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最終話 領地戦とそれぞれの行方

2025/7/4 裁判ダイジェストを加筆しました。

2025/7/5 領地戦ダイジェストを加筆しました。

2025/7/12 領地戦後の辺境伯エピソードを加筆しました。 

2025/7/19 離婚証明書の攻防ダイジェストを加筆しました。



 残党狩りに長けているお父様と騎士たちは、周囲を確認しに行ってしまった。

 侯爵自ら動き回るなんて、と思われてしまいそうだけれど、ベルシュタインが筆頭侯爵家になる前まではお父様は真っ先に動く人だった。


 お父様もずっと別動隊がいることに気が付いていて、周囲の数か所に潜んでいた弓矢部隊の始末をしてくれていた。道理でこちらに最初お父様たちがいなかったわけだ。

 


 もちろん傭兵たちは殲滅した。相手が命のやり取りをする生業である以上躊躇いは無い。


 戦闘を行った者は皆返り血を浴びたので、魔導士たちに綺麗にしてもらう。

 貴重な魔導士をこんな使い方をしてどうなの、と思うけれど。


「火矢は人質を確保するための陽動でしたが、馬が六頭やられました」

 軍馬は火に慣れる訓練がされているけれど、使役馬は火を極端に怖がる。馬は臆病な動物だからだ。

 火矢を放たれて暴れ、脚を骨折した馬が多い。


「可哀そうだけれど仕方ない……すぐ中立領地に入るわ。わたくしたちが乗っていた箱馬車を一台、荷馬車を一台放棄して一刻も早く味方領地に入ることを優先しましょう。わたくしは馬で行くわ。ギルバートとミランダも馬でお願い」


 わたくしたちが乗っていた馬車と荷馬車を一台放棄すれば、今までとほぼ同速度で進むことが出来る。食料も飼い葉も減っていて丁度いい。

 二人がぎょっとしたようにこちらを向く。

 どちらも馬に乗れるので提案したのだけれど、案の定反対された。


「お嬢様危険過ぎます」

「そうです。あいつらメリアーナさまを拉致しようとしてるんですよ?」


 けれど、馬車よりも安全なことを知っている。

「お父様の馬に乗るわ。襲撃があるとしたらまず馬と箱馬車を減らされてしまうだろうと思っていたし、予めお父様と話していたの」


 ちなみにお兄様も自分の馬に乗せたがったが、魔導士は身軽が売りなのでそちらは辞退した。敵の射程外から攻撃出来る人の馬に乗って機動力を下げるわけにはいかないもの。


「ですが、馬を並べるか、後に付くのをお許し下さい」

 ……それくらいなら仕方ないわね。


 ここまできて、子供の頃から剣の稽古で顔なじみの騎士たちが次々に合流してくるので、この大所帯に手を出すのはかなり難しくなったのではないかしら。非戦闘員が五十人以上いるから絶対安全とは言い切れないけれど。守りきれて良かったわ。



 何事もなく中立小領地を無事に抜け、友好同盟の小領地を通過する。


 予め準備されていた替え馬と、軽微ではあるが火傷を負っていた馬との交換も無事に済み、先を進む。

 石畳の立派な道に、ベルシュタイン領に近付いてきた実感が湧いてくる。



 騎士たちが治めるいくつもの村や町を通過していくと、広大な農作地が現れ、荘園なのだとすぐに分かった。


 とうとうベルシュタイン領に入ったのだ。



 荘園を管理する子爵家の館に立ち寄ることは出来なかったけれど、休憩地点に物資だけは届けられていて、わたくしはお父様の指示で馬上から再びベルシュタイン製の馬車に乗り込んだ。


 パレード用ほどでは無いけれど、白地に金色の装飾がされたちょっと派手……いえ豪華な箱馬車で、スプリングも良いものを使っているのがすぐ分かるくらい、乗り心地は快適だ。ギルバートとミランダも再び一緒に乗っている。


 ミランダはお父様のファンなので、助けてもらったことでお父様語りが増えてしまった。

「あの時の侯爵様の踏み込み……見ました!?ほんと、時が止まったみたいでしたよう」


「……ああ、一部の隙も無いあの構え……あのような方がおられるとは本当に奇跡だ」

 お父様至上主義者も話に加わって、ずっと馬車の中ではお父様がいかに後光がさし、花びらが舞い踊り、時が止まるかの話が延々と続いている。

 ……はあ。

 

「お嬢様、何かご懸念でも?」

 わたくしがため息をついたのを見逃さなかったギルバートが訊ねてくる。


「いえ。お父様は本当にすごいのよねえ。でも肉親のことをずっと褒められているのを聞いていると、どうしても面映ゆいというか……」


「じゃあメリアーナさまも一緒に侯爵様の素晴らしさを語りましょう!」


 そうじゃないわー。そういう意味じゃないのよー。


「どうしてもお父様のことと同時に、二度の領地戦のことも考えてしまうものだから」


 二人が同時にびっくりしたような表情を向けてくる。

 こういうところが何故か似ているのよね。

 好きな人が共通している人たちって似てくるのかしら……


 あれからギルバートはずっとわたくしのことはお嬢様呼びだし、抱きしめ合ったのが本当にあったことなのか分からなくなってしまった。わたくしだけなの?こんなに悶々としているのは。 


「あの公爵……本当に最悪でしたもんね……顔だけ番長でしたし……メリアーナさまがすでに筆頭侯爵家の奥方様だったにも関わらず懸想して!」


「……味方を装って一度目の領地戦の最大の支持者になったかと思えば、王命を取り付け無理矢理お嬢様を妻に……しかも、同盟領地をごっそり寝返らせて、反目させた挙句の領地戦でしたからね……勝利するのにどれだけ苦労したことか……細切れにしてやればよかった……」


「……しかもメリアーナさまのことを"傷物疫病神令嬢"って噂を流したのも公爵でしたよね……」


 暗黒魔王……?馬車の中が暗黒空間のようにどす黒いわ……

 ミランダ……助け……あ、駄目だ……一緒にズモモモしてる。

 無理ないわね……ミランダの背中の傷は公爵から受けた傷だもの。


「ま、まあ……危機だったけれど、ギルバートのおかげで白い結婚のままで済んだし、我が家門は筆頭侯爵家になったし、結果的に良かったのよ……た、たぶん」


 なんとかしてくれる味方がいないわ……誰か助けて。

 

 苦しい時のお父様頼み。

「お父様あってのベルシュタインよね、本当に」


「ほんと、侯爵様は素晴らしい御方ですぅ。冴え冴えとした白銀の御髪にあの青い瞳は凛として……」

「全くだ。さすがお嬢様がその血を引いていらっしゃるだけのことはある。親子にはとても見えない」


 ……あ、エンドレスだわ。




 離婚証明書は今どこを移動しているのだろう……考える時間が増えた。

 五日と言ってたわよね……残り二日……ちょうどフラナド領の同盟領地を通過中ではないだろうか。本当に時間の経つのが遅くて、ジリジリとした焦燥感のせいで胃が痛くなりそう。自分がどうこう出来る時期はとっくに過ぎていて、人任せなのがもどかしい。



 数刻後、ついに堀にかかった橋を超えベルシュタイン城塞内の第一門を通過した。


「ベルシュタイン侯爵様万歳!」

「姫さまお帰りなさいー!」

「小侯爵様~!きゃあ♪」 


 大通りの両側に建ち並ぶ建物の窓という窓から、城下の者たちがわたくしたちの隊列を見て手を振ってくれているのが嬉しい。

 高くそびえる城壁を前方に眺めながら第二門へと進むにつれ、建物が立派な石造りのものとなり、街の規模も大きくなっていく。


 馬車に乗っているので分かりにくいが、緩やかな上りの傾斜地となっていて、賑やかな広場の脇を通り過ぎると威圧的な第三門が現れた。

 この門をくぐれば貴族街があり、その先にベルシュタイン城がある。


 帰って来れたのね……

 安堵と共に息を吐き出した。




 だがメリアーナの領地改革が実を結び、豊かに生まれ変わった領地を進む早馬が、予想以上に早く王都に近付いていることも、離婚証明書を巡って激しい攻防がこの時繰り広げられていることも、彼女たちはまだ知らない──




 ◇ ◇ ◇




 フラナド領主館を出立した早馬はダミーを含めて二頭。

 どちらも優秀な血統で、別館の厩舎で密かに飼われていた馬たちである。


 だが、どんなに優秀ではあっても馬が生物である以上必ず限界がやって来る。飼い葉に加え、あまり知られていないが何十リットルもの飲み水も必要となる。食事毎に水を飲ませるだけでは到底足りないのだ。

 少々遠回りにはなるが、川沿いの丘陵地帯を南下し、荘園を避けつつメリアーナに友好的な男爵領で馬を替え、さらに南下する。

 

 今はフラナド領のメリアーナの側にいる補佐官が手配した替え馬は、王都の隣接領であるベルシュタイン領から、同時に王都のタウンハウスからも続々と出立している。乗り手は皆侯爵に忠誠を誓った者たちで、ベルシュタイン侯爵家門によって命を救われた元傭兵や、影の姿もある。

