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第13話 フラグ立て成功、これが熟練のヒロせかプレイヤーである




 ゲームでもこのタイミングで解禁されたロマンスクエスト開放への条件。


 しかし、その通知はゲームの時とは違い全部で三つ表示されていた。



 そう、三つである。



 そのうち二つは、予想通りゲームと同様の通知。養子入りした公爵家の義姉と義妹のものだ。



 ならばゲームでは存在していなかったその三つ目、それは何を隠そう俺が「ワンチャンフラグ立ってないないかなぁ……」などと考えて蒔いていた種でもある。


 それが無事に開花したらしい。


 このロマンスクエスト初解禁のタイミングで、まさかまさかのあのハンナさんのロマンスクエスト開放への条件も一緒に発現していたのだ。


 これを諸手を挙げて喜ばずして、一体俺はいつ歓喜に打ち震えればいいのかって話である。


 我ながらこの恐ろしく華麗なフラグ立て、熟練のヒロせかプレイヤーじゃなきゃ見逃してしまうほどだ。




 ……と、あまりの嬉しさに一人で浮かれまくってしまったが、ここで調子に乗ってハンナさんのロマンスクエストにノータイムで飛びつくのは少しマズイかもしれない。



 というのも、この初めてのロマンスクエスト、ゲームではチュートリアルも兼ねていたので進めなければゲーム内時間が進まない仕様だったのだが、ここはリアルだ。


 故に重要なイベントを進めずとも、最悪ぼーっとしているだけでも時間は無情にも過ぎ去ってしまう。


 ゲームでは仕様によって昼食を摂るまでに確定で達成されるようになっていた姉妹二人のロマンスクエストだが……。


 それをこの段階で開放できなかった場合、こちらの世界で何か予期せぬ変化が生まれる可能性もある。


 今のところ、ゲームとリアルとの差異による致命的な問題は確認できていないが、それでもこれからの事はわからない。


 それこそ、すべてがゲームのように、最低限の内容が保証された環境の中で進められるとは限らないのだ。


 ときには冒険も大事だが、プロの冒険家だって定石や鉄則は重んじる。


 ハンナさんのフラグを立てられたのはまさしくロマンを追い求めて挑戦した結果だが、そこに至るまでの流れが生まれたのは、きちんとゲーム通りに養子入りの提案に承諾したからだ。


 故に、ゲーム通りに進んで欲しいところは、なるべくそこから外れないように行動していきたい。



 無論、不測の事態には臨機応変に対応するつもりだし、臆する必要がない時は、ハンナさんの時同様むしろ押せ押せで行くべきだとも考えているので、この辺りは本当にケースバイケースだろう。




 さて、そういうことなので、俺はとりあえずアリア義姉さんのロマンスクエストから解放することにする。



 一応、このロマンスクエストの内容自体はゲームでも自動生成だったため、完全に初見だ。


 故に、まずはスマホで発現した条件の方を確認する。


 この条件を達成すれば、無事に最初のロマンスクエストが発生するという仕組みだ。


 俺は、スマホの画面からロマンス関連のアプリに飛ぶと、開放待ちになっているヒロイン欄にアリア義姉さんの項目を見つける。


 そこからロマンスクエストの欄に目を向けると、そこに開放の条件がしっかりと記載されていた。



 ― ― ―



【アリア・リーズロッテ】ロマンスクエスト開放


 条件1-A リーズロッテ公爵家別邸【王都ベルステラ】の中庭で会う。※312年4月1日12時30分まで


 条件1-B ??? ※条件1-Aを満たせなかったときに発現



 ― ― ―




「……」



 表示されていた内容に、思わず顔をしかめてしまった。


 この時点で既に、ゲームの時との変化が顕著であるとわかる。


 確か、ゲームの方ではこのイベントには制限時間などもなく、条件も一つしかなかったはず。


 しかし、リアルの方では既にその形式からして違うように思えた。


 俺はもしやと思い、レティアちゃんの条件の方も確認してみることにする。



 ― ― ―



【レティア・リーズロッテ】ロマンスクエスト開放


 条件1-A 彼女からの行動を待つ 


 条件1-B ??? ※条件1-Aを満たせなかったときに発現



 ― ― ―



 案の定、彼女の開放条件もあまり見覚えのない内容だった。


 それこそ、彼女の条件に関してはアリア義姉さんと違って時間制限もないし、ロマンスクエストの開放条件で相手からの行動を待つような内容はゲームでも一度も見たことがない。


