第3話 ステータス
用意された一室は、豪華でありながらも変に飾り過ぎない内装で、どちらかというとかなりお洒落な印象を受ける部屋だった。
まあ、この一室は案の定というか幸いというか、ゲーム内で案内された客室と同じ場所・内装の見慣れた部屋だったので、やはりここはリアルのヒロせかなんだと最早何度目かの感動を覚える。
とはいえ、いつまでもこれまでの事ばかりに気を取られて感傷に浸っている訳にもいかない。
より肝要なのはこれからの事だ。
とりあえず俺は、部屋に姿見が備え付けてあったのでそれで今の自分の見た目を確認してみることにする。
「……おお」
やはりというべきかなんというか、その容姿は前世の自分の姿とは全く異なっていた。
正直、元の容姿には少なくないコンプレックスがあったため、この容姿の変化は非常に嬉しい。
――――うん、身長だけは努力じゃどうにもならなかったからな。
まあ、今となってはもう昔の話だと割り切って、素直にこの変化を喜ぶとしよう。
今の俺は、青髪のウルフカットに怜悧な印象を抱くシュっとした顔立ちが特徴的な、体格の良い美青年という感じ。
その容姿はまさしく、自分が過去にキャラクリした【アルト】のアバターの容姿そのものだった。
それこそ、身に纏っている衣服もヒロせかの初期スキンでは無く、課金して手に入った英雄風の【衣装スキン】である。
これは確か、俺がヒロせかで最後に装備していた衣装スキンだ。
ただし、もう察してしまっているが声の方は前世と同じ中世的な声である。
その所為かこの高身長の見た目でも若干幼さを残したような印象を受けるのが少し無念だった。
まあ、とはいえ容姿の変化の事も鑑みれば十分すぎるくらいなので、これに関してはまだ許容範囲内である。
さて、ついでにそこに掛けてあった壁掛け時計に目をやれば、現在こちらの世界の時刻は22時頃らしい。
ヒロせかはそれなりに文明の進んだ異世界なので、時計は勿論、車やバイクに似た乗り物や冷蔵庫からスマホまで、地球の2020年には存在していたような文明機器は大抵存在している。
まあ、それでも新幹線とかはないのでそのあたりは全部が全部進んでいるという訳ではないのだが………。
それこそ、電柱や発電施設などは存在しなかったり、街の造りも所々に鉄筋やガラスなんかが使われている位で、他はわりと中世的な造りの建物も多い。そのあたりは割とご都合主義といった感じだ。
ちなみにゲームの方では、それら画期的な発明品の多くは【大賢者】と呼ばれる存在が発明したと設定で明言されていたが、やはりこちらのセカイでもそうなのだろうか?
まあ、正直そんなヒロせかそっくりな異世界を今すぐにでも色々と見て確かめて回りたいという気持ちもあるが、流石に時間も時間である。
ゲームでも、この後のストーリー展開は一度この王宮の一室で一泊してから翌朝に、という感じで始まった。
さて、ということで今日はもうこの後寝るくらいしかやることはないのだが、その前にこれだけは軽く確認しておきたい。
そう、それはつい先ほど女王陛下より手渡されたこの【スマホ】だ。
それはまさしく、地球では俺の世代から一昔前の時代に使われていたという携帯機器の一種【スマートフォン】に似た人工物であり、この世界随一の情報端末でもある。
一応、この世界に電力という概念はない為、これもまた魔力を動力として動く【アーティファクト】と呼ばれる魔法道具の一つだった。
まあ、これに関してはゲーム内の方と特に基本的な仕様も変わっていなさそうだったので、操作方法などは最早慣れたものだ。
俺はとりあえず、いくつか並ぶアイコンの中から自身のステータスを確認できる画面を開くことにする。
まずはざっと確認だ。
それこそ、ヒロせかのプロローグから始まったということは高確率でステータス周りはリセットされていることだろう。
一応、ゲームの時の初期ステータスの内容くらいはなんとなく覚えているので、その辺り、リアルとゲームで差が出ているかなども確認しておきたい。
そうして、特に読み込み時間もなく表示されたそのステータス画面には、ざっとこのような内容が表示されていた。
― ― ―
〇名前:アルト
〇レベル:01
〇年齢:15才
〇生誕日:6月10日
〇種族:亜神【人族】
〇メインクラス:なし
〇サブクラス:なし
〇基礎能力値
HP 25 (+3)
MP 25 (+2)
STR 10 (+1)
VIT 10 (+1)
INT 10 (+1)
RES 10 (+1)
AGI 10 (+1)
ー ー ー
HP成長率 300%
MP成長率 200%
STR成長率 100%
VIT成長率 100%
INT成長率 100%
RES成長率 100%
AGI成長率 100%
〇主人公取得特性
・【未来へ紡ぐ転生者】
【スマホ】に【転生】機能を追加する。親密度の設定された存在のステータス情報を自由に閲覧することができる。
〇精霊取得特性
なし
〇種族取得特性
・【人族】
今後取得する進化取得特性が全て強化される。
〇進化取得特性
なし
〇クラス取得特性
なし
〇迷宮取得特性
なし
〇花園取得特性
なし
〇精霊契約
なし
〇クラススキル
なし
〇絆スキル
なし
〇特殊状態
なし
― ― ―
ぱっと見た感じ、初期のステータスは自身の記憶と相違ない。
それこそ、種族の亜神【人族】というのも、ゲームで覚えのある通りだ。
ヒロせかの世界では、ほとんどの知性ありし種族は神に近い【亜神】と呼ばれる種族であり、揃って不老という特徴を持っている。
そして、ゲームの方でも転生者はその亜神【人族】という種族に転生している設定だったので、俺もまたゲームと同じように、この世界に亜神【人族】として転生しているようだった。
