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海賊姫エリーザの冒険

 ところで、この大陸は獣族にほぼ占領されたけどフォーサイトなんて海から攻めて包囲すれば獣族の勝利だったとか思ってないかしら? どうして私の活躍が書いて無いのかしらね。いいわ。教えてあげる。


 このフォーサイトという国は「シーパワー」の国と呼ばれているわ。これに対し獣族の国クル・ヌ・ギアは「ランドパワー」って言われてるタイプの国よ。もう分かりますよね?


 そう、フォーサイトはクル・ヌ・ギア側の海上を封鎖したおかげで獣族は海に出られなくなったの。結界で。


 ええ、主に私の仕業よ。


 本当、あのクロエ家って私が怪しまれるように仕向けたうえで数々の所業を隠してたんですもの。気にくわないですわ。悔しいからうっ憤を晴らしましたわ。海で!


 で、フォーサイトに逃げたときに国民全員でゴーレムで戦うとなったときに気が付いたの。「あれ? 海から獣族が攻め込まれたらこの国終わりじゃね?」って。そこでアネットに海軍増強を提案いたしましたわ。


 型紙も読めない私たち庶民が覚えるのは至難の業よ。だから訓練と学業が同時進行だったわ。でも私たちはそれを乗り越えた。貴族以外であっても戦力になるのだと。


 そして私たち庶民はゴーレムを動かすこともゴーレムを大量生産することも出来ましたわ。それは初等教育や中等教育を国民教育にする必要性にようやく貴族たちも気が付いたって事ね。


 私たちはゴーレムから魔導砲の雨を注ぐことにしましたの。獣族を討ち落とすのは本当気持ちよかったわ。そして海に魔導石を置いて結界を張ってもらうのよ。アネットが動かす人形によって。


 こうして獣族は海には出られなくなったわ。というか碌に泳げないのかしら? あいつら。


 獣族の船員全員を捉えて身ぐるみはがすのは面白かったですわ。憎しみがこみあげるあまりすべてのものを没収することにいたしましたの。そんなことしてるうちについたあだ名は「海賊姫」ですわ。失礼ですわね。確かに抵抗する者は殺しましたけど抵抗をあきらめた者はフォーサイトに移送してからクル・ヌ・ギアに返すことにしましたわ。私って優しいのですわ。


 「この大陸は終わりだー」と言いながら旧大陸に逃げる方も多数おりましたわ。でも結構座礁して逆に命を落とす方も多かったの。


 そこで無人島に補給基地を置くことにして保護することにいたしましたわ。正式に聖女であるアネットに領土を献上いたしましたわ。無人島を有人島にすることもしましたわ。本当……人が住めない島を住むようにするのは想像を絶する苦難でしたわ。


 アネットから『私掠免許』ってものをもらいましたわ。アネットも本当に悪女ね。あの三日月の笑みを私は忘れませんわ。「悪役令嬢」とか「魔女」と陰口叩かれるの本当にわかりますわ。え? 『私掠免許』って何かですって? これは海賊の免許よ。敵対する国の船は襲って奪ってもいいって事になったの。海賊って誰もがなれる職業じゃないわ。ならずものがなる職業でもないのよ。


 こうしていくうちにフォーサイトは海洋国家になりましたわ。海賊行為を辞めた私たちは海上警備にあたることになりましたの。


 私達はいろんなことに気が付きましたわ。私たちは領土のほとんどを失ったのではない。代わりに大洋という領土を得たのですわ。


 海上警備という公務を管理するにあたってこのままだと庶民のままでは困るから君は貴族になりたまえと上層部は言ってきたわ。あの非常時に庶民は学食すら使わせてもらえなかったという屈辱を忘れていませんわ。ええ、行きましたわ。学費は国持ちでしたし。


 入学してからゴーレムってこのように動く仕組みなのかと感心しましたわ。寮にも入りましたわ。さすがに私をいじめる馬鹿はおりませんでしたわね。海賊姫に歯向かう馬鹿はおりませんでしたわ。でもその時気が付いたの。


――私……貴族に仕えるメイドだったんじゃないって?


 だから貴族の作法を身に着ける……というかメイド時代の事を思い出すことにしましたわ。するとますます海賊姫の「姫」の部分が強調されてしまいましたの。失礼ですわね。


 そんな時に聖女アネットがクル・ヌ・ギアまで行ってなんと獣族のために戦うということを聞きましたわ。本当、聖女って敵対国にまで愛を注ぐ者なんだと思いましたわ。


 獣族はその後名誉だけでも勝ち取りたいとクロエ家を使って決闘してアネットに見事に負けたのはもう皆さんご存じよね。


 で……アネットが休学したせいでなんと私はアネットと一緒の学年になったのよ? 信じられる?


