11.送信できない言葉
改札口で手を振り合ったあと、翔汰はしばらくその場に立ち尽くしていた。
ポケットの中のスマホが震える。
画面にはLimeの通知。
送り主はもちろん――レン。
「今日はありがとう。すごく楽しかった」
短い言葉と喜びの絵文字。
翔汰は返信を返そうとしたが、指先が止まる。
「俺も楽しかったよ。また会おうな」
そう打ち込んで、一度消す。
本当は「隣にいられて嬉しかった」「ずっと一緒にいたい」
――そんな言葉を新堂として伝えたかった。
だが、それはまだ言えない。
再びスマホが震える。
「なんか、カケルくんと話してると新堂くんのこと思い出すんだ。不思議だよね」
それを目にした瞬間、翔汰の呼吸が乱れる。
――カケルを演じながら、翔汰としての自分を隠し続けることは、もう限界かもしれない。
送信欄には、先ほど打ち込んで消したはずの言葉を打ち込んでいた。
慌てて打ち直す。
「俺も。隣にいられるのがすごく心地よかった」
しかし、結局また削除した。
「……俺は何やってんだよ。」
改札口の前で立ち尽くす自分が、情けなくて仕方ない。
再び通知が届く。
「新堂くんが、今日の私を見たらなんて言うかなぁ。
カケルくんに対して焼き餅を焼いてくれると嬉しいかな」
胸が痛んだ。笑うどころか、目を逸らせないほどに惹かれているのに。
「きっと焼き餅を焼くよ。」
ダメだ。本当に言いたいことには届いていない。
けれど、今の彼にはこれが限界だった。
――このままじゃ、いつか全部を伝えずにはいられなくなる。
翔汰はスマホを胸に押し当て、乱れる鼓動を必死に抑え込んだ。
ベッドに横たわっても、眠気はまるで訪れなかった。
天井を見つめる視界の端に、スマホの画面が明るく光る。
新着通知が来たわけでもないのに、気付けば無意識にトークルームを覗き込んでしまう。
「もう、無理だろ。」
小さく漏れた声が、夜の静寂に吸い込まれていく。
“カケル”を演じているはずなのに、“翔汰”の鼓動が止めどなく主張してくる。
レンが笑った瞬間も、目を伏せて照れた仕草も、手を振ってくれた別れ際も――全部、まぶたの裏に焼き付いて離れない。
「……レン」
名前を呼ぶだけで、痛いほどに締めつけられた。
もう、隠すことも誤魔化すことも、長くは持たない。
それでも、今この瞬間だけは――彼女に“本当”を告げる勇気がどうしても出せなかった。
翔汰は布団を頭までかぶり、必死に目を閉じる。
けれど、まぶたの裏で、レンが「また会えるよね?」と笑う声が繰り返し響き、心臓の鼓動はますます早まっていった。




