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16.初めての夏祭り

机に突っ伏したままぼんやりしていた翔汰の手元で、再びスマホが震えた。

画面を覗くと、レンからのメッセージが続いている。

「そういえばさ、夏祭りって浴衣着ていった方がいいかな?それとも普段着の方が楽かな?」

胸が大きく跳ねる。

浴衣。頭の中にその姿が浮かんでしまう。見たことがあるわけじゃない。

けれど、想像するだけで心臓の音が耳の奥に響いた。

(……レンが浴衣なんて着てきたら、きっと俺、まともに目を合わせられない。)

そんな思いを飲み込んで、震える指で返事を打つ。


「浴衣、きっと似合うと思うよ。でも動きにくかったら大変かもな」

すぐに「そっかー!」と返事が来る。

「じゃあ頑張って着てみようかな。花火大会ってやっぱり特別だし。楽しみだなぁ」

楽しみにしてくれている。だが、同時に苦しさも増す。

彼女は「カケル」としての自分と夏祭りに行くのを楽しみにしている。

けれど、その仮面の下に隠れているのは“あの時の新堂”だ。

その事実を思うと、心臓をぎゅっと掴まれるように痛んだ。


スマホを握り直し、別の話題を振る。

「屋台ってどんなのが出るんだろうな。焼きそばとか、りんご飴とか?」

するとレンは矢継ぎ早にメッセージを返してきた。

「わたあめ!あと金魚すくい!絶対やりたいの!」

「金魚、ちゃんと持って帰れる?」

と返すと

「うーん、たぶん無理かも。でも挑戦するのが楽しいんだよ」

スマホの画面越しなのに、はしゃぐ彼女の声が耳元に聞こえる気がした。


無邪気で、まっすぐで――そんなレンの姿が眩しかった。

しばらくやり取りが続いたあと、レンからふとした一文が送られてきた。

「カケルくんは、夏祭りって誰かと行ったことある?」

一瞬、呼吸が止まる。

現実の翔汰は、友達もなく、祭りに行った経験なんてほとんどない。

花火の音を遠くに聞きながら、窓辺に一人で座っていた記憶ばかりが残っている。

だが、そんな答えを返すわけにはいかない。

けれど、正直に言ってしまった。

「実は、ちゃんと行くのは初めてかもしれない」


数秒後、レンから返事が届く。

「そっか。じゃぁ、初めての夏祭り、一緒に楽しもうね!」

――初めての夏祭り。

翔汰にとってそれは確かに特別なことだ。

けれど、同時に「カケル」という仮面をかぶっての初めてでもある。

その二重の意味が、どうしようもなく切なかった。

「うん。楽しみにしてる」

と返信を打つと、画面の向こうから彼女の笑顔が伝わってくる気がした。

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