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女刑事と将門さん  作者: 安土朝顔
56/63

56話

 兄も同じだったが、妹の私のせいで友達から揶揄われたり馬鹿にされたりしたと、いつも陰でキモイ、死ねなど言われることは日常茶飯事。


 私を庇う母にも悪態をついていたが今思い返せば多分、私が母を独り占めしているように感じていたのかもしれないが、母はちゃんと兄の事もしっかり甘やかしていた。


 ただ目の前で泣く私に構う母を目にすると、自分にはと思っていたのかもしれない。

 その矛先を言葉で、時には軽い暴力を振るってきていた。だから私はお母さんだけいてくれたらいい。お父さんもお兄ちゃんもいなくなって欲しいと願っていた。


 鈴が黙り込むと「悪いことではないっぺよ。鈴のような見える人間ななおの事よ」

「そうね。将門様のおっしゃる通り。気に病むようなこよじゃないわ」


 そう言ってもらえると、少し気が和らいだ。しかし将門の質問の内容が気になった。


「それと私が見ていた人が殺される光景と、どう関係があるの?」


 鬼塚も洋館で意味深な言い方をしていた。その答えを将門が答えてくれる。鈴には確信に近いものがあった。


「多分じゃが、鈴が見ていたのは紗季を通してではなく、鬼塚を通してじゃったんだ」


 将門に言葉に、何を言われたのかいまいち理解できない。


「陰は陰に惹かれるものじゃ。本来ならそれだけは相手の記憶のようなものは見える事はないんじゃが……」


 言いにくそうにして言葉を切った将門に「言って」と鈴は語気を強めた。


「鈴と鬼塚未央は多分、似たような魂の持ち主なんじゃろう。滅多にない事じゃがな。だから鈴は鬼塚央がした事が、たまたまその時に繋がってしまって見えてしまったんじゃろ」

「ちょっと待って。でもならどうして、今は見えないの?」

「それは子供だったからよ」


 答えたのは時佐田だった。


「将門様が言うように、子供は敏感で感覚が鋭いの。鈴ちゃんの場合は余計にね。でも良くも悪くも成長していくと感覚が鈍くなる。それに話しの内容からその映像というのは毎回違った物だった?」

「ううん。毎回ほとんど同じ場面を繰り返して見ていました」

「それ以外の光景を見た事は?」

「ない、です」


 時佐田はお茶を一口飲んで一息ついた。


「それなら、その時本当に偶然にチャンネルが合った、という感じのようね」

「でも、そのあと何度も夢でその光景を見ていました」


 う~~んと時佐田が何か思い悩み始めた。


「鈴ちゃん、その光景の内容を詳しく教えてくれるかしら?」

「はい」


 鈴は子供の頃から見てきた、紗季が殺さる場面を細かく説明した。内容を聞いた時佐田は「いや、でも」など呟いている。


「将門様。滅多にない事だとさっきおっしゃってましたが、鬼塚未央さんと殺されたという紗季さんという方も、似た魂の持ち主ならどうでしょうか?」

「いや! 同じ時期に似た魂を持った者同士がなんて、儂でも聞いたことがないぞ。しかし……そうならば説明がつくかもしれなんな」

「どういう事? 将門さん」

「紗季と鬼塚、そして鈴の魂は似ておって、紗季を通して、鬼塚を通して何度もその場面を見ていた可能性があるということじゃ」


 鈴は洋館での鬼塚の言葉を思い出した。「貴女が勝手に見ていたのよ」殺さる場面が鬼塚を通してなら、私に話しかけてきたのは紗季さんの意思なんじゃないだろうか。なら紗季さんはやはり見つけて欲しいと願っているのだろう。話をしていて鈴にあることが浮かんだ。


