表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女刑事と将門さん  作者: 安土朝顔
37/63

第37話

整備された階段を数段上り、正面に塚はあるのではなく、右に側に奉られている。首塚を囲んでいるビルの窓からところどころ電気がまだ点いているのも、この風景に溶け込んでいた。




 鈴は明かりを見ながら社畜というか労基はだ丈夫なのかな? と頑張れと心の中でエールを送った。


 鈴と桜葉は首塚の周りに設置されている壁に埋め込まれている明かりで、ほのかにライトアップされている塚の前に立った。




「何と言うか本当、おしゃれ空間だよね」


「僕は以前の首塚のほうが良かったです。都会のど真ん中にある異質な空間が魅力的で、そこだけが時間が止まっているようだったので」と桜葉の感想のあとに「儂の神社は、今のままがいいっぺ。少し、落ち着かん」と将門も鈴にしか聞こえない感想を言った。




 自分も落ち着かないというか、イメージとの違いがあって違和感が拭えないけどそのうちに馴れる気がする。




 鈴は翡翠のネックレスを首から外してポケットに入れる。


 桜葉さんがいるけどもうどうでもいい。このまままた帰ってしまったらまたここに来るのが延びてしまう。




 どうなるか分からないけど、何かが起こってそれに不快感を持たれても別に構わない。それでもう会わなくてもよくなるなら桜葉さんから解放される訳だし。もしかしていい事尽くめかもと、今回鈴は横に回って首塚の周りの石の囲いを数段上って二つの塚に手を置いた。




「り、鈴さん? 何をしてるんですか? 良くないですよ」


「ちょっと黙って」




 神経を塚に集中させる。どうすれば見えるなんて分からない。でも自分が出来る事をしなければ、また被害者出る。




 怨霊の本体は誰? 誰がここの怨霊を吸収した? 次第に掌から火にあぶられているみたいに熱くなってきた。それが掌から腕、肩と体中が熱くなってくる。そして頭の中に映像が流れてきた。




 夜、以前の首塚に足取りがおぼつかない一人のロングスカートを穿いた女性が首塚の前にへたり込んでいる。セミロングで俯いているから顔が見えない。上着は半袖だから季節は夏頃だと分かる。怪我をしているのか擦り傷や服が汚れているし、手は刃物で切ったような傷があり血が出ている。




 女性の姿からどこかで暴行を受けたのかもしれない。何かブツブツと言っているが聞き取れない。女性は這いながら塚に手を置いた。次の瞬間、鈴の体を中から燃やしているみたいに熱くなった。




 熱い! 痛い! それでも手を離す事は考えてはいない。塚に手を置いた女性を漆黒のように黒い靄が一気に覆いつくしてはいるけど、それが吸収されていくのが分かる。




 体の中が焼けるように熱い! 顔、顔を見ないと! 靄が全て女性に吸収され鈴は女性の前に回り込むイメージを浮かべる。鼻元に生暖かい感じがあるが気にしている余裕はない。




「――生まれ変わったみたい。将門様。将門様。あたしに力をくれたんですね」




 そう言っているのが聞こえた。




「ふふふふ。今のあたしはアノ人の隣にいてもおかしくない――あたしのアノ人」




 アノ人って誰の事? 顔を上げた女性の顔がハッキリと薄暗い中で浮かびあがって鈴と目が合った。瞬間、内臓が焼けるような痛さが全身を覆った。




「ッグフ!」


「鈴!」


「鈴さん! どうしたんですか?! 鈴さん」




 鈴は口元を押さえたが、指の隙間から血が漏れ出して膝を付いた。




「大丈夫か! 鈴!」


「鈴さん! きゅ、救急車を!」


「呼ぶな!」


「ですが」


「ごめん、大丈夫だから。大丈夫」




 心配する将門と桜葉に鈴は伝えた。ふと人影ある事に気が付いた。ここには将門さんと桜葉さんしかいなかったはず。でも今、桜葉さんお隣にいるのはハンドさんじゃない――鈴が目を凝らしてその正体が誰だか理解した。




「紗季さん。あの人は誰ですか?」




 首を相変わらず両手で持っているけど怖くはない。紗季の声は聞こえないけど、口は動いている。鈴は紗季の口の動きを読んで、それが人の名前で怨霊を取り込んだ女性のものだと思った。頭の中には名前の漢字が流れ込んでくる。




「鈴、さん? 紗季さん、て……母の事ですか?」




 いつも手だけの紗季さんがどうして、出てきたのかはわかない。というよりも今、鈴の頭が回らない。




「鈴? あの女性が紗季なのか?」




 桜葉さんも将門さんもうるさい。私はもう疲れたから家に帰りたい。気が緩んだ鈴はそのまま目を閉じた。




 目が覚めた鈴はぼんやりした頭で、自分の部屋じゃないけど見知った部屋で、でもどこの部屋か瞬時に出てこなかった。




「鈴、鈴! やっと目を覚ましたか!」


「将門さん、おはよう。えっとここは」


「坊主の家じゃ」




 そうだ。昨日、北橋の自宅マンション前に行ってから首塚に行って、それで桜葉さんと何故か合流してから首塚に触れて――紗季さんが出てきた。




 私、桜葉さんに構わず紗季さんに話しかけた。桜葉さんも何か言ってけど覚えていない。昨日の出来事を思い出して、やってしまったなと鈴は落ち込むことなく開き直った。




「えっと、桜葉さんは何か言ってた?」


「うむ。母が見えるのか、どういう事だとかいっておったな」




 まあ、予想通りかと思い将門に一番確かめたい事を聞いた。




「昨日、紗季さんがいたでしょ? 将門さんは紗季の声を聞いた?」


「聞いたっぺ」


「鬼塚未央。合ってる?」


「そうだっぺ。その名の者が怨霊の本体なのか?」


「うん」




 名前が頭に流れ込んできた時、まるで怨霊を取り込むための名前みたいだと鈴は思った。首塚で見えた鬼塚未央は刃物で切られたような傷というか、抵抗してできた傷みたいだった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