 馬に負担をかけない為、比較的小柄の者たちを予め選出済みであった。



 早馬は万が一の追っ手を懸念し、まず駆歩でフラナド領主館から離れる。


 長時間は持たないため、こまめに草地で休憩を取り、進路にある村はただ通り過ぎた。進路を悟られないためである。


 その代わり、未だフラナド領に留まっている土壌研究者のいる村には遠回りでも立ち寄った。


 土壌研究者の一人がフラナド領で所帯を持っていたのだ。

「とうとう姫様が離婚ですか。めでたいことだ」

「……俺の成功に掛かっているが」

 常に懐に入っている耐水筒に入れた離婚証明書を思いながら、ぼそりと男は呟く。

 何としてでもこれだけは死守しなければならない。


「出来得る限りこちらでも協力しましょう。既に馬にはたっぷりの飼い葉と水を与えていますからご心配なく」

「ありがたい」

 この村の者たちは、メリアーナから受けた恩を忘れていない。

 すっかりうらぶれて土質も悪かった土地は、土壌研究者とメリアーナが連れてきた家畜によって息を吹き返し、今では美しい丘陵が広がっている。 

 

「この後はマール男爵領に入り、日の出と共に出発……荘園を除けば、皆メリアーナ様に好意的な土地ばかりだ。だが、フラナド領を移動しているうちは良いが」

 土壌研究者は地理には詳しい。そこまで言って憂い顔になった。

「問題はフラナドと同盟関係にある領がどう出るか、か」

「俺は俺の責務を全うするだけだ」


「あんたならそう言うと思ったよ。"一つの手は続く一手を生む"よく姫様が言ってたな。姫様の行いの上に続いてきた道の上に俺たちもいて、皆の気持ちは一つということを忘れないでくれ」

「それは重々承知だとも」


 

 日の出前に早馬の男は出立の準備を始めた。


 土壌研究者とその妻も既に起きていて、保存食と水筒を手渡す。


「あんたの道の先に、白銀の光が常に差すことを祈っているよ」

 それはベルシュタイン一族が持つ特有の髪色を指しており、ベルシュタイン侯爵家門に思い入れのある者たちがよく使う(はなむけ)の言葉である。

「……ああ。一夜の宿、恩に着る」


 日が昇り始めた丘陵を進み、やがて馬の姿が小さくなり見えなくなるまで、土壌研究者とその妻はその場に立ち続けた。




 ◇ ◇ ◇




 その後も早馬の男は頻繁に休憩を取るものの、追跡者はいないようだった。


 意図的に荘園を避けていることも大きいだろうが、どんな小さな村もメリアーナが行った改革は例外なく実を結んでいて、馬を潰すかもしれない懸念を払うことが出来た。

 先々で飼い葉と水の提供を受け、男はメリアーナの行いの恩寵を受けながら思わずにはいられない。


(こうして恩寵の連鎖が道として繋がっていくのだな)

 あれほどメリアーナが行きたがっていた領地視察を、期せずして自分が行っていることを歯がゆく思いながら。

 

 二日目の夜、数少ないメリアーナに好意的な、フラナド伯爵家門の寄子であるマール男爵の領地に辿り着き、限界に近付いていた馬を替えることが出来た。今まで世話になった馬はこのまま置いていくことになる。

 新しい馬はそこまでの名馬では無いが、ベルシュタインからメリアーナが持ち込んだ五歳馬で、まだ未熟な面もあるが体力もしっかりあり、安心して身を預けることが出来るだろう。この先は味方の領地とは異なる。立派な馬に乗っていればそれだけ目立つ。替え馬はその対応策でもある。

 


 替え馬を調達出来たことは良かったが、悪い知らせも待っていた。


 フラナド領主館を同時に出立したダミーが斃されたという──


 死んだのはかつて傭兵だった頃からの友だった。

 こちらとは違う行動を取り、目くらましになってくれていた者がもうこの世にはいない。

 とてつもない孤独感に襲われる。


 奴とは幾度かの死線を乗り越えたのち、共にこの国へとやって来た。

 だが、傭兵は所詮戦うことしか知らない。

 ベルシュタインの一度目の領地戦では、当時の筆頭侯爵家門の兵士募集人から金を受け取り敵として戦かったが、捕虜となった。


 剣の腕を買われ、メリアーナの影の護衛兼剣の練習相手に抜擢される。

 ベルシュタイン一族は平民だろうが、身分の差があっても分け隔てなく全ての人に平等だった。そもそも捕虜に近付く貴族など見たことも無かった。

 他所の国でも散々貴族と呼ばれる者たちに搾取され、使い捨てにされてきた人生だったが、考えを根底から覆す出来事が次々に起こる。

 初めて持ち得た人間らしい生活に、どれだけ感謝したことだろう。

 かつて荘園の農奴に使用された、決して裏切ることが出来ず、その際は命が断たれる"血の宣誓"を行う必要はあったが、自らが提案し喜んで承諾した契約でもある。



 この任務に就いてから、過去を思い出すことが多くなった。

 これではいけないと、男は気を引き締める。

 

 ベルシュタイン領から、そして王都のタウンハウスからも早馬が既に出立している。

 じきに到達する領境を進んだ先が、双方のポイントでもある。


 フラナド領主館を出立してから三日目の日の出と共に、早馬はマール男爵が住む館を出立した。


 とうとうフラナド領を離れ、同盟領を進むことになる。

 



 早馬は水量がやけに少ない川を超える。

 フラナド領を離れ、同盟領に入った。


 すぐにフラナド領を離れたことが分かるほど、川を超えただけで様子が変わった。


 普通なら川の近くはそれなりに人の住む場所としては優秀で、村もすぐに姿を現すものだが、打ち捨てられたであろう廃村が続く。

 荒地ばかりが広がっていることから、飢饉か、疫病か、それとも盗賊の襲撃かは分からないが、人が住まなくなってからそれなりの時間が経過しているようだ。


 いくつかの廃村を通り過ぎ、ようやく生きている人間を見つけた時はホッとしたくらいだった。


 元気のない苗が植わっている畑を横目に進んでいくと、やがて外壁が現れる。

 右手には山がそびえ、左手に伸びている川はほとんどが外壁の向こう側に引き込まれているようだ。


 なるほど。

 この町が川の水を引き込むために川の流れを変えたから、本来川の恵みで生きてきた村が──

 

 

 ようやく市門に到着すると、通行しようとする商隊が既に並んでいて、通行料で揉めているようだった。

 

 後ろに並び、ベルトポーチに入っている銀貨と偽造した傭兵タグを馬上で確認する。

 もう少し早ければ、この商隊の用心棒として一緒に町に入れたんだが……そう思いながら。


 


 傭兵とは本来、流れ往く職業である。町から町へ、領から別の領へ移動するのが日常なので、傭兵タグがある限り疑われることなく町に入ることが出来る。


 時間こそかかったが、無事に城門を通り抜け、今馬を進ませているのは、木造の上等ではない違法建築物が、道ギリギリまで建てられている、余り裕福ではない者たちが住んでいる通りだった。

  

 

 通りには帰路を急ぐ者たちがそれなりに歩いていて、馬で駆け抜けることは出来ないため、今は常歩(なみあし)で歩かせている。


 

(こういう通りでの襲撃が一番厄介だな……)

 うなじがチリチリと疼いて、危険を知らせている。

 傭兵だった頃もこの予感は外れたことがない。

(町への入場がやけにスムーズじゃなかったか?)

 商隊が揉めていたのも怪しい……時間稼ぎだったのかもしれない。

 疑い始めたらきりがない、が……



 殺気を感じた──その瞬間、同種だと分かった。

 

 目の前を歩いてくるのは、傭兵か。



 ゆっくりとこちらを見上げてきて、目と目が合った瞬間──

 


 最初は横薙ぎに払われたかと思った。

 斜め横から強烈な衝撃が襲ってきて、落馬しないように踏ん張ることしか出来なかった。


 鼻と口から血が流れる。


 首に矢が刺さっていた──




 もう助からない──致命傷なのはすぐに分かった。


 ならば、最期に自分が出来ることをしなければ──

 意識が遠くなり、崩れるように馬から落ちた。


「人殺しぃ!」

「矢が!襲撃だあっ!」

「逃げろぉ!」

 人々がパニックを起こし逃げ惑う。


 途端に蜘蛛の子を散らしたように通りから人が消えた。


「とっととくたばれや。汚え恰好だあな。服だってこんなにボロいんじゃ売れやしねえ」


 柄の悪い傭兵が剣を落馬した男の胸に突き立てる。すぐに抜いて一振りし血を飛ばして鞘に収めると、虫の息の男を蹴飛ばして仰向けにする。

 上着が不自然な膨れ方をしているのが見えた。


「あったあった。あぶねえ。剣で突き立てちまうところだった。これですかね?旦那」

 

「どれ……確かに。そこの建物を燃やせるか?こいつを一緒に燃やしたい」

 旦那と呼ばれた男が、筒から離婚証明書を取り出して握りつぶしながら言う。

「おっと、建物ごとっすか?この領とは同盟を組んでるんじゃないんですかい?」

「構わん。やれ」


 "やれ"というのは傭兵に向けて言った言葉ではない。

 その証拠に、矢を放った別の傭兵が息の根を止められ、屋根から転がり落ちてくると、傭兵は自分の身体を見て目を丸くする。


 身体には何本もの剣が突き立てられていた。

「なっ……」

 息絶え崩れ落ちた傭兵をゴミでも見るように見下ろすと、旦那と呼ばれた男と周りにいる数人の男は、その後三つに増えた死体に目もくれず立ち去った。





 早馬の男は息絶える瞬間、最期の声にならない声を紡いだ。

「メリアーナ様……これからの幸福をお祈り申し上げます……」

 

 幾人もの命を奪ったことを無かったことには出来ない。


 だが……

 このような魂でも救われることがあるのだ……



 最期に男の脳裏に浮かんだのは、風に揺れる白銀の髪と向けられた笑顔──


『あんたの道の先に、白銀の光が常に差すことを祈っているよ』


 白銀の光が降りてきて彼の身体を包み込む。それは幻覚だったかもしれないが……


 男の豊かだった終盤の人生が静かに幕を閉じた──





 関わり合いになりたくないフラナド領の同盟領民たちはとっくに逃げ去り、もはや用無しとなった男の亡骸を顧みる者はいない。

 

