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ギャラクシー・シェリフ・ファイブV4



「ショー自体は昔となんにも変わってないんですね」


もなか先輩に連れていかれたのは、デパートの屋上催事場で開催中の「ヒーローたちがやって来る! 銀河保安官5ギャラクシー・シェリフ・ファイブV4・リアルバトルショー」だった。


「まあ、子供向けの戦隊ヒーローショーだからね、ヒトシくんだって小さい頃にヒーローショーに期待したものって単純なストーリーラインだったでしょ」


20分足らずのショーを観て、その後、楽屋になっている小部屋に連れていかれる。


「モナっち、サプライズ連れて来るって、アオちゃんのことだったの?」


楽屋の隅にもなか先輩とふたり邪魔にならないように座っていたら、脱いだヒーローマスクを抱えた着ぐるみのシェリフ・ピンクが驚いた顔で入ってきた。


「アオちゃん、ひさしぶりだね。ショーは楽しんでくれた? この年になるとこういうの見に来る機会ないでしょ」


淡咲(あわさか)さん、卒業以来だね。久し振り。シェリフ・ピンクだったんだ。動きキレキレですごかったよ。感心した」


「そうだよ〜、ヒトシくん、あたしのゆうなはすごいんだよぉ」


「何でもなか先輩が自慢げなんですか」


淡咲ゆうなは高校時代の同級生で、体操部のマネージャーだった。選手ではなかったから、自分でもあんなに動ける人だったとは知らなかった。


「結構女の子の客が多かったですね。舞台に上げたのも女の子だったし」


「昔は、客席に座った子供を開演直前に舞台の上から指名して、二言三言指示出しただけで本番、だったでしょう。今は全然違うの」


淡咲さんが説明してくれる。


「開演前に並んだ列の中から、扱いやすそうな親子連れを選んで、別室でA4で3ページくらいある書類に署名してもらうの。署名した親子だけ、裏口から入場させて開演するときに指名しやすいように真ん中の席に座らせる。


書類には、記録用に映像を撮るけど肖像権を主張したりしません、とか、転んで擦りむいたくらいの小さな怪我で裁判したりしません、とか、キャストが子供の体に触れて誘導するのは興行に必要なことだと了解して、セクハラだのロリだのペドだの言って訴えたりしません、とか、そういう誓約文が書いてあるの。これを親からキチンと取らないと興行のための保険が無効になるんだって。


だから、言われた通りに動いてくれそうな素直な子供を選ぶ、というよりも、そういう誓約書にごちゃごちゃ言わないで署名してくれる親を選ぶ、っていう感じなのね」


「ふうん、そういう親は女の子の親が多い、というわけですか?」


「女の子が多いのは別の理由。こういうショーをやってると、主催者がテレビ局とか業界とかとつながりがある、って誤解してくる親が多いのよ。ウチの娘はこんなに可愛いんだから見出される機会を多くしたら、って立候補してくるのね」


「だけど別にそういう業界とは特に接点がない、ということですか」


「そゆこと。キャラクターの権利関係でやり取りがあるだけだから、新規タレントの発掘なんてなんのつながりもない」


「でも、言われた通りに出来ない子供、昔もいたよねぇ」


「もなか先輩、そんな意味ありげな目でこっち見なくても。たしかにオレ、人質役になってヘマしたことありましたけど、もなか先輩、何で知ってるんですか?」


「だって、あのときあたしと一緒に行ったんじゃん、ヒトシくん、忘れちゃったの?」


「いや、とにかく周りに迷惑かけた、っていう記憶だけで、それ以外全部飛んじゃって……」


「とにかくね、前からパートタイムでアクションヒーローやってくれる人いない? ってモナっちに頼んでたのよ。このバイトって、小劇団とか演劇サークルの人が多いんだけど、動けないとダメだから、なかなかいい人が集まらなくて。その点、もと体操部のアオちゃんなら安心だけど……」


「淡咲さん、ちょっと待って。オレそのバイトに応募することになってるの?」


「ゆうな、違う違う。ヒトシくんはバイトの面接で連れてきたんじゃないよ」


オレももなか先輩も淡咲さんの誤解をあわてて打ち消す。



 §  §  § 



そんな話をしていると、


「ピンク、おまたせ」


と言いながら、着替え終えてスッキリしたらしい6人の男性が楽屋に入って来た。入れ替わりに淡咲(あわさか)さんは


「私もシャワー浴びて着替えてくるから、それまでパパと話でもしててよ」


と言って、隣のシャワー室に出ていった。


「お邪魔してます。ピンクの友達の栗村もなかです。こっちはピンクの高校の時の同級生の阿尾(あお)ヒトシ君です」


もなか先輩のマネをして6人に頭を下げる。3人は20代前半くらい、2人は30代半ば、最後のひとりは40代半ばくらいか。


「レッドです」「構成員①です」「グリーンです」「イエローです」「頭目です」「ブルーです」


役名だけで自己紹介される。


銀河保安官5ギャラクシー・シェリフ・ファイブV4の4人と、悪の組織ダメダメ団(改)(かっこかい)の団体職員2人、という構成だった。


一番年配のブルーがオレの顔を見て言った。


「ピンクの父です。阿尾さんは娘の高校時分の同級生ということでしたが、体操部のエースだったあの阿尾さんですか? 昔、娘がする話に名前が度々出ていましたが」


「ええ、体操部で一緒でしたけど、卒業して以来、ゆうなさんと会ったのは初めてです。昔好きだった銀河保安官5ギャラクシー・シェリフ・ファイブのショーを今でもやってるなんて知らなくて、その上、中に知り合いが入っていたなんて驚きました」


「阿尾さんもやってみませんか? とんぼを切れる人がほしいんだけど、アルバイトに来てくれる人にもなかなか本格的に動ける人がいなくてね。もう私も昔ほどは動けないのを自覚しているし、必要なときに代わって貰える人がいないのが不安なんですよ」


「誘っていただけるのは名誉に感じますけれど、自分は子供の頃に銀河保安官5ギャラクシー・シェリフ・ファイブの戦隊ヒーローショーでしくじった思い出がありまして……」


初対面の人にこんな話を、と思わないでもなかったけれど、現役でヒーローショーをやっている人と話すなど生まれて初めてで、こんな機会がこんどいつあるかわからない、と思い、オレは淡咲さんのお父さんに昔話を始めた。




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