まあ、全体的にゲームの方と特に違いがないというのなら一旦ステータス周りはこの辺りでいいだろう。
もし何か違いがあったとしても、正直それは実際にレベル上げをしたりして変化を見ないと、現状では判断材料が少なすぎるからな。
ということで、次に確認するのはアイテムや装備回りだ。
ステータスは完全に初期状態にリセットされていた為、こちらもリセットされている可能性は高い。
しかし、それでも俺には一つだけ疑問に思っているがあった。
それは衣装スキンの事である。
一応、先ほど姿見で確認した限りでは、衣装スキン以外の、ステータス効果のある装備品等はぱっと見見当たらないかった。
しかし、この時点で既にわかる通り、衣装スキンだけはなぜかリセットされていなかったのだ。
そう――――俺は何故か、自分がゲーム内で最後に適応していた衣装スキンを適応したまま、この世界に転生してきていた。
そして、実際に俺がアイテムや装備回りをスマホで確認してみれば、やはりアイテムやステータス効果のある装備品などは根こそぎ消えていた。
しかし、その一方でそれらとは一応別枠扱いになっている衣装スキンは、俺がゲーム内で所持していた分が全て揃っていたのである。
まあ、これは本当に見た目以外の意味は全くないものではあるが、それでもヒロイン用の【衣装スキン】なども全て残っていた為、そこは素直に嬉しく思った。
とりあえず、その後はゲーム内にもあった【掲示板】だったり【ヒロインズTV】と呼ばれるソーシャルネットワーク系のアプリから、所謂【ガチャ】にあたる機能まで一通り確認した。
まあ、それでもまだ23時にもなってないくらいの時間な為、普段昼夜逆転の生活をしている俺には少々寝るには早い気もするが。
確かゲームの方では翌日のストーリー進行は朝の7時とかだった筈なので、念のため早めに就寝しておいた方がいいだろう。
幸か不幸か、俺は割と寝つきは良い方なので、このくらいの環境の変化であればそう苦を感じることなくすぐにでも眠りにつけるはずだ。
ということで、俺は早速手に持っていたスマホを枕元に忍ばせると、そのまま王宮のベッドの上へと身を投げる。
うん、ものすごくふかふかだ。
王宮のベッドは、流石というべきかなんというか、客間に据えられるものでありながらキングサイズで、それも地球では経験したことがないレベルの高級感を肌身に感じる逸品だった。
しかし――――
それでも今の状況に、一つだけ問題があることに俺は気が付く。
それは、慣れない高級なベッドに気後れして寝られないとか、そういった俗っぽい理由とは少し違った。
「……」
――――めちゃくちゃ寝づらい。
そう、とにかく寝づらいのだ。
俺は思わずゲームの時と同じ感覚でベッドに身を沈め、そこでようやくはたと気づいた。
そう、当のベッドはゲームの時よりも遥かにフカフカに感じるのにである。
それはなぜか?
「……まあ、流石にこの格好で寝るのはきついよな」
それはある意味盲点だったともいうが、やはりここはゲームではなくリアルなのだなと改めて感じた。
まあ、よくよく考えてみれば、至極当然の事だったのかもしれない。
今俺が身に着けているのは、ただでさえ外行きのしっかりとした素材で拵えられたとわかる衣装スキンだ。それも、金具やらなんやらが結構ジャラジャラとしている。
その為、とてもじゃないが安眠に適している格好とは言えない。
ここが魔物の巣窟だと言うのであればまだしも、そもそもこの衣装スキンは装備ですらないただのスキン(キャラの見た目でしかない)な為、これを身に付けながら寝るメリットは全くもって一つもなかった。
「とりあえず、今後は部屋着の用意もしなくちゃか……」
まあ、実際にはそれだけではなく、ゲームと違って生活に必要なあれこれも必要になってくるのだろうが。
とはいえ、少なくとも今日一晩くらいならどうとでもなる。
俺は再びスマホを手に取って自身の装備一覧へとアクセスできるアイコンをタップすると、そのまま現在適応されている衣装スキンを解除して――――
全裸になった。
そう、全裸になったのだ。
「まあ、リアルだもんな……」
ゲーム内では、装備品をすべて外してもコンプライアンスの関係上ズボンみたいな下着を着用している状態になるのだが、どうやらリアルにそんな機能はないらしい。
特に衣装スキンの場合は部分的に外したりなどもできず、あくまでもそれ一つで全装備の扱いなため、ボトムスだけ残すなんていう方法も使えない。
これは、今実際に試してみたが、衣装スキンに該当する装備品はどうやらリアルでも物理的に脱ぐことは不可能らしい。
……まあ、これに関しては起きてからスキンを着用すれば問題ないだろうし、ここも今日だけは目をつむるとしよう。
それに、この分ならリアルヒロせかにおける服装の仕様もゲームとは色々と違う可能性がある。
ゲームでは衣装スキン、つまり純粋な服装の方はスマホの画面でしか切り替えが出来ず、更にはヒロせかにおける服はその全てが衣装スキン扱いだった。
しかし、ここはリアル。
普通にスマホを介さずに着脱可能な、衣装スキンでない衣服だって実際に存在している可能性がある。
この辺りも、明日色々と調べてみよう。
さて、それはそれとして、俺は元々安易に肌をさらすのが好きなタイプでもないし、流石にこの格好で掛布団も掛けずにベッドに寝そべるのは抵抗がある。
その為俺は若干の肌寒さを覚えつつ、掛布団で己の身体を覆いつくして早々にベッドの中へと潜り込んだ。
今夜は大興奮による疲れや王宮のベッドの寝心地のよさも相まってか、いつも以上にぐっすりと眠りにつくことが出来た気がする。