 そこに一つの長い影が近付いてくる。

 馬から下りた男は呟いた。


「間に合わず済まなかった。だが目的は達したぞ……安心して旅立つといい。あとは我らが引き継ごう。ベルシュタイン侯爵家門に忠誠を誓う同門に哀悼の意を」

 そう言って胸を右の拳で二度叩くと、男の裏打ちされた外套のフード部分を確認して剥ぎ取り、馬に跨るやいなや姿を消した。


 男の亡骸に近付いたのは、王都のタウンハウスを出発した影の一人。

 回収したのは、押印された正式書面である離婚証明書。早馬の男は二枚の離婚証明書を隠し持ち、一枚は奪われたものの、もう一枚は文字通り死守したのである──



 シグネチャーリングである印章で押印した離婚証明書は三枚。

 うち二枚はフラナド伯爵とメリアーナがそれぞれ控えとして所有している、はずだった。


 が、本来は控えなど必要ない。

 王城に保管される一枚のみがあればよい──


 

 メリアーナと書記係は一計を案じ、フラナド伯爵とその家臣たちが、初婚で離婚手続きには詳しくないのを逆手に取って、二枚の予備を作製していたのである。



 こうして離婚証明書は新たな早馬に引き継がれ、王都を、そして最終的に王城を目指す。

 追手も味方も一つ所に集結しつつあり、離婚証明書を巡る攻防は王都で決着を迎えようとしていた──




  ◇ ◇ ◇ 



 

 話は伯爵ら領地視察ご一行が、薬と酒のせいで酷い頭痛と共に目覚めた頃に遡る──

 メリアーナたちがフラナド領主館を出発した翌日。


 酷い頭痛に悩まされはしたものの、ようやく回復した書記頭と筆頭補佐官は執務室で調べ物に明け暮れていた。

 薬を盛られたことで、時間を稼がれているという思いが頭から離れなかったのだ。


 学んだ己の知識では全く記憶にない、離婚証明書の枚数。

 一枚は確実に王城の書類保管庫に保存されるため必須だが、控えなど必要だっただろうか。控えがあったところで、正式に受理されてしまえば何の意味も為さないのではないか?


 答えはほどなく見つかった。


『……ありましたぞ!やはり控えなど必要ありませぬ!』

 執務室の書棚には、各種手続きの事例集が並んでおり、ようやくそれを見つけ出したのだ。


『つまり、一枚にサインし、その横に印章による押印──この離婚証明書を王城の法務室に提出ののち、国王陛下の印璽を戴くべし──そうして正式に離婚は成立するとな』


『あの小娘……三度の離縁を経験しているだけのことはあるのか。度し難い。悪知恵が働きおる』


 忌々しい表情を浮かべて、筆頭補佐官は書記頭を見た。以前から汚れ仕事は彼に任せている。同じ子爵家だが、家格はこちらが上なのだから当然のことだ。


『追っ手はどうなっておるのだ?この館に離婚証明書は残っていない。そうだ、あの小娘が控えを持ったまま帰還している可能性は無いのか?いざとなってその控えを提出されたら一気にこちらが不利ではないか』


『それも心配ありませぬ。お家乗っ取り疑惑がある以上、こちらが "シグネチャーリングを盗まれ勝手に使用された" ということにすれば、国王から印璽を頂く前に離婚証明書自体が無効となるでしょう。守りの固いあの小娘一行側が王城への行動を起こしていないところを見ると、そのことを予測しているでしょうから、我らが領から出立した早馬からの、離婚証明書への国王の印璽がベルシュタインには必要なのですよ』

『そ、それなら、こちらから打って出て印璽を頂く前の離婚証明書を無効にしてしまうのが、一番良いのではないか?』


 書記頭は、本当に貴方は筆頭補佐官なのですか?と問いたかった。

 もらえる給金の額も荘園の面積も相手のほうがずっと上。同じ子爵位ではあるが、家格が違う。厳然たる事実にやりきれない気持ちになる。生まれてきた家が違うだけなのに。

 だが、今回の件で実行してきたのは自分だ。うまくやれば評価されるのは間違いない。そう思い、留飲を下げることにした。


『こちらから訴え出ると、今執務室にある膨大な未処理の書類のせいで不利になること間違いなしです。それがあるからこそ、向こうもシグネチャーリングの押印だけで終了する書類を貯めこんでいたのでしょう。今度はこちらの"シグネチャーリングを盗まれた"が通らなくなるのですよ』

 

 筆頭補佐官はがっくりと肩を落とした。

『となれば、三枚とも王城に向かっていると考えるのが妥当であろう。周到さに反吐が出るわ』

『こちらから伝令鳥を飛ばして、王都で集中的に早馬を迎え撃ちましょう。これまで手配した追っ手はそのままに。一枚ずつ確実に消しましょうぞ』

『王都で騒動を起こせば罰則の対象にはならぬか?』

『傭兵や平民がいくら騒動を起こしたところで、単なるいざこざで片付けられるでしょう』

 お主のほうがよほど悪人だな、筆頭補佐官の言葉に、書記頭は目を細めた。


『同盟領への手配は?』

 書記頭が渋面になった。

『それが……やはりベルシュタインと表立って敵対したくないようで、積極的な支援は望めませんが、城門を通過する者を注視し、そのための人員を割くと応答がありました』

『なんと消極的な』

『致し方ありませぬな。そちらにも伝書鳥を用いる者と部下共を既に到着させております』

『同盟領に忍ばせている間諜か』

『左様で。傭兵を雇って、早馬を消す準備を整えたようです』

『その傭兵たちも厄介だな……』

『心配には及びません。これ、ですよ……』

 書記頭は手刀で首を横に斬る仕草をしてみせた。

『傭兵なぞ、所詮裏切りの中で生きるゴミ共よ。逆に裏切られて命を落としたとて、当然の報いよな』

『ですな』

 二人はニヤリとする。

『離婚証明書が三枚あるということに気付けたのも我々の実力のうち。ベルシュタインには後悔させてやりましょうぞ』





 そうしてメリアーナがフラナド領を去ってから四日。

 現在に至る──



「最初に始末した早馬が持っていた離婚証明書も処分し、間諜が持ち帰ったもう一枚で計二枚を処分し終えました。最後の離婚証明書は王都で何としてでも始末するため、準備を行ってまいりましたが……早馬の死体から何かを回収したあと、町を去る新たな早馬を目撃したとの情報が同盟領からありました。これでどのように王都に入り込むか探り出さなくてもよくなりましたな」


「つまり、その早馬が最後の一枚を持っている可能性が高いというわけか。何故最初から二枚持っているかの確認をしなかったのか叱責したいところではあるが……では王都に戦力を全集中させ、迎え撃つとしようではないか」


(早馬が三枚のうち二枚も持っているなんて誰が考える?)

 文句ばかり言って何一つ実行しようとしない筆頭補佐官に苛つく書記頭ではあるが、今更である。


「ただ、早馬への攻撃がバレたら、即開戦の口実を与えてしまうが、それは大丈夫なのか?」

 実行力に欠け差し出口だけは立派で臆病──わざわざ組む必要もない男だったかもしれぬな。そう書記頭は考えるが、旨い話を持って近付いてきて、散々税の上澄みを掠め取ってこられたことも事実。


「それがですね……ここだけの話ですが……」

 書記頭の声が小さくなった。

「それは……まことか。狂信者を使うとは……考えたな」

「お静かに。どこに耳があるか分かりませぬ」

 筆頭補佐官に釘を刺すのを忘れない。

「これで平民共のいざこざということで事を運ぶことが出来るでしょう」


 二人の企みは既に後に戻れないところまで来ていた──



 ◇ ◇ ◇




 一頭だと特定される恐れがあるため数を増やした六頭の早馬は、とうとう王都をぐるりと囲む三重城壁の一番外側にある第三正面門をくぐった。

 外門から近い下町を現在は通過中である。


 下町の建物は大半が木と煉瓦との混構造で、改築に改築を重ねた五階建ての建物があるかと思えば、井戸への屋根付き通路の高さはそれほどではなく、店舗付きの建物は三階建て、と高さは様々だ。

 屋根の勾配も北部に比べ、雪は年に十日も降れば寒い年と呼ばれるほど温暖なため、緩やかな傾斜のものが多い。


 この時から早馬のうちの一体が、ベルシュタインの紋章が描かれた旗と、その真下に早馬であることの証である赤い布を結び付け掲げており、最も広い街路を速歩(はやあし)で駆け抜ける。


「おや、何かあったんかね。ベルシュタイン侯爵家の早馬じゃないか」

「二匹の鷹の紋章、あれはベルシュタインの旗か」

「そうそう」 

 通りを歩く者は早馬を避けながら、カウンター付き家屋まで移動して、暇を持て余す店主らと話し出す。

「早く家に帰ろうかね。嫌な予感がプンプンするよ」

「王国の守護神の早馬なんてね……少なくとも良いことじゃないだろうよ」

「全くだ。早馬が通るときは、ろくなことが起こらな……ひいっ」


 おしゃべりに興じていた女たちの近く、風を切るヒュンという音がしたかと思うと、一本の矢が地面に突き刺さった。

「言わんこっちゃない!」

「早馬への襲撃か!?」

「危ないぞ!家に入れ!」

 途端に辺りが騒ぎに包まれる。



 屋根の上で戦闘が始まった。


 六人もの射手が一斉に早馬に向けて矢を放とうとしているところに、覆面の一団が襲い掛かった。

 射手は近接攻撃にはめっぽう弱い。近付かれたらひとたまりもないので、本来ならこのような中間距離には配置しない。射手の中には、やむなく射程距離の短いクロスボウに持ち替えた者もいる。

