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変わったのは、座席だけじゃなかった。

これは、話さない少年と、話せる少女の物語。


静けさを愛し、他人との距離を保つ少年・高橋蓮。

誰からも信頼され、完璧だと噂される少女・藤沢理香。


正反対に見える二人は、席替えによって隣同士になった。


言葉もなく、視線も交わさず。

でも、何かが少しずつ変わっていく。


“近づく” という感情を、誰よりも静かに描いた物語の始まりです。

変わったのは、座席だけじゃなかった。


席替えが行われた日。

高橋蓮たかはし・れんは、肩に鞄をかけたまま教室を見渡した。


いつもの窓際の席──

余計な会話とは無縁の、静かな居場所──が消えていた。


代わりに、彼の名前が書かれていたのは、

藤沢理香ふじさわ・りかの隣だった。


蓮は小さくため息をつく。

「……最悪。」


理香は、誰もが知っている存在だ。

成績は常に上位。発言は的確で、態度も落ち着いていて、教師たちからの信頼も厚い。

クラスの男子が、彼女の前では少し背伸びして見せようとする理由の一つでもある。


そんな彼女の隣に──自分が?


静かに席に着いた蓮は、何も言わずにノートを机に置いた。

理香が話しかけてくるとは思っていないし、正直その方がありがたかった。

目立つのは、苦手だ。



昼休み──静かな観察


教室に昼休みのざわめきが広がる中、蓮はいつも通り自分の席にいた。

弁当も食べずに、鞄からスケッチブックを取り出す。


鉛筆が紙を走る音だけが、彼の世界だった。


描かれていたのは、一匹の狼。

その鋭い目、細かく描かれた毛並み──全てが丁寧で、無駄がなかった。


その時、ふとした瞬間に理香の視線が彼の手元に落ちた。


「……あ。」


友達との会話の途中だった理香は、不意に声を失う。

彼の描く線は、ただの趣味レベルじゃない。

プロのような、いや、それ以上の何かを感じさせる静かな迫力があった。


「どうしたの? 理香、ぼーっとしてたよ?」


隣の友達が軽く肘で突っつく。


「……ううん。なんでもない。」


理香は目を逸らし、何事もなかったように会話に戻った。


蓮は気づかない。

彼の世界は、そのスケッチの中にあったから。



無言の了解


日々が過ぎても、二人の距離は変わらなかった。

隣に座っていても、会話は一切ない。

自己紹介も、小さな挨拶さえもなかった。


でも、互いに気づいていた。


蓮は、理香が数学の授業で五分ごとに時計を気にしていることを知っていた。

理香は、蓮が本のページをめくるとき、指先に敬意のような優しさがあることに気づいていた。


蓮は、理香が答える前にペンを三回机にトントンと叩く癖を知っていた。

理香は、蓮が一度も質問をしないのに、すべて理解していることを知っていた。


どちらも、その小さな気づきを口にすることはなかった。


……ある日までは。



沈黙のズレ


その日から、蓮は理香を一切見なくなった。


最初は気にならなかった。

別に、見られたいわけでもない。


でも、四日経っても視線が一度も合わないと──

何故か、イラッとした。


英語の授業中、理香は思わず横目で彼を盗み見た。

やはり、彼の目は教科書に向けられたまま、動かない。


「……は?」


なぜ、こんなことでイラつくのか、自分でもわからなかった。


そしてついに、その沈黙が限界を超えた放課後──

彼女は、口を開いた。


「……ねぇ、無視してるでしょ?」


蓮は手を止めず、目も逸らさず、静かに答えた。


「君の評判が大事なんだろ? 余計な注目、いらないでしょ。」


理香は瞬きした。

……あの日、自分が言った何気ない一言を──彼は覚えていたのか。


何故だろう。

その答えは、思った以上に心に刺さった。


何も言えなかった。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!


蓮と理香の関係は、すぐに大きく動くわけではありません。

でも、会話のない時間の中で、少しずつ変わっていくものがあります。


静かで繊細な“距離の変化”を、丁寧に描いていけたらと思っています。


感想やご意見など、どんな小さなことでも大歓迎です!

読者の皆さんの声が、僕の励みになります。


これからも、どうぞよろしくお願いします。

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