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女刑事と将門さん  作者: 安土朝顔
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第59話

「私の中によ。私と紗季さんは一心同体なの」

「は?」


 桜葉から出た声に、心底言っている意味が分からないのだろうと鈴は察した。しかし一心同体とがどういう意味なんだろう。あまりその真の意味を知りたくもなければ聞きたくないとも思った。


「何を言っているんですか? 母はどこにいるのかと、聞いたんですが」

「目の前にいるではないですか? 分かりませんか?」


 鈴は言葉通りに鬼塚をジッと見つめてみた。


「あ」


 意味が分かった途端、体中の皮膚が粟だち吐き気を催した。


「ふふふ。流石は守矢さん。お分かりになったようね」

「鈴さん? どういう事ですか?」


 意図的に見せようとしたのか、ただ気が付かなかったのか自分でも鈴は分からなかったが、桜葉にはどう伝えていいのか鈴は口を閉じた。


「鈴さん」


 顔が見られない。鬼塚の言葉でほんの少し、きっと期待を持ってしまっている。そんな桜葉に鬼塚の言っている意味を伝えられる自信がない。それに自分自身も、鬼塚がそんな凶行に走っていたとは思ってもなかった。肉を、紗季さんの肉を食べていたなんて。


「何で」


 出た声は桜葉ではなく鬼塚に向けてだった。何が? と言わんばかりに鬼塚は首を傾げている。


「だって紗季さんが私を好きよって言ってくれたんですもの。紗季さんは見かけだけじゃなくて心も綺麗な人ですわ。会う時の紗季さんはいつもキラキラしていて眩しかったわ。遊びに行くときは手を繋いでくれたりしたの。繋がれた場所から浄化される気分になったわ。尊くて女神様みたいでしたの」

「母はどこにいるんですか?」

「分からないかしら? 私は紗季さんをこの世界でたった一人だけで独占したかったのよ?」


 駄目だ。もう自分の頭では理解の範囲を超えている。独占したいから殺した、までなら分からなくもないが何故、それは食べるという行動になるのか。


 独占もなにも、人が食べたものは消化されあとは排泄されるだけじゃないか。正直、食べられた紗季さんは結局は体内から排出されているじゃないか。そんなことを考えながら現実逃避をしているなと、冷静な自分が言っていた。


「――まさか、たべ、た」


 桜葉はとうとう答えに行きついてしまったようだ。


「少しその表現は下品かもしれませんわね。一心同体になった、というのが一番しっくりしますわね」


 桜葉は口元を抑えてその場で蹲ってしまった。


「だから私はあなたの母でもあるのですよ顕」


 桜葉は今、少しの期待から地の底に突き落とされた気分に違いない。


「――どうして私の家族に近づいた?」

「ああ。簡単よ。貴女お友達になりたかったし必要だから」

「は?」


 一瞬、意味が分からなかった。友達になりたなら真正面からくればいい。けれどこられても全力で鈴は断るだろう。


「何を言ってんの? 普通に考えて頭のおかしい人間と、友達になれる訳がないじゃん。それにこっちはお前なんか不必要だな」

「あまりお口がよろしくないわね。私とあなたは同じなんですもの。友達になれて当然ですわ」

「は?」


 理解不能でやはり言葉が出ない。


「鬼塚さんと鈴さんは同じじゃありません! 全く違いますよ」


 目を吊り上げ声を荒げながら桜葉が鈴の胸の内を代弁するように叫んだ。


「私はあんたと友達にも、もちろん家族にもなるつもりはない」

「守矢さんと私は同じですわよ? お分かりになりませんこと?」

「――」


 黙っていると、桜葉が鬼塚に近づいていってしまった。


「桜葉さん!」と鈴が叫んだ時には、桜葉は鬼塚の首を絞めていた。

 鈴は慌てて駆け寄り首から桜葉の手を放そうとするが、力が凄くて剝がせない。


「鈴さん、僕に構わないでください。僕がこの女を処分します」

「会社のトップが殺人とか笑えないから」


 火事場の馬鹿力というやつかと、鈴は仕方なくて桜葉の腹に拳を埋め込んで膝に蹴りを入れると、何とか二人を引き離すことができた。

 しかし力一杯首を絞められていた鬼塚は、何事もなかったような顔をして咳込み様子もない。


「――化け物」

「あら? あなたもですわ。そう言えばお母さまはお元気かしら?」


 馬鹿にするようにクスクス笑いながら聞いてくる鬼塚に、鈴の怒りが一気に増した。


「っざけんな!」

「あらあら、怖い怖い」


 仕込んでいた小型ナイフを、鬼塚の肩に突き刺した。


「あら、服がダメになってしまったではないですか。いけませんわ」


 表情も変えず平然としている。怨霊と一体化しているからかと、将門との会話を思い出した。そのまま鬼塚に手首を掴まれたが、女性とは思えない力に小型ナイフから自然と手が離れてしまう。


「――ッウ!」


 鬼塚の手が鈴の手首から離れると、肩にささったナイフを自分で抜き取ってしまった。


 刺したのに血がでていない? 姿形は人間でも、もう人ではない。なら殺しても問題がないのではと考えを巡らす。鼻のあたりに違和感があって指で撫でると鼻血が出ていた。


「お母さまは確か入院されてましたわね。あぁ、ご家族全員でしたわね」

「あんたがやったことじゃないか!」

「でも証拠は何もございませんわ。おかしくなった和明さんがご両親を切りつけた。世間ではそう認識されてますわよね? でもよかったではありませんか。あなた、兄である和明さんもお父様もお嫌いでしたでしょ?」


 子供の頃からお父さんも兄さんも、自分を気味悪がって遠ざけ蔑む目で見てきていた。時には暴言や殴られることも少なくはなかった。だから鈴は鬼塚の言葉に言い返せなかった。


「そう言えば病院はお父様もご一緒でしたわね? お母さま、大丈夫かしらね?」

「何を」

「私ね、あなたには絶望して欲しいの。そこにいる息子の顕をどうにかするより、お母さまのほうがよさそうですわね」

「はあ? お前なに? お前と私の家族は関係なくない? っていうか、お母さんに手を出すなバケモンが」


 鈴の怒りは一気に頂点に達した。殺す殺す。その言葉だけで鈴の頭の中が埋め尽くされていく。


「鈴さん?」

「私が憎い?」

「黙れクソ女」


 鈴の意識は鬼塚だけに向けられ桜葉の声を耳のは届いてはいない。


「ふふふ。やっぱりあなたと私は同じですわね! アハハハハッ!」

「笑うな化け物」

「あなたも同じでしてよ」


 子供の頃、人には見えないものが見えて同級生に気味悪がられ、物を隠されたり投げられたり、時には教室に閉じ込められたりもした。


 どうしてこんな目に合うのか。幽霊が見えていても周りには何も言わないようしていた。小さい頃から知っている子たちが、学校で面白おかしく言いふらした結果だった。


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