 射手を雇った者が戦闘に明るくないことがそれだけで知れる。あるいは、同盟領地の時のように一方的に蹂躙出来ると踏んだ、愚かな考えか。


 間に合わず一本の矢が放射線を描き、通りに突き刺さったが、他の射手は矢を射掛けること無く、ある者は首を折られ、ある者は弓ごと大剣で薙ぎ払われた。


 屋根の上での戦闘中、早馬たちは一斉に走り去り、蹄の音が消え去らぬうちに、射手たちは次々と屋根から落下していくが、馬上の者たちが振り返ることは無い。


 早馬の最終到着地点は王城。このあと早馬たちは第二正面門を通過し、大聖堂やいくつもの広場、商店が立ち並ぶ区画へ入っていくことになる。





 同時刻、一台の馬車が王城から王都に向けて移動を開始した。


 見た目は地味な箱馬車ではあったが、馬車の周囲と前後には護衛の騎馬が多数配置されており、明らかに箱馬車に乗っている人物は只者ではない。


 城門を通過し、堀を超え更なる門をくぐり貴族街に入ると、馬車の中の男が呟いた。


「ベルシュタインめ……私を使うとはな。……だがメリアーナのためだ」

「この先は危険が伴います。早馬を狙う賊はかなりの数のようです。決して好奇心で窓から覗かれませんよう」

「私は子供か」

 ふるふると首を振ると、男の見事な金髪が揺れる。

「懸念から申しております」

「危ないことなどせぬ。全くお前はうるさい」


 うるさいと言われた男はため息を吐くと、子供を諭すように言った。

「単体からの攻撃であればある程度の予測もつき、我々や近衛、ベルシュタインが一網打尽にすることもそう難しくはありませんが、万が一"窮鼠猫を噛む"のような事態となれば、何が起こるか分かりませんので」

「相手が傭兵だからか」

「はい。手段を選ばないでしょう」




 ◇ ◇ ◇




 比較的品のいい商店や大聖堂がある区画と、貴族街を挟むようにそびえる城壁に備わる第一正面門──

 早馬と馬車がそれぞれ挟み撃ちにするかのように向かっている門である。

 そこで小さな問題が発生していた。


「荷馬車はここからは入れん!」

「……はぁ?耳が遠くていけませんや。何と言いましたかのお?」

 衛兵が何度言っても埒が明かないので、次第にイライラしてきているのが分かる。

「東西門の先の通用門に回れと言っている!」

「……何ですと?こっから入れるって聞きましたがねえ?」


 樽がぎっしり積まれた荷馬車が第一正面門前で立ち往生していた。

 城や貴族街では食料品などは天候に左右されにくい馬車で輸送されるが、大量の野菜屑の回収だったり、洗濯物の外受けだったりと荷馬車の用途はいろいろある。


 衛兵と荷馬車の御者が押し問答している間に、蹄の音がぐんぐん近付いてくる。


 早馬たちが広場を通過し、大通りを走り抜け、とうとう第一正面門まで到達したのだ。


 第一正面門をくぐれば貴族街、その先が王城となる。



 蹄の音が聞こえた途端、荷馬車の御者は俯いてガタガタと震え出し、何かを呟き始めた。


「おいっ、何だ?何を言ってる……」

「……おわす方に幸いあれ……ああ……お慈悲を神よ……この身粉々になろうとも……」

 衛兵が問いただしても、ブツブツと呟くばかり。

 だが、御者が両手を天に向けて大きく広げると、衛兵がぎょっとしたように叫んだ。

「狂信者だ!」


 狂信者とは、自らが大義の犠牲となれば楽園に迎え入れられると信じて疑わない、自らを最も神に近しいと考える者たちである。

 傭兵は言葉巧みに誘導し、魔塔から破門された魔導士が生み出した悪魔の道具、爆破用の火を積んだ荷馬車の御者として利用することに成功したのだった。



 狂信者が両手を広げると同時に、火矢が荷馬車目がけて放たれ……

 そして──



 紅い閃光が走り、鼓膜が破れるほどの爆音と共に地面が揺れる。すぐさまやってきた爆風で、付近にいた人々が次々に吹っ飛んだ。


 早馬の先頭は第一正面門でトラブルがあったことを察知し、馬首をめぐらそうとしたが間に合わなかった。

 馬と共に吹き飛ばされ、後方の石造りの建物に激突する者や、街路の相当な距離を吹き飛ばされた者もいる。


 門近くは煙と粉塵とで霞み視界が悪いが、そもそも正面門は貴族以上の者たちが使用する門のためか、周囲の人の数はそれほど多くはない。

 御用聞きの馬車は左右の東西門に向かうので、最初から正面門の付近にはおらず、吹っ飛んだ衛兵の数も少数で、すぐに貴族街方面から衛兵が爆音を聞き駆けつける。と同時に貴族街のベルシュタイン侯爵家や、その同盟領のタウンハウスからは続々と救援人員が動き出した。


 貴族街の大通りを、脇目も振らず馬車が駈歩(かけあし)で走り抜ける。


 衛兵らの近くを通り過ぎるが、前後左右を固める騎馬の一団が特徴的であることに加え、馬車に描かれた紋章を見て、行方を遮る者はいない。


 やがて御者の視界に第一正面門がその姿を現した──



 

 危機を察知した最後尾の早馬は、爆発直前で建物の横にある裏道に入り難を逃れていた。


 上級街区であるので裏道もそれなりに広く、早馬はすぐに方向転換し第一正面門に向かって、喧騒と倒れた人々と、向かってくる救援を避けながら走り出した。



 爆風を避けるため屋根に張り付いていた射手たちが次々に立ち上がり、矢をつがえる。

 目標は未だ倒れていない、走り出した早馬。


 既に爆発の前から戦闘が始まっており、ベルシュタインの影たちが射手を阻んではいるが、とにもかくにも射手の数が尋常ではない。王都で何としてでも早馬の持つ離婚証明書を処分しようとする本気度が伺える。


 

 影の殲滅スピードでも追い付かず、数名の射手の弓が引き絞られる直前、


「どけどけどけーっ!!」


 馬車が早馬を護るように急停車する。


 暴挙ともいえる馬車の行動に、慌てた護衛の騎馬の一体が防御結界を張ったが、間に合わず数本の矢が馬車に突き刺さった。

 余りの急展開に周囲の衛兵たちは息を呑むばかり。


 それでも目の前の馬車の存在ごと、ただ事ではない事態なのはすぐに理解する。

 

 馬車の扉には──向かい合う二匹の獅子──が金で描かれており、王族の馬車であることが一目で見て取れる。



 扉が開くと、一人の金髪の美丈夫がステップを踏んで馬車から降り立った。

 姿を目にした衛兵たちが、ざっとさざ波を立てるように跪いていく。


「王太子殿下」

 名はアルサージュ・レイニエ・ライカード。

 王族特有の陽だまりのような黄金の髪と群青色の瞳を持つ、ライカード王国の言わずと知れた王太子である。

 

 張りのある、よく通る声で指示を出していく。

「ああ、立つがよい。負傷した者の救護活動を優先せよ。衛兵と魔導士はこの騒動を起こした者たちを捕縛し、鎮圧するよう動け」


 王太子の言葉を受け、護衛の騎馬の一人である近衞隊隊長も、馬を操りながら声を上げた。

「王族の馬車を攻撃した者どもを即刻捕らえよ!」


 馬車を護衛していた騎馬は近衛だけでなく魔導士も混じっており、集合した衛兵たちも含め、王太子の命により直ちに動き出した。

 たちまち賊は自決することも叶わず捕縛されていく。




 馬と共に爆発に巻き込まれた早馬の男の元に、ベルシュタイン侯爵家のタウンハウスから駆け付けた男が近付く。

 馬の下敷きになっていて瀕死の重傷だったが、直ちに息絶えていた馬はどかされ、魔導士が付ききりになって救命措置を施し始めた。

 負傷者を励ますのが一つの延命であることを知っているので、声を掛け続ける。

「大丈夫だ。重傷だが助かる。よくぞ辿り着いたな」


「こ、これを……」

 ようやく手が動くようになった男の懐から耐水筒が取り出され、手渡されると男がハッとする。

 魔導士に後を任せ、すぐに顔見知りである馬車から降りたもう一人の男、王太子の懐刀である側近に歩み寄り、筒を預けた。


 側近は黙って頷き受け取ると、安全を確認してから王太子に手渡す。

「殿下、こちらを」

「ようやくか」


 

 筒から一枚の書類を取り出すとメリアーナの筆跡を見つけ、王太子の頬が緩む。

 彼にとって王国の守護神と呼ばれるベルシュタイン侯爵家門の生まれであるメリアーナは幼馴染であり、初恋の女性でもある。


 手に取ったのは最後の一枚となった離婚証明書──再び筒に戻すと、王太子は誰ともなく呟いた。


「確かに受け取ったぞ。借りは返せる時に返さないとな」




 ◇ ◇ ◇




 城にあるわたくしの部屋は綺麗なまま維持されていた。


 応接部屋も、自室と繋がっている学習室もそのままで、急ぎの用件を片付けてしまうことにする。


 お父様が書記役を何名か寄こしてくれたので、紙とペンを用意してもらい待機していてもらう。

 使用人たちが城の大食堂で早めの夕飯を食べているうちに、彼らの住む部屋を確保しないといけない。


 フラナド領出身者で、ベルシュタイン領への移動に付いてきてくれたのは五十人ほど。

 仕事の種類が多岐にわたるメイドが一番多くて、次は料理人に給仕、庭師に書記。下男に馬丁に御者……いろいろな仕事があるわね。


 メイドと料理人、給仕と下男、馬丁と御者は住み込みなので、手配は難しくない。

 庭師は住み込みか通いか選択してもらい、通い希望なら城下に部屋を用意するか、住み込みなら庭園から少し離れた土地に庭園管理所が置かれている館があるので、館内部の一室を使ってもらうことになる。そこには造園計画や庭園の維持管理、修景を担当する者たちが何人も住んでいて、道具の管理も仕事の一つだ。

