08.会いたいという言葉
「レンが、あの赤面してた女子だったなんて、そんな都合のいい話なんてあるものか。」
翔汰は自分の都合のいいように考えるようになった。
逆にそう考えないと心臓がはち切れそうになるくらい苦しむ。
だが、目の前に広がる現実は、彼の想像を裏切るようにただの偶然で片づけられないものばかりだった。
「でも、レンは……どうしてあんな顔してたんだ?」
言葉に出してみて初めて、その不安が一層深まった。
まさか、レンも自分の態度を覚えているのか?
それとも、ただの気のせいだったのか。
翔汰は何度も、レンの赤面した顔を思い出していた。
普通なら誰にも見せない顔を、なぜ自分だけに見せたのか。
だが、その考えを進めれば進めるほど、彼の中で何かが崩れそうになるのを感じていた。
「はぁ、どうしてこうなるんだよ。」
自嘲気味に笑いながら、翔汰はその場に座り込んだ。
心の中で、自分の感情にうんざりしながらも、どこかでその感情が止められないことを理解していた。
レンが、もし本当に自分を意識していたら?
その可能性を否定することが、もうできなくなってきていた。
そして、次の日。
翔汰はまた、いつものように学校に向かって歩いていた。
いつも通りの朝の風景。
だが、その中にあの赤面したレンの顔がちらつくたび、胸がざわつくのを感じる。
翔汰は、教室での昼休みの間、何度もスマホを手に取っては、レンのことを思い浮かべていた。
彼女の声が、昨日のことが、何度も頭の中をぐるぐる回る。
何でだろう、こんなに気になるのは。
彼女が他校生だという事実は、どうしても翔汰の心に壁を作った。
「レン。お願いがあるんだけど、一度俺と会ってみないか」
翔汰はLimeに打ち込む。
送信ボタンを押すのにまだ躊躇する自分がいる。
翔汰はスマホの画面をじっと見つめた。
メッセージの内容は、あまりにも自分の気持ちを直球で表現していたから、送る決心がつかない。
彼は、言葉にできない重さでいっぱいだった。
「レン。お願いがあるんだけど、一度俺と会ってみないか」
その短いメッセージが、翔汰にとっては思いのほか大きな一歩だった。
ボッチの自分が、誰かに対してこうして会いたいなんて言うのは、まるで無理をしているようで怖かった。
でも、何かが内側で強く彼を押しやっていた。
あの赤面した彼女の顔が、どうしても忘れられなかった。
送信ボタンを押す瞬間、翔汰の心臓が鼓動を速める。
うまくいかないかもしれない。拒否されるかもしれない。
そんな不安が頭をよぎるが、それと同時に、やはり送らずにはいられなかった。
"送信"
その瞬間、翔汰は目を閉じて深呼吸をした。
手のひらに汗がにじみ、気持ちが急に重くなる。
あんなに不安に感じていたのに、送信した後は意外にもすっきりとした感覚が広がっていた。
「今、何をしているんだ、俺は……」
自嘲気味に呟くと、周りのざわめきが遠く感じられた。
昼休みの教室。クラスメートたちが楽しそうに過ごしているが、翔汰の心はそれどころではなかった。
レンからの返信を待つ間、何度もスマホを確認してしまう自分が嫌だった。
その時、スマホの画面にメッセージの通知が届く。
翔汰は思わず息を呑んだ。
「レンからだ。」
スクリーンをタップして、開かれたメッセージに目を通す。
「カケルくん、会いたいって言ってくれてありがとう。私も少し前から、会ってみて話したいなって思ってた。いいよ、会おう」
その瞬間、思わず口元に笑みがこぼれた。
しかし、同時に冷静にならなければという気持ちも湧いてきた。
レンは本当に、自分と会う気があるのだろうか?
それとも、ただの礼儀で返事をくれただけではないのか。
「会おう、だと……」
メッセージを読み返しながら、心の中で何度もその言葉を反芻した。
会いたい。レンも、少なくとも自分に対して少しは気を使ってくれているのだろうか。
その気持ちが真実であれば、もしかすると、あの赤面した瞬間の意味が少しだけ分かるかもしれない。
でも、不安でいっぱいだった。
「ありがとう。じゃあ、どこかで会おうか?」
短い言葉で返信を送ると、すぐに彼の心はまた急に不安でいっぱいになった。
会ったとして、どうすればいいのだろう。
何を話せばいいのか。
今の自分では、レンに何を話せるのか。
ボッチで孤立している自分が、普通に会話できるわけがない。
『俺、本当に会っても大丈夫なのか?』
頭の中で自問自答しながら、翔汰はもう一度、レンからの返信を待った。
その時、再び通知が来た。
「いいよ、どうしようか?」
シンプルな返事が返ってきた。
それが、翔汰にとっては大きな一歩だった。
レンは、本当に自分と会う気でいる。
それに気づいた時、心の中で何かが弾ける音を感じた。
それと同時に、ほんの少しだけ、緊張が解けたような気がした。