 まあ……私も卒業しましたわ。一代限りの貴族になりました。意味のない籍だとは思いましたけど。だってもうそのころは貴族の籍なんて名誉以外に意味を持つものではありませんでしたから。


 寮を出て高層アパートを借りましたわ。このころにはゴーレムなどの技術を扱うには国民全員が最低でも中等教育までを受けるようにと義務教育を受ける制度が生まれましたわ。ちょっと前まで児童が労働してた事を考えると劇的に人間の生活水準が向上したように感じられますわ。同時に1代限りの貴族という称号も「大卒以上」という意味以外の価値を喪失しましたわ。大学での出会い? ありませんでしたわ。海賊姫というだけで皆逃げて行きましたわ。アネットとフェルナンデスはともかく。


 う~ん。大学って出た意味あったのかしら?


 職務に戻った私は岩礁などの領土化を行いましたわ。この国は決して国土の狭い国なんかではございませんわ。「海洋大国である」と訴えたのですわ。灯台も設けて座礁事故を防ぐことも行いましたわ。海水を淡水化する技術と人が住めるスペースさえあればそれは「島」なのですわ。


 大地は重要ですわ。でも海洋もまた大事。そういうことに気が付いてくれる人は少数派なのよね。


 淡水化技術は苦労しましたわ。下水道と浄化槽はもっと苦労しましたわ。淡水化に関する魔導石の研究は大学が協力してくれましたわ。


 ん? そうなのか。大学ってそういう場なのか。研究することに意味があるのですわ。卒業してから気が付いてどうするのかしら? 私……愚か者ですわ。


 海賊行為もせず『私掠免許』も正式に失効した時アネットとフェルナンデスらは同窓会なるものを開いたということを聞きましたわ。そこに私は居なかった。残念ですわ。領土のかなりは私が取ってきたものなのに。


――ほとんどの人は海に目を向けてくれないのですわ


 しかもこの時アネットがクル・ヌ・ギアにあった瘴空を晴らしたと聞いてまたも驚愕しましたわ。本物の聖女ってこういう存在を言うのかと。生まれたばかりの子を置いて敵国のためにも尽くす聖女。信じられませんわ。フェルナンデスもフェルナンデスね。普通の夫なら離婚しますわ。器のスケールが通常の人とは違うのですわ。


――みんな陸地の偉業ばかりに目が行きますわ


 そんなとき貴重な「海」に興味を持ってくれる人物に出会いましたわ。カルパスって言うの。よく彼とは船上でお茶会やりましたわ。ケーキラックも置いて。ええ、誤字ではございませんわ。海の上ではお菓子類はケーキスタンドでは塩味がついてしまいますの。このため海上でのお茶会では箪笥たんすのような引き出しがあるケーキラックを使うのですわ。

 ようやく私も結婚することが出来ましたわ。私は海上警備……今でいう海洋省公務員というものを辞めて主婦になったのですわ。今では一男一女の子に恵まれた主婦ですわ。


 それからしばらくして聖女のリシテア様に呼び出されましたわ。私、何事かと思いましたわ。そしたら私を獣族の地にある大学のカラン魔導学院の旧食堂、現博物館に連れて行き……私の業績を展示するって言うのですわ。


 びっくりですわ。というか見ている人はちゃんと見ているのですわ!


 こうして私は外交官と共に陸地では初となる「外国」に行ったのですわ。

なんと聖女様は私の肖像画までお描きになられましたわ。そしてそれを博物館に飾ったのですわ。そして地図を飾るときに皆驚きましたわ。


 「シーパワー」


 海洋国家フォーサイトという現実に皆やっと気が付いたのですわ。そして私も人形姫伝説の一員になれたことを誇りに思ったのですわ。


◆◇◆◇


 それからしばらくしてアネットはなんと大学院に行きましたわ。驚きですわ。何から何まで常識というものを破っていくお方なんですわ。そんな情報を耳にした時また聖女様から呼び出しがありましたわ……。


