだけ、常識を壊してみるか」

世界中の大手ニュースサイトのトップページから、政治家や有名人のゴシップ記事、広告バナーに至るまで、ありとあらゆる「無駄な情報」が突如として消滅した。残ったのは、必要最低限の生活情報と、真っ白な余白だけ。

ほんの一瞬で起きたデジタル世界の異常事態。

周囲がざわつき始める。人々がスマホの画面を凝視し、困惑の声を上げ始めた。

「え、サイトがバグってる?」

「何これ? 情報が消えた?」

世界の片隅で起きた小さな混乱。

俺はそれを見て、満足げに笑った。

「さて、次はどうしようかな」

俺はスマホをポケットにしまい、公園を出て大通りへと向かった。さっきのニュースサイトの一件で、世界がどうなるかは知らないが、まあすぐに復旧するか、大騒ぎになるかのどちらかだろう。どちらに転んでも、俺には関係ない。

重要なのは、この『神の権能』がどれほど万能なのか、ということだ。

デジタル情報に干渉できた。なら、物理的なものにも? 概念的なものにも?

歩きながら、ふと空を見上げた。抜けるような青空に、白い飛行機雲が一本、長く伸びている。

(空を……自由に飛べるか?)

イメージする。自分が鳥のように、風のように、空高く舞い上がる姿を。

次の瞬間、俺の体は重力から解放された。フワリ、という浮遊感と共に、足が地面を離れる。驚く間もなく、体がグンと加速し、ビルの屋上よりも高い位置まで一気に上昇した。

「うおっ!」

思わず声が出る。落ちる恐怖はない。体が勝手にバランスを取っている。眼下には、ミニチュアのように小さくなった街並みと、慌てて空を見上げる人々の姿が見えた。

(これは凄い! イメージ通りだ!)

俺はもっと高く、もっと速く、意識の向くままに飛んだ。雲を突き抜け、さらに上空へ。空気抵抗も、寒さも、息苦しさも感じない。神だから、そんな人間の制約は無関係なのだろう。

十分ほど空中散歩を楽しんだ後、俺は地上の人気のない裏路地を選んで、フワリと着地した。周囲に誰もいないことを確認する。

さて、次はどうするか。

「ルールはない」「常識に囚われるな」

神様の言葉が頭をよぎる。確かに、空を飛ぶだけなら、まあ派手なパフォーマンスだ。でも、もっと根本的な『常識』に干渉できるなら……。

「お金、か」

現代社会において、最も強固な『常識』であり『ルール』。それは「お金を払わなければモノは手に入らない」という絶対的な原則だ。

試しに、目の前に落ちていた小石を拾い上げた。大きさはビー玉くらいか。これを、百万円の価値を持つダイヤモンドに変換できるだろうか?

意識を集中させる。「これはダイヤモンドだ。百万円の価値がある」と、世界の理に刻み込むイメージで。

小石が、キラリと光を放ち、手のひらで冷たい感触のダイヤモンドへと変化した。光にかざすと、本物さながらの七色の輝きを放っている。

(できた……! これがあれば、もう働く必要ないじゃん!)

俺はニヤリと笑った。この力を使えば、合法的に、いくらでも富を築ける。世界征服は面倒でも、悠々自適な生活は魅力的だ。

その時、頭の中に、あの神様の声が響いた。

『――フフ、レン君。その力は、ただの小遣い稼ぎのためにあるんじゃない。もっと派手に、もっと面白く使ってくれよな?』

声は、あくまで楽しげだった。まるで、俺が退屈な道を選ぶことを最初から見越していたかのように。

「……ちっ、見透かされてるのか」

俺はダイヤモンドをポケットにしまう。まあいい。金に困ることはなくなった。あとは、この有り余る時間を、どうやって面白おかしく使うかだ。

(退屈な世界に、スパイス、か)

俺は路地裏から出て、再び喧騒の中へと戻っていく。

この街が、この世界が、どれだけ俺を楽しませてくれるか。それとも、俺が世界を滅茶苦茶にしてしまうか。

俺が神様として過ごす、現代日本での第二の人生が、今、始まった。

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