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女刑事と将門さん  作者: 安土朝顔
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第57話

 高速を降りてあと五分ほどで実家に着くという時にスマホが鳴り、画面にはお母さんと表示されている。通話をスピーカーにする。


「お母さん?」

「鈴! お兄ちゃんが!」

「落ち着いて! お兄ちゃんがどうしたの?」

「お、お兄ちゃんがお父さんを刺して今、私を探しているみたいなの!」

「警察には電話した?」

「したわ! でも繋がらないのよ!」


 は? 一一〇番が通じない事なんてあり得ない。


「今どこに隠れてるの? お父さんの様子は?」

「今、トイレに隠れてる。お父さんは……お腹をさされ、て」

「一回切るから。警察に電話するから! 息を潜めてて」


 すぐに一一〇にかけると繋がり、母から聞いた内容と自分自身の身分を伝えて電話を切り、すぐに母にかけ直した。


「お母さん大丈夫? もうすぐ家に着くから」


 家が見てきて少し手前で車を止めた。家の前に来て思わず足を止めてしまった。


「ま、将門さん、これって」

「これがイカンな」


 家全体が黒い靄でおおわれていた。


「鈴、気を引き締めよ」

「いつも引き締めてる、よ」と鈴は玄関扉を開いた。


 中も靄でおおわれて薄暗い。トイレは玄関から入って突き当りの左が側にあるが、何故か扉が開いていた。


「お母さん!」


 急いで中を確認すると、姿がない。


「っざんけんな!」

「あんたも鬱陶しいのよ!」


 物が落ちる音や争う声が二階から聞こえてきた。


「鈴!」

「分かってる!」


 二階にあがると、兄の部屋でお互い刃物を持って争っていた。何故、お母さんまで? と頭を過ったがそれどころではない。


「ちょ、ちょっとやめて! 二人とも!」


 鈴は背を向けていた和明の膝裏を蹴り後ろから羽交い絞めにした。体制を崩した時に刃物を手放し、それを素早くとにかく廊下に投げる。

 兄を持っていた手錠を後ろ手にかけていると、今度は母が刃物を向けて襲ってくる。


「鈴!」

「分かってる!」


 振り下ろされる腕に向かって鈴は、下から力を込めて殴ると、母は刃物を落としたが拾おうとするので「ごめん」と言って腹部に蹴りを入れた。

 崩れ落ちた母親の腕を、部屋の落ちていた服で縛りあげた。


「なんで」

「鈴、父上は?」


 ハッとして一階に降りると呻き声聞こえてきた。


「お父さん!」

「っうぅ」


 来ていたトップスを脱いで刺された腹部を押さえていると、サイレンの音が近づいてきている。


「出血は多いが、幸いに急所はずれておる。救急車もきたようじゃし、心配はいらんだろう」

「流石は武将。それよりお母さんとお兄ちゃんの様子は?」

「気を失っておったな」

「二人とも?」

「うむ。これも縁かもしれんが神社帰りじゃろ? 儂の力も少し増しておったから二人についていた怨霊を何とかできたっぺ。それが取れて気を失ったんじゃ」

「そう」


 鈴は胸をなでおろした。でもお兄ちゃんがお父さんを刺したのは事実。哀れみの気持ちと、どこか少しだけざまあミロという思いがあったがお母さんまで巻き込んだのを鈴は許せない。

