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第十七話

 アネットは控室に入った。マルコシアスが懐から遺書を取り出し封を開ける。そして遺書をアネットへ手渡した。


 アネットは覚悟して読むことにした。


『親愛なる妹アネットへ。この文を読んでいるということはもう私はこの世にいないことでしょう。そしてこの結果は予測できたことでした。私達家族はいつも傲慢でそれでいて理想を追いかけていました。貴族制を批判し獣族の理想を取り込みながらアネットを馬鹿にしていた。新しい被差別層を作ってるだけで矛盾してるのです。もうその時点で私たちは負けていたのです。


私はそんな負けることを承知の上でエレシュキガル候補になりました。才女として。でも才女って所詮は既存の知識をなぞる事だけに優れているだけ。本当に優れているのは天才と呼ばれてる者。そう、アネット。貴方の事よ。いつも突拍子もない事ばかり思いつき行動する貴方という人間の価値を見出せなかった時点でもう負けていた。だから私は敗者の側からあなたを見守っています。


これからきっとあなたは『家族殺し』とか『人形遣いの魔女』と恐れられ悪役令嬢として歴史に名を刻むことでしょう。でも姉は知っています。本当は誰もが優しい心の持ち主であることに。でなければ影裏族を討って獣族をも守るなんてことをするはずないですもの。


これから聖女を辞めた貴方はどんな人生を歩むのかしら。私は静かにあの世で見守っています。


シャーロット』


 涙が頬から伝わる。


「読み終えたか」


 マルコシアスが聞く。


「ええ」


 「じゃあ、控室の外にいるフェルナンデスを呼んでくる。君は夜中にここを出発して王城の魔法陣を経由し夜中のカラン魔導学院からすぐに抜け出して国境のゲートに向かう。それでいいね? それと出る直前にシャーロットの埋葬も行う。ギリギリ間に合った。なお……この辞世の句はカラン魔導学院に飾ることとなっている」


 フェルナンデスが再び控室に入って来た。


「これは君たちの遺書だ」


 マルコシアスは皿に載せてゆっくりと燃やす。紙は灰となった。


「君たちは今後も生き続ける。遺書はまだ早い 我々はこの遺書を利用する気はないことを確かめてもらった」


 まさに「義将」である。


「では早いが昼食だ。夕食はない。夕食は母国に帰ってからにしてくれ。ここでの食事もこれが最後だ。深夜の移動になる」


 運ばれてきたのはちょっと変わった食べ物だ。


「ハンバーガーだ。獣族の名物だ。こんな形で名物料理を提供するなんてすまんな。食べ終わったら昼寝してくれ。動くのは深夜だからな。私はいつも通り国境前でお別れだ」


 二人は食べ終えると旅支度を始めた。


 「最後まで気が抜けないな」


 「襲われるかもしれないからね」


 昼寝を終えて夜になる。外を見るとまだ暴徒が居る。


 夜にシャーロットの埋葬をマルコシアスや神官と共に見届けた。獣族の葬式は人間とあまり変わらなかった。聖歌がないぐらいだろうか。かわりに葬送の呪文が響く。


 用意された馬車はなんと葬式用のものであった。しかも「シャーロットよ、永遠に」と書いてあった。


「さ、これに乗れ」


 マルコシアスとアネットとフェルナンデスだけではなかった。そこにはエレシュキガルもプルゾンも数名の近衛兵もいた。

 

 五人はうまく暴徒を誤魔化し王城に入った。エレシュキガルとプルゾンは王城で別れを告げた。そして王城の魔法陣からマルコシアスとアネットとフェルナンデスはカラン魔導学院へ無事転送出来た。まだ油断ならない。学園内で不意打ちする者がいるかもしれぬ。そこからは学院が用意した普通の馬車で国境まで行く。暗闇の学園中っひっそりと用意された馬車で国境のゲートに向かう。


 間に合った。


「お別れだ」


 係員がゲートを上げる。マルコシアスが来れるのはここまでだ。


「本当にいろいろありがとうございました」


 アネットが頭を下げる。


「頭はさげなくていい。当然のことをしたまで」


「私からも礼を言う」


 フェルナンデスも頭を下げた。


「また、どこかで会おう」


 国境のゲートを見送るマルコシアスの姿はどこか寂しげであった。


 ――もう四天王として、ではないがな


 その小声は誰にも伝わっていなかった。懐から取り出したのは辞表であった。


 係員が見てる。マルコシアスは慌てて辞表を隠した。


 マルコシアスの四天王としての最後の仕事が残されていた。それはシャーロットの遺書を届ける事である。この遺書をどのように評価するかは後世の歴史家に委ねるのだ。

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