迷ってる僕と1匹の猫
1限、2限の講義が終わっていつものベンチに向かう。
1限90分にはまだ慣れない。
高校の時は1限50分だったから、
そこから考えると倍近く
教室に座っていることになる。
座っているのもしんどいな
なんてことを考えながら歩みを進め、
特等席にたどり着いた。
しかし僕の友達は見当たらない。
今日は来ないのだろうか。
もう少し待ってみるかとベンチに寝転ぶ。
木漏れ日が差し込み、時折吹く風が心地良い。
このまま寝てしまいそうだ。
一コマ空くし大丈夫だろう。
どれくらい時間が経っただろうか。
みゃおという声に気がついて瞼を開く。
ベンチの前に座っている君を見つけた。
初めて声を聞いたかもしれない。
なんとも可愛い声だった。
「ごめん、寝てた。」
君はじっと僕を見つめる。
元々は君の特等席だ。
「ごめんね」
そう口にしながら身体を起こし、
いつものように持ってきた
お昼ごはんを用意して
華麗な身のこなしでベンチに登ってきた君の目の前に置いてあげる。
「僕は特にやりたいことがあって
ここに来たわけじゃないんだ。
大学受験だって第一志望は落ちたし、
そもそもどこでも良かったから
勉強に力を入れていたわけでもなかった。」
そう言葉にすると君は一瞬僕の方を見たが、すぐに目の前のごはんに意識を戻した。
その行動に微笑ましい気持ちになりながら続ける。
「ここにいてる人たちを見てると
なんだか輝いて見えるんだ。
何かに夢中になってそれが羨ましく思える。まぁ僕みたいな人もいるんだろうけどね。」
側から見れば猫に向かって
何を喋っているんだろうかと
不思議がられるだろうな。
ここは人が少なく周りを気にする必要が
あまりない場所だし落ち着いているから
思ってることもすんなり口から出てくる。
「でも楽しくないわけじゃないよ。
君といる時間はすごく楽しい。
多分だけど僕が存在していい理由が
欲しいんだと思う。
自分のことなんだけど、
まだあんまりよくわかっていないんだ。」
話している間に君は食べ終えてリラックスしていた。
尻尾をゆらゆらと揺らしていて、
時折耳がピクッと動いている。
聞いてくれているみたいだ。
いつもなら食べ終えたらどこかに去っていくけれど、
今日はまだ居てくれている。
「ありがとう。
君のように気ままに生きたいなと
思ってたけど、
僕も案外気ままに
生きてるんだなって。
今は人との関わりを少なくしてるし。
これから先もできるなら多くの人と関わっていきたいわけじゃない。
でもこの状態で社会に出ることの
不安もある。
その上で誰かに愛されたい。
僕はわがままなんだ。」
自分でも今すごく迷っているんだなっていうのがわかる。
君は大きな欠伸をしていた。
こいつは一体何を言ってるんだとでも思っていそうだ。
でも言葉に出すことで少し楽になった。
講義までもう少し時間がある。
一緒に景色でも見てゆっくりしようか。
今日はもう考えるのはやめだ。
ゆったりとした時間は過ぎ、そろそろ行かないといけない時間だ。
「よし、次の講義に行ってくるよ。」
尻尾を揺らしている君に別れを告げ、目的地に向けて歩き出した。