第九話
アネットたちは控室で必死にアグリちゃんの脚を治していた。
しかし縫う時間すらない。
「もうこれでいい。もう時間稼ぎにしかならない。アネット、休もう」
「そうね……」
「人形も命あるものととしてここに埋葬されるそうだ」
それは人形の最後を見届けろと言ってるに等しかった。
「それと2戦終わった後には午後の休憩が1時間入ることになってる。そこで体力を回復させるしかない」
「次の戦いは一瞬で敗れそうね」
「だろうな。もうエネルギーをあまり使うな」
アネットは控室の紅茶に眼をやる。
「紅茶、飲んでいいかしら」
「もちろんだ。次の試合は気楽に行け。クッキーもどうだ? 紅茶には精神を落ち着かせるハーブも入れた」
「遠慮なくいただきますわ」
「私も頂こう。『落ち着け』と言ってる人間が動揺してたらみっともないからな」
控室には静かな時間が流れた。
「これより第四戦を開始する! アネットとアグリちゃんは前へ!」
ベレトの声を聴くとアネットは静かに進み出した。
◆◇◆◇
一方のクロエ家の控室。ライオネルは怒り狂っていた。
「殺す!! アネットを……魔女を殺してやる!!」
両親の敵とばかりに吠えていた。
「落ち着いて! そんなんじゃ兄様までやられてしまいますわ!」
シャーロットも悲鳴に近い声を上げる。
ライオネルは両親と違って角が無い。皮膚も人間の色と変わらない。白色の翼と白色の尾がなければ人間そのものだ。ライオネルの武器は鎌である。その姿は伝承に出てくる死天使そのものであった。武具は鋼の甲冑で身を固めていた。
「次の試合が終われば昼休みに入るの。兄様も午後の事を考えて!」
「ああ、もちろんだ。あんな人形消し炭にしてやる!! 午後は真の敵と戦えるんだからな」
「これより第四戦を開始する! ライオネルは前へ!」
ベレトの声に怒り狂ったライオネルは駆け足で行った。
(まずいですわ)
◆◇◆◇
「これより第四戦を開始する! クロエ=ライオネル対アグリちゃん! アネットは白い線の内側へ!」
アネットは白い線の内側に入った。
「試合開始!」
なんとアネットはアグリちゃんに結界を張らなかった。事実上のノーガードだ。
「なめてんじゃねえ!」
ライオネルは雷撃魔法と業火の術と次々繰り出した。人形は火柱となった。鎧だけ焼け落ちる形で残る。その鎧は崩れ落ちた。
「勝負あり! 勝利者はクロエ=ライオネル!」
予定調和ともいえるこの試合に観客は白けた。
「これより1時間の昼休憩となる!」
ベレトは昼休憩を宣言した。
「アネット! 首を洗って待っていろ!」
闘技場からアネットを指さすライオネル。
「相手にするな。とにかく体力と精神力の回復に専念するんだ」
「ええ、フェルナンデス」