 それに、なんとなくだが【???】で隠されている条件の方にあまり良い予感がしなかった。


 これはただの勘でしかないが、俺の勘はかなり当たる方だと自負しているので、下手に虎の尾を踏むような事態は避けたい。


 俺は、最後にハンナさんの条件の方も今のうちに確認しておくことにする。




 ― ― ―



【ハンナ・レイラ―二】ロマンスクエスト開放


 条件1 彼女に気配察知の術について改めて教えを請う



 ― ― ―




 うん、こっちはちゃんと見覚えのある表記だった。


 ということは、全部が全部ゲームとは違う仕様になっているという訳でもないらしい。



 しかし、こうなるとやはり優先すべきは唯一時間制限のあるアリア義姉さんの方だろう。


 俺は改めて自分の中での優先順位をはっきりとさせると、ゲーム時代の記憶を頼りに中庭へと向かった。



 昼食時まではあと1時間と少し程しかない為、少し急がなければ。












 ……いや、待てよ。


 俺はそこで一度思いとどまり、足を止める。



 急がば回れということわざもあるくらいだ。



 ここで気を急いて、肝心のロマンスクエストで上手くいかなければ目も当てられない。


 目的の達成を優先するあまり、当のヒロインの笑顔を曇らせるようでは真にロマンのある男とは言えないだろう。



 ヒロせかでは、最初のロマンスクエストを開放するタイミングで、プレイヤーはそのヒロインとの親密度を開放できた。


 ゲームでは、この親密度にマイナスはなかったが、上限も無かった。


 そして、最初の解放時に稼ぐことが出来る親密度は最低で10、最高で50と決まっていた。


 ならば、リアルのヒロセカでも、俺は当然のように上限いっぱい分の親密度を稼ぎたい。


 この辺りは、まさにゲーマーの(さが)というものだろう。



 しかし、本当の理由はそれだけではない。



 ここがリアルである以上、俺は今後ゲーム通りにハーレムを目指していく上で、これだけは忘れたくないと、一つの思いを募らせていた。


 それは、一人一人のヒロインに、妥協せず全力で向き合っていきたいということ。



 俺は、この世界で攻略した女の子達をきちんと全員幸せにしたい。



 これもまた俺のエゴでしかないが、それでも自分の所為で女の子が悲しむような事になるのだけは絶対に嫌なのだ。


 ハーレムをロマンとして掲げている以上、それが綺麗事だというのは重々承知である。


 それでも、ここはヒロせかとよく似た世界。


 この世界には他に男はおらず、俺の頑張り次第で救える人たちが沢山いる。


 ここで色々と理屈をこねて何も行動をしないくらいなら、全力で行動したうえで誰もが幸せなハーレムを築いてみせる。


 ならば、その為の第一歩とも考えられるこのロマンスクエストを、そんな適当な流れで遂行していいはずがなかった。




 俺は一度冷静になり、この後の流れについて大まかな予測を立てて色々と思案する。




 しかし、現状俺一人で必要な物や状況を都合することは難しい。


 その為、まずはここで力を借りられそうな人を見つけるのが先決だ。


 俺はとりあえず、近くで手が空いてそうなメイドさんを探してみる。




 すると、目当ての人物は存外すぐに見つかった。



「お疲れ様です。今少しよろしいでしょうか?」



 俺がそう声をかけると、そのメイドさんが丁寧なお辞儀と共に微笑みを返してくれる。



「ええ、構いませんよ」



 俺は思わず、少しだけ驚いた顔でそのメイドさんを見つめ返してしまう。


 正直、このメイドさん然り、初めての男という存在に対しても流石は大貴族様のメイドさんというべき対応だ。


 それに、やはりというかなんというか、この人もかなりの美人さんである。


 黒髪のセミショートに、まるでお人形さんのような整った顔立ち。


 スタイルが良く、所謂モデル体型の美人なメイドさんだった。



 ゲームではどんなにビジュアルや声が好みでも、血涙を呑んで諦めるしかなかったNPCの美人メイドさん達だったが、やはりハンナさん同様ロマンスクエストを開放してヒロインにすることができるのだろうか?



