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女刑事と将門さん  作者: 安土朝顔
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第55話

 でもどうやってこの別荘地の建物を手に入れんだろう? いくら怨霊と一体化しているとは言え、高級別荘地の物件を購入できるとは思えない。


「将門さん、怨霊ってお金持ちになれるもん?」

「福の神でもあるまいし。しかし怨霊で人を取り殺して相手の物を手にする事は可能じゃが、今の時代は他人の物をそう簡単に手にすることはできんじゃろうて」


 家族、親族内なら相続でできるだろうけど、鬼塚の両親共に普通の一般市民だった。


「ちょっとこの土地を調べてみる必要はあるね。その前にこのままこの別荘に行ってみようか」

「駄目じゃ!」


 間髪入れずに厳しい声で止めてきたのは将門だった。

 こんな声を出す将門さんって初めてなんだけど。あまりの剣幕の様子に鈴は黙り込んだ。


「将門さん?」

「嫌な予感がするんじゃ。鈴、母上の親戚の神社に行ってくれんか?」

「え? どうしたの急に?」

「ずっと気になっておることがあったんじゃ。行けば分かるかもしれんからじゃ」


 やけに神妙な声と顔だった。


「気になっている事って何?」

「うむ。神社に行った時に話そう。それにこのままでは怨霊をどうにかする事はできんじゃろうて」


 そうだろうけど、神社に行っても神様は人のためには動かないみたいな事を言ってたのにと思ったが、神様の将門が言うなら言う通りにしたほうがいい気がして、鈴は母親に連絡を入れた。

 すぐに折り返しがあり、今週中ならいつ来てもらっても構わないとの事だった。


「なら今から行きますか。帰りに別荘地に向かってもいいし」

「急じゃな」

「こういうのは思い立った日が吉日よ。今日明日とちょうど連休なのも縁だと思うし」


 車を飛ばして、途中サービスエリアで食事をして平日で渋滞もなく目的の神社には三時間半ほどで到着した。

 車から降りた瞬間に感じたのは、空気が透き通っているだった。


「なんだろう。体が軽くなったような気がする」

「やはり名の知れた神がおられる場所は全く違うっぺ」


 社務所に向かう途中で長い髪を一つにまとめた紫の袴を履いた女性神職に声を掛けられた。


「もしかして鈴ちゃん?」

「はい。時佐田のおばさんですか?」

「ええ、そうよ! 大きくなったわね~~ここに来たのは小学生だったもんね」

「はい。今日は急にすみません」

「いいのよ。それとそちらの生首さんは?」

「え?」


 時佐田おばさんの視線の先には、将門さんがいる。


「見えて、るんですか?」

「見えておるのか。声も聞こえておるか?」

「もちろんでございます。見たところによると、神格をお持ちのようで」

「うむ。儂は平将門じゃ」

「ということは東北の神社に祀られておられる平将門さまですね。鈴ちゃん、なんでまた神様と一緒に?」

「うむ。それは儂が後ほど説明しよう」


 二人の間で話が進む間、久々にこうもはっきりと霊的な存在を共有できる人は珍しくて鈴は呆気にとられてしまった。でも神職なんだから、珍しいことじゃいかもれしないと気を取り直鈴はした、和やかに話しながら歩いていく二人の後を遅れて付いていった。


 案内されたのは社務所よりももっと個人的な感じがする建物だった。


「ここは忙しい時期に寝泊まりできるような場所よ。簡単に言えば、ちょっとした住居スペースね」


 簡易な住居スペースとは言え、おかれている座卓は重厚で安物ではないだろう。おばさんが入れてくれたお茶が卓上に出されると、緑茶のいい香りが鼻についた。将門の前には日本酒は出されている。


「さて美香ちゃん、鈴ちゃんのお母さんから何となく話しは聞いているけど、何より久しぶりね。覚えてる?」

「すみません。何となくしか」


「でしょうね」と時佐田は怒る風もなく笑った。


「あの時の鈴ちゃんは凄く――色々なものに敏感だったから。でもこれも何かに縁というか運命なのかしらね」


 一口お茶を飲んでから「平将門様。ご説明をお願いできますでしょうか」と将門に向き直った。


 ここに来る前に言っていた気になる事の話も含まれているはずだと、まずは二人の話に耳を傾けることにした。


「あいわかった。鈴はもしかして無いものにする者ではないか? 守矢という名前はたまたまなのか、それとも守矢だから鈴が生まれたのかそのあたりの采配は儂には分かりかねる。しかし鈴は意図を持って付けられておろう」


 自分の話をされているはずなのに、時代を遡った内容に聞こえてくる。とりあえず二人の話を聞きながら、お茶と一緒に出されたせんべいを食べることにした。


「そうです。スズは魔除けの意味もありますから。それと無いものにするもその通りでございます。鈴は午前零時零分に生まれた子でございます」

「やはりそうであったか」


 確かにおばさんが言うように零時零分ぴったりに生まれたのは、昔にお母さんから聞いて知っていた。珍しいし覚えやすいなくらいにか鈴は思っていなかったが、二人の話を聞くと何か意味があるらしい。


「私の生まれた時間に何か意味があるんですか?」


 将門とおばさんが顔を見合わせ、説明をしてくれたのはおばさんだった。


「零時零分は陰にも陽にもどちらにも属さない運命の持ち主なの。でもその分、どちらかに傾くとすべてを覆いつくしてしまう。反対に、どちらにも傾かない場合は裁定者にもなれる」


 どうも宗教的な話しのようで、鈴にはさっぱりだった。


「簡単に言えばじゃ。陰に傾けば鬼塚のようにもなる。陽に傾けば陰を押さえられる力が備わる。裁定者はどちらをも抑え込むことができる。しかし裁定者が出現したことは、未だかつてないのじゃ」

「人はどうしてもどちらかに惹かれてしまうから」


 初めて会った二人なのに息が合っているのは、共通の知識があるからだろう。話を聞いていた鈴はふと思った。


「もしかして、私が子供の時にきたのは」


 おばさんは首を縦に振った。


「陰にかなり傾いていたのよ。それで美香ちゃんが慌てて神社に連れてきたの。美香ちゃんもこちらの血筋だからね」


 もしそれで陰のほうに飲みこまれていたら、鬼塚と同じようになっていたのかと思うとゾッとした。「しかし鈴は、陰に近いじゃろう」え? と将門を見ると、かなり険しい顔をしていた。


「どういう事?」

「鬼塚がした事を、子供の頃から見ていたと言うておったんじゃろ? 初めに聞いた時は疑惑程度じゃったが、鈴と一緒に調べているうちに確信に変わったんじゃよ。子供は良くも悪くもまっすぐな心を持っておる。鈴、子供時代に周りを酷く恨むような事はなかったか?」


 無い訳がなかった。同級生などからも気持ち悪がられていたが、一番ひどく嫌だったのは兄と父だった。


 父は気味悪がり、幽霊が見える事に怯えて泣いている私をあやすお母を見て甘やかすなと怒り、私を嘘つきだと言い放って理解しようとしなかった。


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