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女刑事と将門さん  作者: 安土朝顔
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第60話

 鈴が幽霊を見ないようにする術を身に着けても周りの反応は変わらなかった。結局、自分を守るために一人をターゲットにして攻撃していたんだと成長途中で気付いた。だからって何で私がその役目を受けなくてはいけなかったのか。


「守矢さん。あなたは私を化け物と言いますが、守矢さんも化け物ですわ」


 コイツだけには言われたくない。怨霊を纏わせて赤の他人、まだ自分と無関係な人間なら嫌悪とそれなりの憎しみで済んでいた。でも自身の家族、それも母に手を出した事は到底に許すことができない。


 激しい憎悪と怒りがと今までの理不尽な思いが沸き上がってきて、鈴の中がドス黒い物に覆われていき、憎悪と鬼塚に対する殺意しかなかった。


「鈴さん?!」

「――」


 鈴はもう一本隠し持っていたナイフを取り出して鬼塚を襲う。


「鈴さん!」


 鈴らしくない行動に桜葉は止めることもできずにいた。鈴が振り下ろしたナイフは、鬼塚の腹部に深く突き刺さった。


「――」

「いいですわね。やはり守矢さんは私と同じですわ。黒く渦巻く怒りや憎しみが凄いですわよ」

「どういう事ですか? 鈴さんに巻きついている黒い靄は、あなたの仕業ですか?!」


 桜葉が異様な状態の鈴を目の前にして鬼塚に問いかけた。


「あら? 見えるようになっているのね。まあいいわ。これが本当の守矢鈴ですよ。平将門様同様に人へ深い恨みを持っているの。ねえ? 守矢さん」

「鈴さんはそんな人じゃない! それに平将門様は怨霊ではありません! 神様です」


 子供の頃から表に出さず、苦しい思いをして飲みこんで知らない、気付かない振りをしてきた感情を出す事がこれ程に気持ちよくて清々しいものだと知らなかった。


 気付かない振りをせずに吐き出せばよかった。今この状況が心地いい。鈴は憎悪を丸出しにして清々しい気分だった。

 桜葉と鬼塚が言い合っているが、黒い膜を隔てて聞いて見ている感覚だった。


「この世に神様様なんていないわよ? ねえ守矢さん」


 神様なんていない。いても助けてはくれない存在だと鈴は分かっている。その証拠たるが将門だ。だからやられる前にヤルかやられたら同等かそれ以上にやり返せばいい。我慢する必要なんてもうない。


 何で今までやり返さなかったんだろう? それにお父さんに認めてもらいたいから警察官になったのも、今思い返せば本当にバカバカしい選択だった。


 鈴はナイフから手を放して、感じたことがない解放感に浸っていた。もうどうでもいい。本当にどうでもいいや。


 下さらない理由で犯罪を犯す人間や弱い人をターゲットにする人間、人と違うからと冷遇する兄と父親。もう何もいらない。鈴の体は深い黒い靄に包み込まれ姿は見えなくなっている。


「鈴さん!」

「アハハハハ! これで彼女はこちら側ですわ。やっとこれで紗季さんに会えますわ」

「母に? どういう事ですか?!」


 ああ、桜葉さんが声を荒げているなんて珍しいなあ。というかあの桜葉さんはあんなに怒っているのが珍しい。そうだ。桜葉さんもきっと私みたいに怒りを表に出さずに我慢しているんだ。


「なら、こっちにくればいいじゃん」と鈴の言葉に驚いた顔をした桜葉に向かって、黒靄が触覚のように伸びて巻き付こうとした時だった。

 桜葉が膝と手を着いて前に倒れ込んだ。


「あらあら、呪いに当てられかしら。でも時期、楽になりますわ。そうね……紗季さんの息子も取り込めば、守矢鈴はより紗季さんに合う体になるかもしれませんわ」


 桜葉の体が徐々に靄に覆われ始める。


「止めなさい。未央ちゃん」

「え?」


 桜葉の口から出てきた声は、いつものテノールではなく、柔らかい女性の声だった。ぼんやりとした意識で桜葉さんから女の人の声がして変だなと聞いていた。


「紗季、さん?」

「そうです。未央ちゃん止めなさい」

「なんで、なんで? 紗季さんどうしてそこにいるの?! 紗季さんのためにこの女を見つけたのに!」

「未央ちゃん」


 桜葉さんの中に紗季さんが入り込んでいるんだ。よかったじゃん桜葉さん。桜葉さんは紗季さんに会えたから、こっちにはこれないのか。鈴は少し残念な気持ちなっていた。鈴の気持ちを表すように、黒い靄が桜葉の体から距離を取り始めた。


「未央ちゃん。人は死んだらそれで終わりなのよ。どうにもならないのよ」

「だって、だってずっと一緒にいるって――なのに家に帰るって、だから、だから」

「そうね。でもね確かに未央ちゃんの事は妹みたいに思っていたし大事だったわ。でもそれより大事なのはやっぱり家族なの。だから未央ちゃんにも、未央を愛して大切にしてくれる人と出会って欲しかったのよ」


「私は紗季さんしかいらないもん! なのに、なのに、私から離れていくから―――殺してでも勿体なくて――食べた。そしたら紗季さんが私の中で生きてた。でも食べて体はなくなっちゃって、紗季さんに会えなくて寂しくて。そしたら将門様が、力をつければいいって。でも体は必要だった。だから霊力が強くて特別な人間をこちら側に呼び寄せれば、紗季さんの魂は復活して、私だけを見て私だけに話してずーーーっとそばにいてくれて、私だけに笑ってくれる紗季が手に入るの! そうだ。あんたは紗季さんじゃない! だって私の紗季さんは、まだ私の中にいるもん! ああ、あの守矢って女が将門様の色に染まってしまえば、私の紗季さんが復活するの! あんたは本物じゃない!」


 ごちゃごちゃうるさい。この心地よさを静かに感じたいと鈴が考えると、靄が細かい触手のようになり鬼塚を覆い隠そうと動きはじめた。


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