 書記は読み書きが出来る平民なので、城内に専用部屋を用意する。

 ベルシュタイン侯爵家の書記は爵位を持つ者が多くてほとんどが通いだけれど、上手くやってくれるでしょう。


「……これでいいと思う?ギルバート」


 全員の名前を書いた数枚の振り分け表をギルバートに手渡すとき、群青色の瞳が綺麗でじっと見つめてしまった。

「──よろしいかと」


 ギルバートが待機させていた書記役たちに一枚ずつ振り分け表を手渡しながら差配を済ませていく。

「……こちらは家令と相談しつつ、こちらはメイド長と相談ですね」


 書記役たちが退出すると、ギルバートがぼそっと呟いた。

「お嬢様。そんなに見つめられると、顔に穴が開いてしまいます」


 ハッとする。

  

 そ、そんなに見つめていたかしら……

 ギルバートのことを好きって自覚してから、二人きりになれていないのだもの。今も侍女たちが後ろに控えているし……

 ギルバートはお父様至上主義だから、二人きりになったところで、何かがあるわけでも無いのだけれど……


 やっぱりわたくしの片思いなの……?




 急いで湯あみを行いドレスの着付けをお願いすると、自室にはミランダとその母親が待機してくれている。


「ああ、懐かしい……マーサ!三年ぶりね」

「姫さま。お久しゅうございます。娘は……ミランダは務めをしっかり果たしておりましたか?」


 ミランダが審判を受ける人みたいに神妙になっているけれど、そんなに縮こまらなくても大丈夫なのに。


「期待以上によくやってくれたわ。侍女頭だったのが(お給金的に)良かったのね、きっと」


「さようでございますか。ですがベルシュタインでは侍女頭を譲る気は(お給金的に)ございませんよ」


 うーん。さすが親子。


 ミランダが嬉しそうに、夜襲の時にお父様に助けてもらったという話をすると、マーサはピクリと眉を上げた。

「あとで詳しく。訓練量を増やしたほうが良さそうね、ミランダ」


 おええ、というとても乙女の顔とは思えない変顔になってミランダが肩を落とした。


 訓練量か……ドレス入るかしら……ずっと館にこもっていたから腰回りが特に不安だわ……


「晩餐の時間まであっという間ですからね。小侯爵様が新たにしつらえたドレスがございますよ!お輿入れの時から毎年仕立てさせておりましたから」


 それは安心……って、お兄様、三年間も何やってるの。

 しかもわたくしのサイズを一体どこで……


 ミランダとマーサが揃ってそっぽを向いた。

 ……売ったわね。わたくし(のサイズ)を──






 晩餐の席につくと、お父様が衝撃的な言葉を口にした。



「お父様、それは本当ですかっ!?」


 本当に驚いた!

 だって……


「使えるものは何でも使う。基本だろう。二度目の公爵家との婚姻で王家は我らに借りがあるのだから」


 ええ、それはそう。けれど……

「王太子殿下まで巻き込んでしまったのですか!」


「こういう時権威は便利だよねえ。最終的に王都で早馬への襲撃が一番激しくなると予想していたからね」

 お兄様はにっこりと満面の笑みをこぼした。


 王太子殿下が"たまたま"視察のため馬車に乗り王城を出発し、"たまたま"王都で早馬が襲われているところに遭遇し攻撃を受けつつも"たまたま"発見した離婚証明書を回収したとか。


 誰がそんな"たまたま"を信じるというの?


 だが結果が全てだ。

 離婚証明書に無事国王陛下の印璽を頂き、わたくしは晴れて三度目の出戻りを果たした。


 聞けば、早馬も犠牲になったとか……

 影の護衛として数年の付き合いではあったものの、彼らとの想い出は数多く、生き残るための知識をたくさん学んだ。


 元傭兵たちの魂が今安らかであることを祈らずにはいられない。

 



 王太子殿下の視察は中止となり、王族暗殺未遂のかどでフラナド領地の荘園を預かっていた子爵家門は滅亡したという。



 ◇ ◇ ◇




 その後、世間を大いに賑わせた裁判では──




 フラナド伯爵は最後までベルシュタインのお家乗っ取りを主張し、持参金の使い込みを正当化しようと目論んだ。


 妻が不義理を行った際、夫は妻の財産を没収する権利が過去の判例で認められている。

 妻であるメリアーナがお家乗っ取りを企んだため、夫の自分が持参金を没収したのは当然の権利なのだと。



 身分詐称共犯罪と婚姻契約不履行、その二つにおいても、伯爵はとんでもない主張を繰り広げる。


 

『愛人を伯爵夫人として同行させたのが明らかになっている。愛人の身分は平民であり、貴族として身分詐称すること、正犯の身分詐称を知りながら隠し立てすることは共犯となり重大な犯罪となる』


『な、何か証拠でもあるのか!?私と妻メリアーナが領地視察を行っていたのは紛れもない事実で、現在ジゼルは伯爵夫人となってはいるが、当時の身分は平民だった。妻として同行させるはずがないだろう!』



 ──確かに、"伯爵夫人の容貌はこのようだった"といくら証言があっても、言葉だけでは確たる証拠にならないし、元妻であるメリアーナが同行していないと証言しても、等しく言葉だけの証拠なので立証は不可能なのである。


 現地で現場を取り押さえるか、映像記録装置に記録が残されていれば証拠として提出出来たのだが、時すでに遅し。


 接待に積極的だった、フラナド領の荘園管理者である複数人の貴族らも証言台でメリアーナを指さし、"妻として同行していたのは確かに彼女だ"と偽証を行った。


 これが通れば身分詐称と契約不履行が、そもそも問えなくなる。



 誰もが息を呑み成り行きを見つめる中、領土法によりベルシュタイン侯爵家の新たな寄子となったマール男爵が、自らの館で使用された、ジゼルの毛髪がついたブラシを証拠として提出したのだが、一笑に付されてしまう。


 マール男爵とは、メリアーナがフラナド領の執務を行っていた時期に、更なる豪華な接待を要求されたため陳情の手紙を送った人物だった。


 この時代の男爵位は先祖代々の土地を持つ者の爵位であり、また寄子として組み込まれた領土を治める寄親に仕える貴族のことを指している。


 領土法とは、領地における領主の決裁が一年(更に状況猶予一年)以上滞った場合、領土を治める家門が自由に仕える領主を選べる(荘園管理者を除く)法である。


 

 これまでは毛髪の比較は正確性に欠け確たる証拠とはならなかった。だからこそ人々は失笑したのだが──

 

 人はごく僅かであっても魔力を有しており、そのことに着目した魔導士が、魔力を照らし合わせる鑑定法を法廷に提出し、この裁判で史上初となる"鑑定の採用"が行われたのである。



 毛髪に含まれる魔力を照らし合わせる鑑定は、虚偽の鑑定を行った際には命が断たれる"血の宣誓"をした魔導士が行うこととなり、結果ジゼルの有罪が確定した。


 

 裁判は国王の名のもと行われるため、偽証は重い罪となる。

 偽証した貴族らも爵位を剥奪されることとなった。





 このようにして、裁判で勝訴したベルシュタイン侯爵家門は、フラナド伯爵家門に対し、国王陛下の御名のもと領地戦を布告することになるだろう。




 後日──



 ジゼルは身分詐称罪で有罪確定となり、最期は絞首刑に処された。


 

 処刑場への道行きで彼女は無数の石に打たれる。




 ジゼルの人生は、平民出の愛人から、伯爵夫人にまで昇り詰めた出世物語として語られる未来もあったかもしれない。


 だが彼女の嫉妬深く苛烈な性格がそれを妨げた。

 

 伯爵が手籠めにしたメイドを解雇したのはジゼルだった。

 紹介状も持たせず館から放り出した。それも一人や二人ではない。


 紹介状を持たない女性が働くのは底辺と呼ばれる場所に限られる。

 理解しながらも躊躇しなかった。

 伯爵を誘惑する者を決して許さなかった。



 そんなメイドを知る者たちが、処刑場には何人も居たことだろう。

 石を持ち、ジゼルから視線を決して外さないよう復讐の炎を灯して──




 ◇ ◇ ◇





『我がベルシュタイン侯爵家門はフラナド伯爵家門に対し、国王陛下の御名のもと領地戦を布告する』




 ベルシュタイン三度目の領地戦はフラナド伯爵領の要塞攻防戦を提案することになった。

 『慈悲を施す行為』の発動とあって、世論はベルシュタインに好意的だ。


 これなら要塞のみが戦場となり、ベルシュタイン側に不利な攻城戦とはなるが、フラナド領民とその土地は無事だからだ。


 ベルシュタイン侯爵領は魔素量が多く、生まれつき魔力を持つ子が生まれやすいことでも有名である。

 お兄様はお父様と同じ全属性を操ることが出来、そのためベルシュタイン領は『二人の戦神がいる領』と言われている。


 戦力差があるのは誰もが知るところであり、兵士募集人がフラナド領を飛び回り、恐喝や詐欺にも近い手口で領民を兵士として軍に組み込むのをわたくしが望まなかった。


 ベルシュタイン領でも兵士募集人はいるが、あくまでも希望兵のみ契約を行うよう指示されている。



 同盟領地からも領地戦参加表明が届き、各地からベルシュタイン領に向けて出発した兵が続々集結してくる。


 集結場所であるフラナド領に一番近いベルシュタイン領の要塞は、日を追うごとに収容人数が膨れ上がり、いやがうえにも士気が高まっていった。




 当然のことながら、わたくしが領地戦に参戦することを家族は反対した。


 最終的に"メリアーナが参戦すると、この領地戦が復讐戦の色合いが濃くなる"と指摘され、ベルシュタインに残ることにする。


 ジゼルを始め、何人ものフラナド貴族が既に処刑されており、わたくしが姿を見せれば復讐戦となるのは避けられない。そうなれば殲滅戦となるので泥仕合になる可能性が高くなる。

