~序~
校長でもあり学園長ソフィアは聖女でもある。
ソフィアとは本来は称号だが名前としても在職時は扱われる。高位聖職者の証である竜神の杖に緑と蒼の聖衣。ここで校長職も兼ねている。実際は副校長が校長の業務の大半を行うので聖女……つまり校長が出てくるのはまれなのだ。水晶玉を通じて知ったソフィアは急遽アネットの家まで駆け付けたという。勿論騎士団もつれてだ。よっぽど深刻な事態なのだ。
「アネット」
久しぶりに見るその姿は畏れすら感じる。なにせ国の女王でもあるのだ。
「聖女……様」
「貴方を保護しに来ました。おそらく近所の村も間引きに協力してるはず。今のうちに逃げるのです」
(間引き!? どういうこと? そもそも間引きって何!?)
「フェルナンデス、アネットを連れて帰るのです。人形もです」
「承知」
「聖女様……保護ってどちらに?」
「勿論学園にです」
(さらっと言ったけどそれっておかしくない? だって放校に等しい形での卒業じゃん!?)
「私、でも内部試験に落ちて……高等教育課程に行けなくて」
戸惑うアネットの声に聖女は人形を見つめる。
「このサーチ用人形を作ったのはアネットとあなたですね」
「はい」
「これだけの成果物があれば校長の権限で特別推薦入試で入ることが出来るでしょう。アネット、高等教育課程を出れば貴族籍は戻ります」
(は?)
「中にはそうやって自分の人生を取り戻したものも居ます。だから予備校というものが存在するのです。まあ成功率は2割ほどですが。面接試験だってあるわけですし。でも特別推薦入試は違います。面接だけです。とはいえ……あなた1年ダブってしまうんですが」
(うそ!? 私貴族に戻れるの!? ん、まてよ。そういえば学園城下町に予備校があったな。何で親は浪人を許してくれなかったんだ?)
「聖女様……ここはいかがしましょう?」
フェルナンデスがかしこまって聞く。
「聖女の権限で差し押さえます」
「承知」
「食糧危機が起きればまた同じことが起きます」
「聖女様、あれを」
騎士団の兵士の一人が指を指した。
「結界が割れてる……」
アネットが見た空。聖女が張ったはずの結界の一部に割れ目が入っていた。というか結界って割れるといかにも「結界」として見えるようになってるのか。なんで自分は空の異変にも気が付かなかったんだろう。
「魔族はここから……」
驚く様子もなく聖女は確かめる。
「おそらく」
「いそいで私が修復しなければ」
なんと聖女は破を出して結界を修復した。空はいつも通りの色に戻った。結界の色も見えなくなった。
アネットは聖女の結界の呪文をぼーっと見ていた。現実を受け入れることが出来なかった。
アネットの人生はこうしてまた急展開した。