 救急隊員が恐る恐る開けられたままの玄関に姿を見せた。


「ここです! こっちに来て下さい!」


 入ってきた救急隊員に少し遅れて入ってきたのは加地だった。


「加地さん?」

「大丈夫か? 一体、何があった?」

「分かりません。兄が先に刃物を振るったみたいです。そもその後」


 鈴が言葉を続けようとした時だった。

「イヤーーーッ!」と母の叫び声が聞こえた。


 条件反射のように体が動き、鈴が二階の部屋に入ると、縛っていた服から抜け出した母がカッターナイフで何度も自分の腹を刺していた。


「お母さん!」

「あ、あぁ」


 よく見ると両手首からも血が出ている。


「奥さん! どうしたんだ!」


 加地と二人がかりで動きを止めなければならない程の力だった。


「二階にも! 二階にも怪我人がいます! 来てください!」


 一緒に上がってきた将門も意味が分からないという顔をしている。鈴は母の動きを止めながら祓詞を一心に唱えた。


 しばらくすると「あ、あぁ、あ゛あ゛あ゛!」と声を上げて母の力がふっと抜けて加地に倒れ込んだ。


「奥さん!」

「お母さん!」


 救急隊員が上がってきて母と兄は救急車で運ばれて行った。

 何で、どうして?! 頭を抱えて座り込んいると加地が「ここは任せろ。お前も病院に迎え」と言われた。


「すみません。ちょっと一人にさせて下さい」

「ああ。外にいるからな」


 加地が階段を下りていくのを確認して鈴は将門に話しかけた。


「どういう事? 祓ったって言ってたじゃん!」

「確かに祓ったんじゃ」

「なら何でお母さんがあんな風になるのよ! 何で!」

「お、落ち着け。落ち着くんじゃ鈴。一度祓ったら、相手がすぐさまどうにかしない限りあり得んのじゃ」

「じゃあ、祓った後。鬼塚がここにいたっていうの?!」

「いや、人の気配はしておらなんだ」


 それは鈴にもわかっている。でも事実、お母さんは怨霊に憑かれていた。どうやって祓った怨霊を憑かせることができたのか。


「怨霊を遠くから憑かせる事ができる?」

「それは無理じゃろ。そもそもそれなら、今までの者たちに接近する必要もなかったし、それができるなら、もっと怨霊に憑かれている人間がそこらじゅうにいてもおかしくはないっぺ」


 じゃあ何で! 一歩遅かったらお母さんは死んでいたかもしれない。衝動を抑えられず鈴は部屋にある物に当たり散らした。


「鈴! 落ち着くんじゃ!」


 物に当たって少しだけ気分が落ち着いた鈴は、荒げていた息を整えた。


「許さない。絶対に許さない」

「鈴?」

「将門さん。鬼塚が死ねば、怨霊はどうなるんだっけ?」

「一緒に消滅するじゃろうが、すべての怨霊がなくならん気がする。まあそれでも今のような状態になるまでまた、それなりの時間を要することにはなるじゃろう」


 あの女、マジで許さない。鈴は深呼吸をして部屋を出たが、ふと自分の家に違和感を覚えた。


「どうした鈴?」

「――なんか、なんか変?」


 目線の高さにいた将門が床スレスレにおりた。


「ん?」と言いながら一階にある和室に入って行く。


「あ、何でか凄く気持ち悪い」

「まさか」


 そういうや否、将門が畳の下に消えてしまった。


「将門さん?!」


 付いていくこともできず、将門が姿を現すまで待つしかない。


「鈴! この畳を上げれるか?」


 勢いよく出てきた将門はかなり焦った様子で、鈴もただ事ではないと言われた通りに畳を持ち上げた。


「この板の下だっぺ!」


 板にちょうど三〇センチ弱の正方形に切り込みがあった。その端を少し持ち上げて取ると地面が見えたが、ドス黒い靄が蠢いていた。


「何これ! 怨霊だよね?!」

「そうじゃ! しかしそれだけではない。依り代があるんじゃ。鈴! 祓詞を唱えるんじゃ」


 無意識に胸元の翡翠を握りながら祓詞を何度も唱え、六回ほど唱え終わると靄は消滅した。その代わりにあるモノの姿を現した。


「な! 何これ?!」

「カラスだっぺ。だから母君は、儂が祓ったにも関わらずあのような行動をしたんじゃろう」


 床下には数羽のカラスの死骸があった。だがそれだけではない。その死骸は無残にもバラバラにされていた。


「はは」

「鈴?」


 あまりにも怒りがこみ上げ乾いた笑いが出た。人は限界値に達した怒りを感じると笑うのだと、鈴がこの時初めて知った。


「あ~~大丈夫大丈夫。とりあえずこれを片付けて病院に行かないと」

「そ、そうじゃな」


 台所から中身が見えないスーパーの袋を持ってきた鈴は、カラスの死骸をそのまま手づかみで片付け始めた。


「り、鈴……」


 戸惑う将門の声を無視して、鈴は黙々と片付けた。


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