 ううむ、偶然とはいえこうして魅力的な女性徒出会えた以上、この人のフラグも立ててみたいものだが、流石に今ばかりは優先すべきことを見失う訳にはいかない。



 俺はゲームの時と同じく血涙を呑んでこのメイドさんと事務的に相対すると、本来の目的を率直に伝えることにする。



「実は……これからアリア義姉さんを探しに中庭に行ってみようと思っているのですが、お茶の用意をいつでも出来るようにしてもらうことって可能でしょうか?一応、後に昼食を控えていると聞き及んでおりますので、お茶菓子なども無く、紅茶のみのご用意をお願いできればと考えているのですが……」



 あまり多くをお願いするのも気が引けたので、とりあえず一番にお願いしたいと思った事柄を素直に申し出てみる。


 確か、俺の記憶が正しければこの屋敷の中庭には茶会用の東屋があったはずだ。



 どのみち昼食時までの時間を有意義に過ごせればいいので、何か手持無沙汰になった際に落ち着いて話が出来る状況を用意しておく事は無駄にならないだろうと考えた訳だ。


 また、突然の申し出にも関わらず、俺のそんな思惑を察してかそのメイドさんもちゃんと真剣な表情で思案してくれた。


 流石、この辺りの察しの良さは一国の大貴族の元で働いているメイドさんと言えるだろう。


「そうですね……少々お待ちいただいてもよろしいですか?」


「はい、勿論です」


 そうして、恭しく礼を返してくれたメイドさんは徐にスマホを取り出す。


 どうやら、仕事用のメッセージグループで連絡を飛ばしているらしい。


 なんだかこういうところは異世界にも関わらず少し前世にも似た現代感を感じた。



 まあ、現代であればメッセージではなくインカムなどで通信する方が一般的なのかもしれないが、この辺りはこの世界にまだ音声通信に関する技術が存在しないことが起因しているのだろう。


 そんなこんなで、メイドさんが連絡を終えるまで1、2分ほど待機することになる。



 ふむ、俺が突然の無茶振りをした所為で込み入っていなければいいのだが……。


 まあ、メッセージでのやりとりだから時間がかかっているだけかもしれないが、もし忙しい中邪魔してしまったのであれば素直に申し訳ない気持ちになるな。



 なんて俺が考え出していたところ、メイドさんが少し慌てた様子ですかさず俺をフォローしてくれた。



 どうやらここの規模が大きいからか、純粋にレスポンスに時間がかかっていただけで、そちらの手は十分に足りていたらしい。


 この後も、俺が声を掛けたメイドさん自らが、直接都合をつけてお茶の用意をしてくれることになった。





 俺はそんな彼女に誠心誠意礼を告げると、そこで提供してもらう予定の茶葉や茶器についてもあらかじめ色々と教えてもらう。


 妥協しないと決めた以上、話の掴みにも使えるような知識は余念なく収集しておきたかったからだ。


 そうして、俺は一度メイドさんと別れて再び中庭へと向かうこととする。


 これで、俺がアリア義姉さんとの初めてのイベントで使える手札が一つ増えた訳だ。


 正直、色々な意味であまり沢山の収穫があったわけではないが、それでもこの根回しで得られたものは大きい。



 ゲーム内のベル様も、スマートに事をこなす上で根回しは何よりも重要だと言っていたが、実際俺も今ではその意味がよくわかる。



 特に、初めて会った感じアリア義姉さんはかなり期待に満ちた目で俺の事を見ていたので、この短い時間の中しっかりと彼女をエスコートできるかが今回のキーポイントになるだろう。


 そういった意味では、丁度良いタイミングを見計らって、あらかじめティータイムによる休憩を設けられるようにお願いしておいたのは正解だと確信している。




 俺はこのイベントへの決意を新たに、初めてのロマンスクエストを完璧な形で開放するべく足早に中庭へと向かうのだった。











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