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シーン7 [アオシマ]ぼくにほかに選択肢があったか?

「今から剣崎さんに盗作の事実を伝えようと思います」

 楽屋で顔を合わせるなり、我那覇さんはそう言った。


「ちょっと待ってください。どうしてですか?」

 ぼくはあわてて立ち上がると我那覇さんを引き止めた。


「『ファントム・オーダー』を出版し、ある程度売れればすぐにY先生が名乗り出てくれると思っていたのですが……どうもそうはならなそうだからです。わたしが持つコネクションの中で、最も大きな影響力を持つ人物が剣崎文人さんです。剣崎さんのブログを読みました。彼は素晴らしい読書家ですね。俳優の仕事をしながら様々な本を読んでいる。環境保護や社会正義への関心も高い。NGOと繋がったりと行動力もある。俳優という娯楽や消費に関わる仕事にやりがいと共に矛盾も感じているため、人助けや環境保全など社会的に意義のあることを模索しているように窺えます。『ファントム・オーダー』の感想を書いたブログも読みましたが、とても好意的で熱の入った内容でした。なので真相を明かせばわたしへの評価はともかく、先生を探すお手伝いをしてくれそうだと思いました」

「だからって……」

「道をあけてください。剣崎さんの楽屋に向かいます」


 どうなる? 剣崎文人がこのことを知ったとして、公表するか? ……普段見せている俳優の顔がそのまま彼の人格なら、公表するだろう。それではぼくの考えていた穏便な解決など望めようもない。


 どう答えればいい?


 ぼくは焦る頭で必死に言葉を探した。


「『ファントム・オーダー』を自分の作品の盗作だと編集部に訴えてきた人は十五人ほど居ます」


 ぼくの言葉に、ほう、と我那覇さんの表情が変わった。


 なんとか時間を稼ごう。


 今は、番組の打ち合わせが始まるまで時間を稼ぎ、我那覇さんと剣崎さんが二人きりになる時間を与えなければいい。


 ぼくは咄嗟にそう思った。


「この類のメールはよくあることなので基本的に編集部は黙殺無回答ノーリアクションなのですが、今回、電話番号などメールアドレス以外の連絡先が書いてある人にはこっそりコンタクトをとっています。我那覇さんが以前おっしゃっていた年齢の方はいませんでしたし、物語の続きの展開を尋ねても二巻以降と話が合致する人はいませんでした」

「裏で動いてくれていたのですね。ありがとうございます。アオシマくんが担当で本当に良かった」


 我那覇さんがぼくの手を取って微笑む。


 思ったよりずっと力強い握力。触れている相手の温度が伝わってくることで、自分の手が指先まで冷えていたことに気づいた。


「剣崎さんにお話するのはやめておきます。今日の番組が終わったら、先生の特徴やわたしと先生の関係について詳細を伝えます。これまで一人で頑張ってくださってありがとうございました。これからは協力して探しましょう。待っているよりもこちらから探した方が穏便に済む可能性が高いです」


 当面の危機を回避したことにほっとすると共に、絡め取られたな、とぼくは思う。


 でも、ぼくにほかに選択肢があったか?


 考えても答えはなかった。

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