第十二話
アネットは控室でシャワーを浴びていた。血だらけだった体を清めた。15分しかない。急いで着替える。血だらけとなった服は洗濯をお願いした。
アネットの服装は普段着になった。
「まあ……仕方がない。多少防御力が落ちるが結界を張れば問題ない」
「そうよね」
「獣族の血は飲んでないよな?」
「飲んでないわ」
「今のところ確認されてないが人間が人間の血肉を食うことで獣族となっていく。ということは別のパターン……つまり人間が獣族の血肉と食うと何が起きるか分かったもんじゃない。絶対に飲むな。血を浴びてもいかんぞ。うかつだったな」
そうだった。憎しみで我を忘れていた。
「日没まであと2時間だ。耐えられるか?」
「耐えて見せるわ!」
「とにかく今日はもう勝とうとか思うな。アネットはもう連戦に次ぐ連戦なんだからな。防御に徹しろよ」
フェルナンデスはくどいほど釘を刺した。
「これより第六戦を開始する! アネットは前へ!」
ベレトの声が聞こえて来た。アネットは休憩時間のほぼすべてをシャワーに使ってしまった。
◆◇◆◇
誰も居なくなった控室にシャーロットは居た。いかに自分の妹に非道い事をして来たのか。その憎しみが伝わってくる。兄の首を嬉しそうに刺す妹。どれだけ酷いことを我々家族はアネットにして来たのか。よく分かった気がする。凄惨な笑みを浮かべながら兄の首を刺す妹の顔が離れられない。
緊張を解くために飲もうとしたティーカップの震えが止まらない。自分も最後はあんな最期を迎えてしまうのだろうか。シャーロットは紅茶を少しだけ飲んだ。
私はその憎しみを浄化しなくてはいけないんだわ……。
本当にエレシュキガル候補としての覚えた数々の魔法が機能してくれるのか。心配だった。
シャーロットは飲みかけのカップを机に置いた。
シャーロットは自分の姿を鏡で見る。羊の角に竜の尾。足も羊の蹄を持ち翼は兄譲りの誇り高き純白の翼。その尾も成長していた。尾も白色となていた。
――自分を信じなければ殺される!
「これより第六戦を開始する! 次期エレシュキガル候補シャーロットは前へ!」
◆◇◆◇
シャーロットとアネットが対峙した時突如審判のベレトが宣言した。
「これよりエレシュキガル様より伝えることがある。よく聞くように!」
アネットも観客も一斉に貴賓席に目を向けた。
「シャーロットは次期エレシュキガル候補である。この試合でもってエレシュキガルになる資格があるかどうかを見定める。もし資格があるのなら我はエレシュキガルを引退する!」
観客はどよめいた。
――これは次期エレシュキガル候補のための試験でもあるのか
――次期エレシュキガル候補なら先代の人間側の聖女アネットよりも強いはず
――そうだ、獣族の方にまだ未来はあるんだ!
――シャーロット!
――シャーロット!
観客席からシャーロットコールが響く。
「静まれ!」
ベレトが制止する。
「静まるのだ!」
そうか。これが狙いなのか。私アネットを倒しシャーロットがエレシュキガルに就くことで傾いた国家の威厳を保つ。それが現・エレシュキガルの真の目的なのだ。
会場がようやく静まった。試合開始時間はさらに遅れた。エレシュキガルはアネットが狙う日没による試合延期に手を貸したようなものだ。ある意味チャンスである。
「試合開始!」




