ギャラクシー・シェリフ・ファイブ
「……さあ、銀河保安官5のリーダー、シェリフ・レッドの得意技、必殺のヘルアンカーブロウラリアットが悪の秘密結社ダメダメ団の頭目の首に見事に決まるのでしょうか!? 人質のヒトシくんの運命はよい子のみんなの応援にかかっています。みんなで叫ぼう! 『シェリフ・レッド、頑張れー!』って」
司会のお姉さんの進行に合わせ、子どもたちが声を揃えてシェリフ・レッドを応援する。
観客からあらかじめ選んだ人質役の男の子を掴まえていたダメダメ団の頭目が男の子から手を離したのを見届けて、シェリフ・レッドが頭目に走り寄って、得意技を決めにいく。
人質役の男の子の手を引いて頭目とシェリフ・レッドが衝突する位置から退避させる役目のシェリフ・ピンクが悲鳴をあげる。
「あー、だめっ!!」
ダメダメ団の頭目から逃れた男の子ははじめに指示されたとおりにシェリフ・ピンクに走り寄るのでもなく、そこにじっとしているのでもなく、また頭目から逃げるのでもなく、こともあろうに頭目にたち向かって行ったのだ。
男の子の手を掴んで安全確保しそこねたシェリフ・ピンクの顔はヒーローマスクの中で青ざめていたに違いない。
頭目役には後ろから来る男の子が見えていない。オーバーサイズの着ぐるみで人間離れした偉丈夫になった頭目の身体に隠れて、シェリフ・レッド役からは男の子の姿が見えない。
シェリフ・レッドの必殺のヘルアンカーブロウラリアットが見事に決まり、頭目は仰向けに倒れ、後方に吹き飛ばされて大団円、のシーンなのだが、頭目の後方には、人質役の男の子がいる。
台本から外れて横から飛び込み、確保した男の子をシェリフ・ピンクに渡してから、自分は避けるだけの余裕がなくてかわりに頭目の下敷きになったシェリフ・ブルーは、「ぅうぐぇっ!」とおよそアクションヒーローらしからぬ蛙が潰れたような声をあげた。
観客の子供たちは悲鳴をあげて走りまわるし、転んで泣き出す子もいて、「夏休み特別企画! 銀河保安官5に会おう! ちびっこヒーローショー!」の会場は大混乱だ。
何が起こったのかよくわからずにキョトンとした顔で舞台の中央に立っている人質役の男の子を置いてけぼりにした喧騒の中、ショーは突然に終了した。