 味方陣営の被害が顕著になるのでそれだけは避けたい。


 背中に傷を負ったミランダのように、わたくしを守るために犠牲になる者を増やしたくなかった。


 とは言え、皆を見送り、帰還を待つだけの日々がやってくると思うだけで憂鬱になる。



 しばらく刺繍に集中していれば、この気鬱も紛れるかしら……

 



 ◇ ◇ ◇




 刺繍に専念していたら、あっという間に時間が過ぎて、とうとう皆が出陣する日がやってきた。

 

 見送りのために城の正面門に立つと、騎乗しているお父様とお兄様が馬をこちらに向け馬上で礼を取った。

 家を守り帰還を待つ女性に行う、騎士の礼。


 時折風が吹き、白いドレスの裾をもて遊ぶように揺らす。


「名誉を取り戻すために」


 お父様がそう言うと、隊列を組んでいる騎士と騎兵たちが一斉に復唱する。


「名誉を取り戻すために!」


 二人がわたくしを挟むように馬を左右に近付けてくる。

 領花の赤薔薇を刺繍したハンカチをそれぞれに手渡すと、二人は柔らかく微笑んだ。

 出陣を見送る儀式だけは、永遠に慣れそうもない。


「勝利を貴方たちへ」 

「勝利を我らに」

 



 ……ギルバートはどこ?

 

 最後の最後まで隊列の調整に忙しかったらしく、出陣直前になってわたくしを見つけたギルバートが馬に乗ってこちらに近付いてくる。



「メリアーナ」


 ……あ、名前呼びだわ……

 久しぶりに聞く優しく甘い声に胸が高鳴った。


「ギルバート……ご武運を」

 そう言ってギルバートの名を刺繍でいれたハンカチを、片方の手で袖を押さえながら腕を伸ばして手渡そうとすると、ギルバートがいきなり馬から下りてわたくしを抱きしめる。


 いきなりのことにびっくりしてしまい、心臓の鼓動が速くなったのが分かる。

 皆が見ているわ……どうしちゃったの?


 お父様がこちらにやってこようとするお兄様を制しているのが見えた。



「……連れて行きたいが叶わない」

 不安が限りなく入り混じった声が聞こえた。


「それならば、せめて」

 吐息のかかる距離で、ギルバートが耳元に囁く。



「メリアーナ。私が貴女の代わりの目となり、この領地戦の全容を見届けてこよう」


  

 ……ああ。 


 いつでも貴方はわたくしの欲するものを分かってくれる。

 一緒に戦いたかった──隠していた無念さという澱がゆっくり溶けていく……


 名残り惜しそうにギルバートが離れると、いつの間にかハンカチが握られていて、ギルバートが名の隣に小さく刺繍した赤薔薇に口付けているところだった。

 それを見て思わず惜別の念に駆られる。


「我が領地に無事の帰還を」

「勝利を我らに」 


 声が震えないようにするのが精一杯だった。




 角笛が吹き鳴らされ、ギルバートが馬に跨る。

 

「必ずメリアーナの元に帰ってくる。だから無茶なことをせず大人しく待っていてくれないか?」


 む。それじゃまるでわたくしが暴れ馬みたいじゃないの。

「淑女らしくちゃんと待っているわ。ギルバート」

「それこそ信用出来ない」

 もうっ!


 でも……分かっているの……

 わたくしが泣かないようにわざと軽口を叩いてくれてるって……




「………している」

  

 風がいっそう強く吹いて、ギルバートの声が掻き消えた。


 ……えっ?


「いま、なんて?」


 自分の耳が都合の良い言葉を拾ったのではなく?


 尋ねようとしても、ギルバートの乗る馬はすでに遠く離れて小さく見えるばかり。

 

 愛している、って聞こえた気がしたわ……

 本当に……?



 隊列は第三門に向かって整然と進み、所属ごとのいくつもの旗が風で揺られ鮮やかな光彩を揺らしている。

 


 やがて隊列は門の向こうに吸い込まれるように見えなくなった。





 ◇ ◇ ◇





 領地戦は、ベルシュタイン勢がフラナド勢の要塞防衛を突破し、勝利した。



 ほとんどの同盟領に見捨てられ、寝返られ、反目し合う状況は、かつてベルシュタインが通った道でもある。

 二度目の公爵家との領地戦がそうだった。


 今回の領地戦、フラナド領にとって友軍がいなかったのが全ての敗因では無いしね……


 以前フラナド領内で、大勢の傭兵が死んだまま打ち捨てられていたのは誰もが知る話だ。それが決定打となり、傭兵を雇えなかったようだもの。


 圧倒的戦力差は分かっていたはずなのに降伏せず、それでも戦い続けたのは、蛮勇だったのか、膨れ上がったプライドのせいなのか──


 そもそも、お父様とお兄様と敵対しようとは思わない。最初から前提が違っているわ。





 お父様もお兄様も、この領地戦の出来事を決して語ることがないのはわたくしへの配慮だろう。


 でもね、二人は知らないけれど……


 ギルバートは約束を果たしてくれた。時折大きく揺れてブレる水晶の映像記録を見せてくれたから──

 映っている映像がわたくしの知る領地戦の全て。


 どんなに戦場での情け容赦の無い映像であっても、最後まで見届ける。それがけじめでもあった。 



 領地戦最終盤、決して見ることのない厳しい表情のお父様とお兄様が映っており、背後の要塞はあちこちが崩れ、爆発し、火の手と煙に包まれていた。 

 もはやただの石の塊と化した建物の残骸や、それすら残っていない空間もある。

 二人は城壁のどこかに立っているようだった。


 お父様が魔導士たちに向けて、無造作に何かを放り投げた。 

『これを破壊せよ。消し炭にし、塵一つ残すな』


『御意』

『喜んで』

 お兄様の声も混じっている。


 カツンカツンと何かが落ちて転がった音がした。

 魔導士たちがよってたかってそれを燃え上がらせ、最後には何も残らなかった。



 ……粗く、揺れる映像だったけれど、それでもわたくしには見えたの。

 無造作に投げられたそれが、切断された人の小指だったのを──




 フラナド伯爵家は取り潰され、その領地はベルシュタイン侯爵領とその同盟領、近隣の小領地に分割され、組み込まれることとなった。




 ハルトムート・フラナド伯爵の亡骸は弔われることなく野晒しのまま朽ちていく。


 当主の証であるシグネチャーリングは切断された左手小指ごと消え去っており、その行方は杳として知れない。






 ◇ ◇ ◇





 領地戦が終結したニか月後──



 騒がしかった周辺もようやく静けさを取り戻した。


 領地戦は戦いのあとのほうが忙しいわ。

 皆が帰還するまで、城で待っていただけなので余計にそう思うのかもしれない。


 本当は待っている間も庭いじりをしたかったのだけれど、庭の手入れが余りに完璧過ぎて、わたくしの手を入れる余地がまるでなかった。

 今日も庭を歩いて、庭師から改良した肥やしや新種の植物、水景施設の設計についてなど、興味が尽きない話をたくさん聞いている。


 中でも特に、高低差を利用した噴水にはとても惹かれる。

 確かに少しずつ傾斜があるから十分可能だと思うし、動力も水圧を利用するようだから素晴らしいわ。


 あまり長居すると、日焼けしてしまって、庭に出ていたことがギルバートにすぐにバレてしまう。

 戻りましょう、そうしましょう。


「ガルディ、ミランダ、待たせてしまったわね。そろそろ戻りま……」

「お嬢様」


 ……あ、手遅れ……






 ここ二か月の間は、戦後の対応にも追われた。


 ベルシュタインに戻って来た騎士たちの慰労はもちろん、二度目の領地戦で最大盟友となってくれた辺境伯様も城に何日か滞在していった。


 辺境伯様はお父様より少しだけお若くて、やはり年齢不詳に見えるお方なのだけれど、そういえばお茶している時にこんなこともあったわね……



『辺境伯様、お身体の具合は如何ですか?』


 二度目の領地戦では、辺境伯様が参戦して下さってベルシュタインは勝利することが出来た。

 今も交流は続いていて、お父様や騎士たちの軍馬は辺境伯家で訓練された馬を購入しているし、今回の領地戦でも、互いの距離が遠いにも関わらず真っ先に駆け付けてきてくれた。


『お気遣い痛み入ります。この通り順調に。あと数日もすれば出立出来るでしょう』


 そう言って辺境伯様はグルグルと左腕を回してみせた。


 矢で攻撃を受けたにも関わらずこんなに早く治るなんてすごいのだわ。

 すごいといえば、筋肉がとても美しいわ。上着を片袖だけ通して負傷したほうの腕は剥き出しで包帯だけ巻いてあるので筋肉が滑らかに動くのがよく分かるわ……あら、わたくしったらはしたない。つい見惚れてまじまじと眺めてしまった。