 夫は「またお前は何かしでかしたのか!」と怒鳴るのですわ。「黙ってろ!」というとおとなしくなるのですが。いけない。海賊時代の地が出てしまいましたわ。


 本当、悪役令嬢ものに出てくる馬鹿王子キャラですわ、ウチのツレは。


 なんとリシテア様は聖女を辞めると言い出したのですわ。そして次の代の聖女は私にすることになったのですわ。海賊時代の偉業も考慮しての話ですって。


 ――条件はアネット同様大学院に行くことと聖女の力を学業に悪用しないこと


 私……あえて夫に聴かずに聖女の地位を引き継ぐことになりましたわ。


 夫はそれを聞いた時……顔面蒼白になりましたわ。聖女ってある意味女王でもありますから。夫は「そうか……そうか」としか言えませでしたわ。滑稽ですこと。


 私は委員会で正式に聖女の位を引き継いだわ。


 そして私は修士課程に入学。アネットの1年遅れで入学しましたわ。研究テーマはサンゴ礁の再生ですわ。


 サンゴ礁を再生するとどうなるかですって? 岩礁だったものが「島」になれるのですわ。結局私は「海」が無いと何もできない女って事に気が付きましたですの。魔導の力でサンゴ礁を再生する。難しいですわ。でも誰も成し遂げたことが無いことを成し遂げるのが「研究」なんですわ。


 修士に行って初めて気が付きましたわ。学部なんて所詮研究のさわり、学問の入門しかやってないことに。学問の本番は修士課程からやるのだということを。


――大学に行く意味って修士課程に行く資格を得るって意味でもあったのね


 サンゴ礁は新しい魔導石として新しい魔法を発動する事を発見しましたわ。ん? 海底に資源がある……。ということはもしかして……。


 そうなのよ。海底は資源の宝庫でしたわ。無人島を有人化するのは魚介類を取ることや座礁を防ぐだけじゃない。緊急避難の場だけじゃない。もっともっと重要な意味があったのですわ。


 海底には地上ではめったに取れないレア魔導石なるものもありましたわ。とても2年では研究テーマで収まるものではありませんでしたわ。博士課程に行くことになりましたわ。


 夫は中等教育が最終学歴なので修士課程や博士課程の世界は知りません。夫の知らない……いや大半の人が知らない博士課程という世界に行くことになったわ。国政をやりながら。


 海底の石が魔導の力をより容易に蓄電することまで分かりましたわ。すごい。見つけたときはやった~! って喜びましたわ。


 こうして我が国はますます製造業も海運業も海上火災保険業も栄える大国になったのですわ。フォーサイトは世界屈指の富裕国にして都市国家となったのですわ。


 博士号の授与が私に行われたわ。私「ドクター」になるのね。こうして新しくついたあだ名は「海賊博士」ですって。本当失礼ですわ。


 そしてリシテア様やアネット様の気持ちが分かっちゃったわ。聖女というだけで頭を下げに来るクズが多い事。エリーザという人間に頭を下げているのでございませんわ。そういう人間の醜いところを見てしまうから聖女をやめてしまうのね……。


 リシテア様は初等教育や中等教育の義務化を行いましたけど聖女として私も実績を作りましたわ。幼児教育よ。幼児教育を行えるものは幼稚園へ。共働きで幼児教育を行えないものは保育園へという形にしたわ。


 きっと夫が怒鳴ったのは子供が小さいのに自分の事ばかり考えてという怒りから来てるんだわ。だったら共働きでも大丈夫なように社会全体で教育する場を与えるのが聖女としての使命なのですわ。


 そして次の聖女候補を見つけましたわ。オリビアって言うの。なんとその子は若いのに老いた両親の世話をしてる子だったわ。今度は老人福祉というものに力を入れるべきなんだわ。


 聖女職を辞めてから私アネットやリシテアとよくお茶会するようになりました。うふっ。私もこれでアネットやリシテアと一緒だわ。フェルナンデスはツレに向かって「お互い妻で苦労してるな」ですって。本当失礼ですわ。ツレは「生涯の友よ」とか言ってるわ。本当失礼ですわ。まあ……無視しますけど。リシテアは聖女辞めてから結婚したって。リシテアの夫であるフィルマンにもこの時出会いましたわ。フィルマンは芸術家であるリシテアのぶっ飛んでる発想に疲れてフェルナンデスやツレに「心の友よ」なんて言ってるわ。本当っ……男って駄目ね。


 私は聖女をやめてから大学教授講師、准教授、教授と順調に出世しましたわ。ダブルインカムのおかげで離島に別荘まで買うことが出来ましたの。


 何者でもなくなった私は時折船で別荘から遠洋に出かける。「海賊」だったときの私に戻れる。海は私のものだ。誰にも邪魔はさせない。この大洋を独り占めにする権利は誰にも渡さないわ!


=海賊姫エリーザの冒険 終=


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