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女刑事と将門さん  作者: 安土朝顔
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第29話

 鈴は食後に出てきたコーヒーにミルクをたっぷり入れて口をつけた。




「母は、どこにいるかわかりません」


「え?」


「母は、僕が子供の頃に家を出て行きました」




 鈴は何も考えずに「何で?」と聞いてしまった。瞬時に後悔したが、言葉は取り消せない。




「わかりません。でも多分、父のせいだと思います」


「連絡は取ってないの? 会ってもないの?」


「はい。出て行ってから一度も」




 それで父親との溝があるのかと鈴は納得した。鈴は席を離れて飾ってあった家族写真を手にした。そこには小さい頃の桜葉を挟んで両親が写っていた。




 桜葉の両親ってめちゃくちゃ美男美女だった。そりゃあ桜葉さんみたいないイケメンが生まれてくる訳だ。鈴は写真位に写っている桜葉の母親が気になった。




 違う場所に置いてあるもう一つの写真立てを手に取る。




「鈴さんどうかしましたか?」


「ご両親が美男美女でびっくりしたんですよさ。桜葉さん、食べたら眠くなってきたんで、部屋に戻って寝ますね」


「そうですか。ゆっくり寝てください」


「中野さんに挨拶をしたいんだけど、何処の部屋かな?」


「中野の部屋は」




 場所を聞いた鈴は早くなる鼓動を押させつつ、中野の部屋に向かった。




「守矢です」




 ノックをして名乗ると、中野はびっくりした顔で出迎えてくれた。




「どうしました?」


「聞きたいことがあるんです。時間、今いいですか?」


「もちろんでございます!」




 この笑顔、桜葉さんの話でもしにきたんだと思ってそう。間違いじゃないけど。鈴は中野に勧められたソファに座って話を切り出した。




「桜葉さんのお母さんって、家を出て行ったんですか?」


「坊ちゃんからお聞きに?」


「はい。子供の頃に家を出ていったと」




 先ほどまでの笑顔から打って変わって神妙な面持ちなった。




「奥様は、旦那様や坊ちゃんを置いて出て行くようなお方ではございません。それに出ていく理由もございません」


「なら、何処に行ったんですか?」


「わかりません。ある日、ご友人に会うと出かけたまま屋敷に帰ってくることはございませんでした」


「その友人というのは?」


「誰に聞いてもわかりませんでした」


「でも桜葉家の人間が行方不明になったら、捜査とかあったんじゃないんですか?」




 一番は身代金目当ての誘拐が疑われるはず。なら警察も動いたはずだ。




「警察にも届けを出してもちろん捜査はされました。しかし誘拐の可能性は低いと判断され、一般的な家出捜索人扱いに」


「そうなんですね。いつ頃に行方不明に?」


「今から一八年ほど前です」


「わかりました。あのもしよろしければ、奥様の写真はありますか? お借りできたらありがたいんでが?」


「ええ。構いませんが、もしかして探していただけるんでしょうか?」


「何とも。でも知ってしまったので、できる限りの事は」


「ありがとうございます。是非、坊ちゃんと旦那様のためにも、よろしくお願いいたします」




 鈴は中野から写真をもらって部屋に戻ると、ベッドの上で生首の将門が、鼾をかいて寝ていた。




「起きて将門さん」


「ん、戻ってきたっぺか? 儂は眠いんじゃ」




 また寝ようとする将門の頭を叩いた。




「痛いではないか! 目上の者の頭を叩くとは」




 てっきり物理的には無理だと思っていたのに当たった。確かめるために鈴は将門の首を持ち上げてみた。




「え? 持てるんだけど。軽いね将門さん」


「まあ鈴には見えているというのもあるが、相性がいいんじゃろうな」




 将門と相性がいいって何となく、すごく嫌だと思った。




「嫌そうな顔をするでない」


「顔に出てた?」


「かなり出ておった。失礼な奴だっぺ。それでどうしたんじゃ?」


「夢に出てくる首を切られている女性の話をしたでしょ? あれ誰だか分かった」


「何と! 真か?」


「真です」




 中野からもらった写真を将門の首の前においた。




「この女の人。桜庭紗季さん。桜葉さんのお母さんだった」


「何じゃと? どういうことだっぺ?」


「わからない。でも怨霊の本体と紗季さんは接点があるはず。そこで将門さん。桜葉さんの肩に乗っている手って、お母さんの紗季さんだと思うんだ。手と意思疎通はできない?」




 本当は自分が直接聞きたいけど、桜葉さの肩から離れないから声を出して聞く事はできない。




聞いたら頭がおかしいか、どういうことか詰め寄られて面倒臭い事にしかならない。




 だからここが将門の出番だと、鈴は考えたのだ。




「相手は手だっぺ。話せないっぺ」




 あ、と鈴は思い出した。そう言えば将門が部屋に姿を現した時に、神社にある胴体部分にはか顔がないから話せないと言っていた。だから話せる首が家に来たって。




 まさかこんな所で弊害が。鈴は頭を抱えた。




 どうしようかと頭を悩ませた鈴は、指があるから指でイエスかノーで答えてもらう事はできるんじゃないかと考えた。




「よし! なら質問した答えが丸なら指で輪っかを作ってもらって、バツなら指を一本立ててもらう。分からないならグウで。これなら意思疎通はできる?」


「それなら出来ると思うっぺ。それで何を聞くっぺ」


「まずは桜葉さんの母親の紗季さんか確かめてから、山姥みたいな女に殺されたか聞いて。殺されたのなら顔見知りだったのか。顔見知りでなかったなら、全く知らない人間だったか。自分の死体が何処にあるかわかるか。とりあえずこれで聞いて来てほしい」


「あいわかった」




 将門の首はフワフワと壁を抜けて出て行って、五分ほどで戻ってきた。




「将門さん。どうだった?」


「坊主の母親で間違いはなかったっぺ。山姥みたいな女だったかには指一本。顔見知りかどうかの答えは丸じゃった。自分の体が何処にあるかはグウだったっぺ」


「という事は少なくても、顔見知りの犯行になる。桜葉さんは警視総監との伝手があるなら、それなりに紗季さんの身辺も洗って捜査はしていたと思うんだけど。なんと言っても桜葉家の奥様だもん。この辺りはどんな風に捜査されたのか、調べてみないと」




 結局は登庁しないと何も調べられない。屋敷を抜け出しても連れ戻されそうだし、そもそも登庁を禁止されている。抜糸まで大人しく過ごすしかない。




「よし! 明日朝一番で病院に戻る」


「何故じゃ?」


「ここは疲れるから。病院の方が精神的にいいの」




 さて寝ようと思った鈴だったが、夕方に寝過ぎてしまい結局は深夜以降まで映画を何本か見て寝落ちした。




 翌朝、なんとか桜庭と中野を説得した鈴は、渋々と言った顔をした運転手がいる車で病院に向かっていた。必然的に後部座席には鈴と桜葉が並んで座っていた。




「本当に抜け出したりしませんね?」


「しないって。抜糸まで病院で大人しくしてるって」


「誓えますか?」


「全部の神様に誓うって」


「――わかりました」




 納得がいっていませんという表情をしていて、鈴は思わず笑ってしまった。




「僕、何か面白い事を言いましたか?」


「え?」


「笑っていたので」


「あ~~桜葉さんって表情筋あまり働かないけど、結構顔に出るから面白いと思って」


「そうですか? そんな事、言われたことはありませんが」


「そうなの? まあ社長にそんな事は思っていても言えないからね」




 朝の渋滞に巻き込まれず病院についた鈴は、中まで付き添おうとする桜葉を追い返して、入院手付きをした。

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