 こんなに筋肉があったら農作業も捗るでしょうね。


『……メリアーナ嬢……』 


 辺境伯様のお顔が少し赤いわ?矢に毒などは塗られていなかったのよね?大丈夫かしら……


『どうかなさいましたか?』

『私のことは辺境伯ではなく、アリスターと……そう呼んでは頂けませんか?』

 ああ、辺境伯様、ではあまりに他人行儀だったのかしら。

『今回もですが、公爵家との領地戦では最大の立役者でいらっしゃいましたもの。他人行儀でしたわ。ね?アリスター様』

 

 ……まあ。

 人の顔が見る間に沸騰して赤くなる瞬間を目撃してしまった。


 お熱があるようだし、そろそろお茶の時間はお開きにしないと。

 よく考えたら怪我をしてらっしゃるのに、お茶に誘うだなんて申し訳なかったわ。


 それに同席しているお兄様がやけに静かなのも気になるのよね……


『やはり具合がよろしくないのですね?長い間お引止めして申し訳ありません。きちんと休養して下さいませ』

『い、いやそうではない……』

 それだけ言って負傷していないほうの手で顔を覆ってしまった。


 ……まあ、手もとても大きくてごつごつしていてとても素敵。これだけ大きい手なら何でも出来て素晴らしいでしょうね。鍬など、元々殿方の手の大きさを想定して作られているから、わたくしが使おうとすると少しだけ太くて長く感じてしまうのだもの…… 


 あら?そういえば、皆がおかしいわ?


 ガルディはいつもならわたくしの背後で距離を少し取っているはずなのに、視界の端に何回も映ってきて、何故かポージングしているし、ミランダはやたら辺境伯にお茶のお代わりを注いでいる。一言必要か伺ってから注いだほうがいいのじゃなくて?注がれるたびに律儀に飲んでらっしゃるから、お腹がきっとタプンタプンよ?

 ギルバートは……

『そこまでお元気でしたらすぐ出立してもよろしいのでは。数日とは言わず今日にでも』


 待って待って。あまりにも失礼よ、ギルバート、貴方は今執事なのよ?


 お兄様もお兄様よ。恩人なので無下にも出来ないと言ってるわりに、噛んだハンカチをギリギリと食いしばっているようなお顔になってるわ。


『……メリアーナ嬢。』

 必死に深呼吸していた、辺境伯様改めアリスター様がようやく通常の顔色に戻ったようで安心する。

 それにしても深呼吸するたびに胸筋が上下してすごかったわ……

 ああまた、はしたないのエンドレス。冷静に冷静に……

『はい』


『我が領地へ共にいらっしゃいませんか?ベルシュタインからは遠く、心細く感じるかもしれませんが、決して寂しい思いはさせないとお約束致します』


 瞬間、あちこちでドカッ、バキッ、ガチャガチャ、ドンッという音が部屋中に鳴り響いた。



『プププププロッポー……!?』


 お兄様?それは、

 鳩?


 ……いったい?

 一瞬、椅子ごと浮いたわよね……

 

『失礼致しました』

『つい……申し訳ございません』

『粗相を……片付けてまいります』

『ああ、うっかりしていました』


 見るとガルディが立っている床はへこんでいて、ミランダが手にしている盆の上では茶器が割れており、ギルバートが持つわたくしのお気に入りのポットが跡形もなく粉々に砕けて床に散らばっているかと思えば、お兄様が手にしていたカップは、ハンドルが取れたカップ本体がテーブルに落下し、皆の見ている前でクルリと半周回転後、床に落ちて割れた。

 お兄様の指にはハンドルだけが残ったままだ。


 何故皆一斉に物を壊しているの?

 訳が分からないわ。


 あ、それよりも、辺境伯様改めアリスター様は辺境に遊びにいらっしゃいとお誘い下さったのよね? 

 お返事しなければ……


『アリスター様、辺境へはぜひ行ってみたく存じますが、今は戦後処理で忙しく、しばらくは時間が取れませんの』


 またあちこちでガチャガチャ、ガッシャーンという音がした。


 アリスター様のお顔の色が、先ほどまでは赤かったのに、今度は青くなっているわ。

 人ってこのようにいろいろな顔色になるものなのね。


『い、いやっ。そうではなく……』


『うちの者たちが粗相をして申し訳ありません。……お顔の色が本当に……』


 疑問に思い首を傾げてしまった。思わず額に手をかざして熱を測ってしまいそうになる。

 ダメよ、そんな簡単に殿方を触っては。()()()って思われてしまうわ。

 そうは言っても、もうわたくしは三度も出戻っている女なのですけれど。


『うっ…。上目遣いで首を傾げる仕草の破壊力が……』


 破壊力?剣の腕ならそこそこだとは思いますけれど、素手での破壊力はイマイチですわ。

 それよりもまた辺境伯様、いえアリスター様のお顔の色が真っ赤に……

 これはいけないわ。

『ギルバート、お医者様を手配してちょうだい。アリスター様のお顔の色が赤くなったり青くなったりして、体調を崩してらっしゃるようなの……』


『かしこまりました。すぐ客間にお戻り頂き医者を手配して参ります』


『わ、私は……いや、何でもない』



 もっと早くお開きにしておけばよかった、と思ったメリアーナだった。


 医者が言うには特に異常はなかったようで何より。


 客間前の廊下で医者に質問していたメリアーナのところに小侯爵がやって来る。


『お兄様?どうなさったのですか?』

『いや……メリアーナ、先程の辺境伯様のプロポーズの返事はどうするんだ。あれは"私の元に飛び込んでおいで"という意味だぞ。どう考えても"遊びにおいで"じゃない』


 え?まさか。

『そんな。そのような勘繰りは辺境伯様に失礼じゃありませんか』

『奥方を亡くされてかなり経つし、後添えを迎えてもおかしくない立場だ』


『まあ。そんなはずはありませんわ。辺境伯様は三人のお子様がいらっしゃいますし、しかもお子様はわたくしより年上ではありませんか。お父様と言っても良いお年なのですよ』


『と、こんな場所でする話ではないな』

『確かに。客室の目の前の廊下でする話ではありませんでした』




 耳の良い辺境伯には、二人の会話がしっかり聞こえてしまっていた。

(お父様と言っても良いお年……)


 がっくり項垂れる辺境伯であった。





 後日メリアーナは、しょんぼりしながら辺境伯、もといアリスターが自領に向けて出立したと、何故か機嫌の良いギルバートから聞かされた。


 ……まあ。お見送りしたかったのに残念だわ。

 せめて一言でも言葉を交わしたかったのに。でも仕方ないわね。ご当主様ですもの。急用が入ってしまわれたのでしょう。




 ◇ ◇ ◇




「やはりベルシュタイン家の方々は、ご自分らの姿形の破壊度をご存じない」


「無頓着ですよねぇ。メリアーナさま、庭や畑いじりの時も、日光を何時間浴びようが気にも留めないですし。すぐに日傘を持ち出すギルバートさまの気持ちもよく分かります」


 メリアーナの周りの者たちは、揃ってため息をつくのだった。





 ベルシュタイン侯爵は領内の様々な決裁に追われ、眉間に縦線をくっきり浮かび上がらせながら、それでも黙って連日執務に励んでいる。


 領地戦で留守にしていた分の執務が溜まっていたので仕方ないとは言え、鍛練する時間すら削らざるを得ないのは本意ではない。


 そこで印章押し要員を引き摺ってでも連れてくることにした。


 小侯爵は機嫌の悪い父にビビって、魔塔に逃げ……いや、戻ろうとしたが、


「何処へ行くつもりだ」


 地を這うような侯爵の声に硬直し、首根っこを掴まれ大人しく引き摺られていった。



 居合わせてしまったメリアーナはその様子を見て思う。


 まるであれだわ……連れて行かれる子猫?




 ◇ ◇ ◇




 領地戦後の忙しさが一段落し、ようやく休憩時間が取れるようになった。


 わたくしは自室につながる勉強室で、ギルバートの淹れてくれたお茶を楽しんでいる。



 次は何をしようかしら。

 庭の空いている場所に畑を作るのもいいし、温室の植物の改良を見学するのも悪くない。


 最近そわそわすることが増えた。

 フラナド領が分割され、中立だった小領地もベルシュタインと友好同盟を結んだ。

 

 ずっと領地視察に行ってなかったのもあって、ベルシュタインに組み込まれた元フラナド領地が、順調に収穫を伸ばしているのか気になってしょうがない。

 視察に行きたいわ。


 そういえば、辺境伯様の領地での馬の買い付けがそろそろではない?同行するのもいいわね。


 一番やりたいのは、領地を豊かにすることだけれど……

 豊かな領地じゃ満足出来ないから困ったものだわ。


 新品のポットをテーブルに置いて、ギルバートはノックをして入室してきた侍従から、巻物を受け取った。

 侍従を退室させてから、巻物を片手に持ち、もう片方の手のひらにパンパンと打ち付けながら考え事をしている。


 ………あら?そういえば、ミランダとガルディが席を外してから、結構時間が経っていない?


 ギルバートと二人きりだわ。

 勉強室から廊下に出る扉は開いているけれど、奥まった部屋だから、あまり意味がないような?