「なら私も見られていておかしくはないって事ですよね?」

「そうね」

「そうじゃな。だから坊主の親戚に会った時に現れたのかもしれんな」

「ちょっと待って。相手は好きな時にこっちを覗けるの?」

「分からんが、その可能性があるのう」


 あるのう、と呑気に言うから鈴が怒るに怒れないし、怒ってもどこにぶつけていいのかも分からない。


「でも将門様。一番、重要な事をおっしゃっておりませんわね」


 その言葉に将門の生首が、分かりやすいように跳ねた。


「何? まだ何かを隠してるの? 吐きなさい、吐け! 平将門!」


 頭を掴んで鈴は将門を目一杯に揺さぶった。


「時佐田殿!」

「話してしまえばよいではないでしょうか?」

「し、しかしだな」

「言え。吐け、将門さん」


「わ、分かった。普通が同じ時代に似た魂を持って生まれる事は神の采配で無いに等しいんじゃ。しかしもしそのような場合が起こった場合、どちらかが死ぬとされている」

「は?」

「紗季と鬼塚、鈴。この場合すでに紗季は死んでおる。となると鈴と鬼塚のどちらかがきっと死ぬことになるじゃろう」

「なにこのクライマックス感。え? 私、死ぬかもしれないの?」

「可能性はある。そもそもじゃが、似た魂が同時期にあるのも珍しいうえに加え、鈴は無にする時間生まれ。魔を制する者として生まれてきたのやもしれん」


 一気に頭が混乱してきた。何なのこのファンタジー感。いやいや。そもそも将門さんの存在がファンタジーよね。それと何? ある意味、私は魔王を倒す勇者様的な存在って事? 確かに鬼塚がしてきたことは許せないし、このまま放置をして置く訳にももちろんいかない。


 相手は怨霊を取り込んだ半分人外ぽい存在だし、命の危険を感じていなかった訳じゃいけど、マジで生きるか死ぬか問題になるとは思っていなかった。


 眉間を指で押さえながら鈴は、私ってそんなに正義感があった? そもそも警察官になったのも、紗季を見つける事と、父に認められたかったからで犯罪を弱い人を助けたいとか、悪い人間を一人でも多くどうにかしたいと思った事は無いに等しい。

 鈴は頭が痛くなってきた。


「私、鈴ちゃんが警察官になったって聞いて、少しホッとしたのよ。陰に傾く可能性が低くなるから」


 警察官イコール正義感の過大評価だと鈴は言いたかったが、反論する空気ではなかった。


「えっと、将門さんがどうにかできないの? 鬼塚と切り離したら、どうにかできるみたいな事を言ってたじゃん」

「将門様お一人では無理でしょうねえ」


 長関でお茶も飲んでいるかのようにおばさんが答えた。


「鈴ちゃん。翡翠のネックレスだけど、その翡翠にはここの神様の力をほんの少しだけ分けてもらって入れてあるの。だからその翡翠は絶対に持っておいてね。さて」


 時佐田は湯呑みを置くと、じっと一つの方向を見つめ始めた。


「何故?」と言って将門も同じ方向を見始め。

「どうかしました?」

「噂の人かしら?」

「どうしてここに?」


 二人の言葉で、誰の事を言っているのか直ぐに鈴にも分かった。


「ん? 消えたようだっぺ」

「はい」


 時佐田は湯呑みを一点に見つめた後に、険しい顔で口を開いた。


「嫌な予感がするの。鈴ちゃん、今すぐ実家に帰りなさい」

「え?」

「いいから早く実家に帰るの」


 あまりの迫力に追い立てられるようにして、鈴たちは神社を出ることになった。

 挨拶もそこそこに車に乗り込んで発進させた。助手席にいる将門はかなり険しい顔をしている。


「何かあった?」

「うむ。とりあえず実家に行ってみんと分からん」


 そもそも実家という言葉が引っかかる。


「もしかして鬼塚が何か企んでるの?」

「――嫌な予感がするだけじゃ」


 カッと体が熱くなった鈴は、アクセルを深く踏み込んだ。


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