表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/22

17.転機の足音

祭りの日まで、あと数日――。

翔汰の心は、落ち着くという言葉から最も遠い場所にあった。

授業中も、帰宅して机に向かっても、気を抜いた瞬間に頭を占めるのはレンのことばかりだ。

浴衣姿で並んで歩く姿、夜空に咲く花火を見上げる横顔。

そんな光景がふいに脳裏に浮かぶ。

だが必ず、そのすぐ後に罪悪感が影のように寄り添ってきた。

(俺は“カケル”なんだ。レンにとっては、あくまでネットで知り合った友達で。新堂翔汰として横に立つことなんて、許されてない。)

ノートに書きかけた文字は、気づけば線が歪み、意味を成さなくなる。

ため息をひとつ落として鉛筆を置く。

夏祭りが近づけば近づくほど、嬉しさと苦しさは比例するように膨らんでいった。


その日の夜、机の上に投げ出したスマホの画面が、ぽん、と光を弾いた。

そこにはレンからのメッセージが並んでいた。

「明日、浴衣の着付け練習してみるね。ちゃんと歩けるか不安だけど」

翔汰は震える指で返信を打った。

「もし歩きにくそうなら、無理しなくてもいいよ」

返事はすぐに返ってきた。

「ううん。特別な日だから、頑張って着たいの」

自分と過ごすために“特別”を選んでくれる。

その気持ちが痛いほど嬉しい。

けれど、同時にその分だけ隠している嘘が重くのしかかってくる。

(どうして俺なんだ。どうしてレンは、俺なんかを選んでくれるんだよ。)

机に突っ伏し、瞼を押さえる。

胸は苦しいはずなのに、心臓の高鳴りだけは収まらなかった。


翌日の休み時間――。

教室のあちこちで「浴衣デート」とか「花火の穴場」とか、夏祭りの話題が飛び交っていた。

前の席の男子が声を上げるたび、周囲からは大きな笑い声が返ってくる。

笑い合うその輪から距離を取り、翔汰は一人窓際に腰を下ろした。

けれど、不思議と孤独ではなかった。

ポケットの中には、レンから届いたメッセージの履歴がある。

画面を開けば、昨日のやり取りがすぐに蘇る。

――たとえ直接声をかけられなくても、繋がっていられる。

それだけで心細さは少し和らいでいた。


放課後、帰り道――。

夕暮れの坂道を歩きながら、翔汰はスマホを取り出した。

「当日、駅前で待ち合わせにしようか?」

ほんの一分ほどで返事が届く。

「うん、それがいいね!人多いかな……でも探すから」

思わず口元が緩む。

翔汰は躊躇いながらも、指を動かした。

「絶対見つけるよ」

彼女と約束を交わすたびに、未来がほんの少しずつ形を帯びていく。

その未来を心から欲しいと願ってしまう自分が、怖かった。


布団に潜り込み、目を閉じても、頭の中から光景は消えてくれない。

夏の夜道を並んで歩く姿、頭上に響く花火の轟音、浴衣越しに触れる距離の近さ。想像するだけで息が詰まりそうだった。

(俺は、当日までに覚悟を決めないといけない。隠したまま、彼女の隣に立つのか。それとも――)

答えはまだ見えない。

だが確かなのは、レンと迎える夏祭りが、翔汰にとって決して避けられない“転機”になるということだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