「お嬢様、そろそろ新しい領地を豊かにしたくなりませんか?」


 二人なのを意識した途端、ギルバートが口を開いた。

 内心の動揺を隠しながら返事をする。心臓が口から飛び出るかと思った。

「あら。ちょうど思っていたところなの。よく分かったわね」


「以前の辺境伯の時のような事が起こるのは、もう懲り懲りです。あの時辺境伯はお嬢様に求婚していたのですよ」


「それ、お兄様にも言われたのだけれど、ありえないわ。お父様とほとんど同年代の方だし、わたくしより年上のお子様が三人もいらっしゃるというのに。遊びにおいで、ってことよね?だからね、馬の……」


「最近のお嬢様は、心ここにあらずですから……間違っても馬の買い付けに同行するなどとは仰らないほうが宜しいかと。全力で阻止させて頂きます。もう二度と会わせたくはないですからね……」


 何故考えていたことが分かったの。


 全力で阻止って……

 以前聞いた"監禁"という言葉が、頭の中で何度も鐘のように鳴っているわ。


「それに私の遠回しの言葉がスルーされていたことを指摘したい気分ですがよろしいですか?」


「んん?そうだったかしら……」


 過去のギルバートの言動を思い返しても、心当たりがないのだけれど。

 そんなわたくしを見て、ギルバートはため息を一つ漏らした。

「"白い結婚"の項目を契約時に追加して欲しいと言ったことがありましたよね」


 ……うっ?


 た、確かに言われたことがあったような……

 なんだろう。圧を感じる。

「あ、あれは単に契約時の項目についての指摘かと思ったのよ」


 一つ頷き、手に持っていた巻物をはらりと開く仕草までが優雅で絵になっていて、思わずみとれてしまった。


「貴女には遠回しでは通じないことが分かりました。もう一度教えて差し上げましょう。"契約書に白い結婚の項目を追加して頂けていたら、こんなに苦しまずに済んだのですが"と申し上げました」


 あー……そうだったわ。

 それに対してクズ男が天邪鬼だという講釈を垂れてしまっただけのような……

 あれからずいぶん時間が経ってしまったように思う。


「臣籍降下しまして。爵位と領地を賜ることになりました。おお丁度良かった。拝領した土地はベルシュタイン侯爵領のお隣ですね」


 巻物状になっている書状を開いて読む姿がなんとも様になっている。


 ええ?今なんて?

 王位継承権放棄までは知っていたけれど、臣籍降下?ええっ?




 巻物を巻き直して机に置くと、ギルバートが跪いて、わたくしの手を取り口付ける。



「メリアーナ」



 呼ぶ声が甘くて、耳が蕩けそう。



 そしてこう言うのよ。まるで誘惑するように。

「我が公爵領を共に盛り立てて下さいませんか?廃領されていた土地ですのでやり甲斐があると断言します。あと領地が栄えても離縁はしませんし、そもそも絶対に手放しませんが」


 廃領されていた土地って……わたくしが二度目に無理矢理嫁がされた元公爵領のことじゃないの。要所だから誰が拝領するのかずっと問題になっていて、留め置きされていた領地だわ。

 

 ……ああ、この人はわたくしが何より欲しいものを知っている……

 一番欲しいものを差し出されて断れる人なんているかしら。


 最後の確認のためにずっと気になっていたことを口にする。

「お父様至上主義だとばかり思っていたわ」


「剣の忠義と恋は全く別物ですよ」


 それを聞いて安心した。

 もうとっくにわたくしの心は決まっているもの。


「お受けしますわ!」



 ギルバートは嬉しそうにわたくしを抱き上げクルクルと一周しながら、暖炉近くに置かれた長椅子まで移動する。

 こんなに浮かれてる彼は初めて見るわ。


 そして腰かけたギルバートの膝の上に座らされてしまう。


「……はぁ。断られるかと……」


 そう言いながら、くったりとわたくしの肩にもたれかかる。

 まるで甘えているみたい。いつも飄々としているギルバートが?

 肩口にかかる吐息がとても熱いわ。


「継承権を放棄したあとはずっとお父様一筋だと思っていたから、こんな展開は予想外ではあるわね」


「言ったじゃないですか、私はノーマルだと」


「でもね、わたくし領地を豊かにする趣味のほかに、壮大な野望があるの。聞いてくれる?」


「何なりとお申し付けください。我が姫」


 ……姫は止めて。


「女性でもシグネチャーリングを取り扱えるようにしたいの。今は男性にしか所有が許されていないから、三度の結婚で散々苦労したわ。そういう女性はきっと他にもいるはずよ。執務を行える女性が日向に出てもいいと思うの」


 ギルバートがハッとしたかと思うと、ぶつぶつ言い始めた。

「それなら私が臣籍降下したのがそもそもの間違いじゃないか。王族でいたほうが何かと都合が良かったはずだ。……いや王太子と結婚して妃になるのが一番の近道だし、もしかして私は離縁されてしまう!?」


「待って待って!いろいろおかしいわよ?別に最短を目指しているわけじゃあないわ。それに婚約すらまだよ。離縁はずっと先……じゃあなくて、絶対離縁なんてしないわ。ギルバートが好きだもの」


 ギルバートが固まった。

「……今なんと?」


「また言わせる気なの?ギルバートが好き、って言ったわ」


 言った途端、片手で顔を覆ってしまった。

 そんなにショックを受けるもの?

 


「……私の想いは重いですよ。ずっとメリアーナを愛している。お互いの兄たちと一緒に遊んでいた頃から」


「えっ?そんな昔から?気が付かなかったわ。だから王太子殿下と結婚だなんて馬鹿げたことを言い出したのね?」


 確かに、現在の王太子殿下とお兄様とギルバートと四人で一緒に遊んでいたこともある。ベルシュタイン侯爵領は王都と隣接しているし、いわゆる幼馴染というやつで、しかもそれは子供の頃の話だ。


「義兄の初恋はメリアーナだといつも聞かされていたので……雑草を引き抜く動作が雄々しくて見惚れたと言っていたし、一緒の剣の稽古でもいつもメリアーナの隣を必ず確保していたでしょう?何かといえば『葉っぱがついている』だの『花びらが……ちょっと動かないでね』だのと言っては髪を触りまくっていたのを思い出す……今更ながら腹立たしい。私がベルシュタイン小侯爵と手合わせしている時に、メリアーナと並んで見学している距離の近さには何度イライラさせられたことか。そんな義兄を排除して他の女と結婚させるのに苦労しましたからね」


 そんな暗躍をいつの間に。


「背の高い雑草は腰を入れて重心を落とし、全体重で引っこ抜くのが一番いいのだもの。こぶし二つ分足を広げるのも重要よ。……もしかしてわたくし王太子妃になるのを逃したことになるのかしら」


「王太子妃になりたいのですか……?」


 仄暗い声にひやりとする。

 だからわたくしが一番したいことをちゃんと伝えるのよ。


「まさか。それだと領地を豊かに出来ないじゃない」


 ちょっと目を見開いたギルバートがほっとしたように長く息を吐いた。

 良かった。元に戻ったわ。

 "監禁する"とか言われたらどうしようかと思ったもの。


「はぁ……メリアーナのことだけですよ……こんなに動揺するのは」

 昔から貴女だけなんです。そう言ってため息をついている。


 ああ、吐息までもが色っぽいわ。

 唇をまじまじと見たので、ギルバートはそっぽを向いてしまった。


 でも気が付いたの。耳が真っ赤だわ。


 そうして群青色の瞳が再び戻ってきて、わたくしが映っている。

 本当に熱のこもったこの瞳が大好き。




「……口付けしても?」



「そういうのは口にせず実行あるのみよ?」



 口付けを交わしながらつい考えてしまった。

 四度目の今度こそ幸せになるわ! 




 

       ── 完 ──






如何だったでしょうか。

この話はハイファンタジーとして以前書いていた10万文字超えの未発表話を恋愛要素寄りにして短くしたものです。


『メリアーナの初婚は筆頭侯爵家との政略結婚であり、二度目は公爵家との王命による婚姻だった。

結果的に二度の領地戦を戦い抜き、特に公爵家との領地戦は圧倒的格上の相手に勝利したとあって、ベルシュタイン侯爵家の名声を国内外に広めることとなった』



元の話はメリアーナの兄が遺跡から魔塔を復活させる話や、忌み嫌われる魔力持ちの子の話、フラナド伯爵領地に散らばった元使用人の話、そしてベルシュタイン侯爵家の領地戦の話がメインでした。


伯爵と愛人と愉快な腰ぎんちゃくご一行様も、もっと汚い策略を繰り広げます。

最後は一癖ふた癖もある弁護士が登場し、弁論の逆転また逆転で大騒ぎとなる裁判の実況と判決、結果フラナド伯爵領とベルシュタイン侯爵領の領地戦からざまぁに至るのですが、今回の話ではそのエピソードをほとんど省いたので、微ざまぁになっています。

最後の最後で省いた、離婚証明書の攻防と、ベルシュタイン侯爵領に帰還するまでの二回目の隊列襲撃、二度目の結婚相手だった公爵がメリアーナに懸想して求婚を王命扱いにしたので、ギルバートが暴走暗躍し、領地戦に持ち込むところなどはもっと詳しく書いてもよかったかなあ、とは思いました。


長々と失礼致しました。作者のたわごととしてお聞き流し下さい。 


最後まで読んで頂きありがとうございました。


ブクマやリアクションも増えるとワッショイしてしまいます。

↓の☆を★にして面白かったか教えて頂けると嬉しく思います。


次作は聖女×狩りと、ちょっと異色かも?な話を投稿する予定です。

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まずはお疲れ様でした。 イヤ~面白かったです。 出来ればあとがきに書いてあった長編が読みたかったと思いました。 読んでて、なんか展開早すぎ無い?話飛んで無い!? と思いましたがあとがきで納得しました。…
ギルバード王位継承権もってたんかい!弟だったんかい!というのが一番の驚き…なんか読み飛ばしたかな??と思ったくらいでしたが、まぁそれは最後でわかるからいいか… 兄になんかありそうなのがちょっと気になり…
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