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女刑事と将門さん  作者: 安土朝顔
20/63

第20話

「ちょっと! 勝手に入らないで!」




 部屋の中ではあの映像の子供がそのままいた。額からは血を流し、手足は切り傷やアザで色が変色している。それでも小さな体の胸元は小さく上下していた。




「あんた、これはもう虐待の範囲を超えてる。殺人未遂だ」




 鈴はスマホを取りだして、加地に電話をかけようとした。




「鈴!」




 背後にいた母親が鈴の首に腕を回してきた。




「ッグ!」




 何、この力。大男みたいな力! 普通の女の人の力じゃない! 腕を解く事を諦めた鈴は、そのまま女に首を絞められたまま部屋の壁に母親を何度も体当たりで叩きつけ、左肘で鳩尾を殴った。




 力が緩んだ隙に母親から離れたが、直ぐに飛びかかってきた。




 うっそでしょ! 体勢を整える早すぎでしょ! 首を締めようとしてくる母親の腕を掴んだ鈴は、下半身を回転させ相手の背中を蹴り上げ、体勢を逆転させ腕で首元を固定して動きを何とか封じ込める。




「鈴! 祓!」


「はい?!」


「祓えるんじゃろ! 祝詞だっぺ! そでないとその母親は死ぬぞ!」




 確かに、今まで黒い靄に対して軽く唱えてはきたけど、こんなどす黒いのに効くのか。でも今は将門の言葉を信じるしかない。




「掛けまくも畏き 伊邪那岐大神 筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に 禊ぎ祓へ給ひし時に 生り坐せる祓戸の大神等 諸々の禍事・罪・穢 有らむをば 祓へ給ひ清め給へと 白すことを聞こし召せと 恐み恐みも白す 祓え給い、清め給え、 神 かむ ながら守り給い、 幸 さきわ え給え」




 母親が苦悶の表情で苦しみ始めていた。




「将門さん! 何か凄く苦しそうだけど!」


「まだじゃ! 続けるんじゃ鈴」




 デフォルトが笑っているピーポー君のぬいぐるみは、この状況でかなり不気味で異質だった。




 鈴は将門に言われた通り祓詞を繰り返した。三回ほど言い終わったところで黒い靄がスッとなくなり、母親はそのまま気を失った。





 あれから加地に連絡を入れ、管轄の警察署に任せて鈴は本庁に来ていた。




「お前、早番で帰ったよな?」


「そうですね」




 鈴の前で飽きれた顔をしていたのは、上司の飯塚係長だった。




「何でまた、あの家の子供が虐待されていると分かったんだ?」




 だよね。そうなるよね。映像を見ましたなんて非科学的な事はもちろん言えないし、どう誤魔化そうか。頭をフル回転させて適当に嘘を並べるしかないなと鈴は諦めた。




「知り合いの人が、知り合いから相談されたらしくて、私に話しを聞いて欲しいって前に言われて聞いたことがあったんですよ。それで今日は天気もいいじゃないですか? 気分転換にドライブに出かけたんですけど、ふと思い出したんです。ちょうど近くを通ったから様子を見てみようと思って」


「前って、いつくらいなんだ?」


「結構、前? そんなの覚えてませんよ。でも良かったです! 子供は無事で。そう思いませんか? 係長」


「まあ、な。かなり瀕死の状態ではあったみたいだが、一命は取りとめたようだし」




 確かに、命が救われたのは結果的には良かったと思う。でもあの子は、母親にされたことを確実に記憶して成長していく。




きっとかなり苦しみながら生きていくことになるんだろなと鈴は、本当はあのまま死んでいしまったほうがあの子にとっては良かったんじゃないかと頭に過った。




「ところで何で、あんな虐待をしたんですか?」


「あの母親、バリバリのキャリアウーマンだったらしいんだが、夫の頼みで仕事を辞めて家庭におさまったらしい。だが、同期の女性たちは結婚をして出産しても働き続けて出世していたそうだ。それをたまに集まる同期から話を聞いて羨ましいと思っていたんだと。でも子供にあんな事をするつもりはなかった。私じゃない! と今は話にならないらしい」


「そうですか」




 怨霊に憑かれて祓っても、自分がした事は覚えているのか。きっとあの親子の関係は戻る事はないんだろう。母親も子供も負った傷は大きくて深すぎた。




 飯塚係長から、今後は休みの日に同じ事があったら連絡するようにと軽い注意だけ受けて、本庁を出ることにした。

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