14.同じ月を見上げながら
夜――。
部屋の灯りを落とし、ベッドの上に寝転がっても、翔汰の心臓は妙に落ち着かなかった。
目を閉じても、息を吐くたびに重たさが増していく。
掛け布団の中で体を丸め、何度も寝返りを打つ。
それでも落ち着きは訪れなかった。
(……眠れるわけ、ないよな。)
昨夜から続く後悔と葛藤が、澱のように積み重なっている。
呼吸を深くしても、頭の中では彼女の笑顔が何度も浮かんでは消え、そのたびに喉が苦しくなった。
天井を見上げていたその時、机の上に置いたスマホが小さく震えた。
画面にはレンの名前。
「カケルくん、まだ起きてる?」
たった一行。
けれど、その短い文字が心臓を一気に跳ね上がらせる。
返事を打とうとして指が止まり、喉がひどく乾いていく。
(……俺に“翔汰”って呼びかけてるわけじゃない。これは、カケルとしての俺に送られたメッセージだ。)
小さく、苦笑が漏れた。
嬉しさと同時に、耐え難いほどの後ろめたさだった。
それでも、無視するわけにはいかない。
「起きてるよ。レンは?」
送信ボタンを押すと、すぐに既読がついた。
「うん、なんだか眠れなくて。さっきベランダに出たらね、月がすごく綺麗だったんだ。
カケルくんも、見えてる?」
翔汰は立ち上がり、窓際へ歩み寄った。
カーテンを開けると、夜空には大きな月が浮かんでいる。
(……同じ月を、今、レンも見てるんだ。)
ただその事実だけで、胸の奥が熱くなる。
けれど、その熱は同時に強烈な罪悪感を呼び覚ます。
「見えてるよ。ほんとに綺麗だな」
返信を打つ。指先は自然に次の言葉を打ち始めていた。
「実は俺――」
そこまで入力して、翔汰の指が震えた。
送信ボタンに触れそうになり、けれど決定的な勇気が出なかった。
心臓が暴れるように打ち、冷たい汗が額を流れる。
「ごめん。」
小さく呟き、入力した文字を消す。
残された画面は、ただの「綺麗だな」という無難な返事だけ。
そのとき、再びメッセージが届いた。
「カケルくんと同じ空を見てると思うとね、不思議と心が落ち着くんだ。ほんとに、ありがとう」
短い文面。それなのに、胸に深く突き刺さる。
翔汰はスマホを握りしめ、視界がにじむのを感じながら布団に潜り込んだ。
「ありがとうなんて言わないでくれよ。」
声は枕に吸い込まれ、夜の静けさの中に消えていく。
レンの言葉が嬉しいはずなのに、自分の欺瞞が重くのしかかる。
「どうしたら良いか分からなくなるじゃん。」
かすれた声でつぶやいた。
答えは分かっている。
隠し続けることはできない。
けれど、その一歩を踏み出す勇気がまだ出せない。
揺れる心を抱えたまま、翔汰は月明かりの差し込む天井を見つめ、目を閉じることもできずにただ夜を過ごした。




