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第二話

「これはこれは」


マルコシアスがゲートで驚く。


現れたのは人形兵2体にアネットとフェルナンデスだったからだ。人形兵は鎧の音がする。


「この2体の人形を特例として出場権を与えてほしいの」


このアネットの提案にエレシュキガルは即答した。


「もちろん。人形姫。それでこそ人形姫」


「では、出国していただこう。転移はいつものカラン魔導学院からだ。転移先は旧王城ペンタグラム。そこから徒歩だ。旧王城はテンカロ神殿に近い。神殿までの行程は我らが守ろう。もちろん帰りもだ。……生きて帰ってこれたらな」


そういうとマルコシアスがゲートを開ける指示を出す。


「言うの忘れたけど人形姫よ。補給は戦闘中では禁止ね。休憩中は認める。そうしないとあなたが超絶に有利になる」


「もちろんよ」


「反則した場合は私が処刑することになる。いいね?」


「ええ」


もうぼくらは何度もこうして国境を越えたか。ほかの人類はフォーサイトに閉じ込められたままの生活をしてる。あるいは旧大陸に帰ったかだ。


カラン魔導学院に着くと聖女だった頃のアネットとはやはり学生や生徒たちの態度が変わった。畏怖の眼から一気に冷酷な目に変わっていった。


そんな中アネットに駆け付けた者がいた。交換留学生のアッシュとコルネルだった。なんとイブラヒムからわざわざ駆け付けたのだ。


「アネット様、それとフェルナンデスさん」


「もう『様』はやめて。もう聖女じゃなくなったんだし」


「これを」


それはお守りであった。


「アッシュ。ありがとう」


「アネット。俺はもう一度君とゴーレムで戦いたいぜ」


「ありがとう。コルネル……また戦おうね」


「もう会話は済んだか?下手するとこれが人間同士の最後の会話になるのかもしれないんだぞ」


冷酷なことを言うマルコシアス。


(本当は言いたいことは山ほどあるけど……)


「アネット。ここで感傷にふけったらかたき討ちに敗れるぞ」


フェルナンデスはいつも冷静だ。すごい。


「分かってる」


「よし、それではいつもの魔導ゲートに行こう」


行きついた先は王城。そこから神殿に向かった。


「ここが生贄の神殿」


そう、先代聖女ソフィアが生贄としてささげられた神殿である。


「戦う前にいいかしら」


「アネット。申してみよ」


エレシュキガルは少し苛立った。


「先代聖女の墓はあるのかしら?」


「勿論あるぞ。そうか。祈りたいのか。特例で認めるぞ。今日はこの神殿で両陣営ともに泊まる。明日、両陣営は戦う。1対1だ。勝負は命を奪うまで。いいな? それと食事の件は信用しろ。我らはそこまで卑怯者ではない」


「もちろんです」


今更引き返すわけにもいかぬ。アネットは先代聖女の墓にたどり着いた。誰が守ってるのか知らぬが花が墓の前に置かれていた。


「私が先に祈りをあげた」


祈りをささげたのはマルコシアスだったのか。墓は大事してあった。


アネットとフェルナンデスは祈りをささげる。


「祈りは済んだか? 両陣営この時より戦いが終わるまでこの神殿から出られない。死んだ者は人間の場合生贄としてささげられる。獣族の場合はここに墓を建てる」


エレシュキガルは事実上の戦闘開始を告げたようなものであった。


「食事は両陣営別の部屋で食うことになる。乱闘防止のためだ」


さすがは義の四天王マルコシアス。卑怯な手は使わない。


「ええ、それでは食堂を紹介して」


アネットは食堂で食べる希望を出した。


「ここは神殿だ。食堂はない。各自部屋で食べてもらう。まあ神殿全体が生贄を食う食堂……とは言えるがな」


このマルコシアスの冷酷な言葉に2人は載らなかった。2人の態度にマルコシアスはそうこなくてはとでも言いそうな表情を見せた。


「アネットよ。食事を終えたら聖浴をせよ。何、通常通りの風呂でいい。トイレもここにはある。これより戦いの刻まで部屋から出る事を両陣営に禁止する」


食事が運ばれてきた。牛肉のステーキだ。じゃがいもやにんじんやブロッコリーもあった。これが獣族の故郷の味なのだそうな。学食でもよく見かけるメニューだった。パンと紅茶もあった。


「彼らが今からこの扉を監視する。無いとは思うが窓もだ。逃げることはできない。仮に逃げようとしたら処刑となる。絶対にするなよ?」


「もちろんよ」


アネットは即答した。


「遺書が書ける紙と机も用意してある。書きたくなければ白紙でよい。書いた場合は郵送で届けよう。だから宛先も書くように」


「……」


「じゃあ、睡眠不足にならぬよう寝てくれ。睡眠魔法の使用だけは許可する。ほかの魔法は絶対に唱えるなよ。不正とみなす」


そう言ってマルコシアスは扉を閉めた。


しばらくしてアネットらは聖浴してリビングに戻った。


「大丈夫よね」


「大丈夫だ。今までの偉業を信じろ。君ならできる」


そう言ってフェルナンデスはそっとアネットに触れる。


フェルナンデスはそっとまるで歌のような声で睡眠魔法を唱えた。アネットも同じく歌のような声で睡眠魔法を唱えた。


◇◆◇◆


ノックの音がする。


「昨日はよく眠れたか?」


「ええ」


アネットは即答した。フェルナンデスに守ってもらってくれている。それだけで安心感があった。人形兵2体も。


「はい」


フェルナンデスも即答した。


「では朝食を持ってくる。遺書はこれか。いったん預かっていく。万が一生きていたらこれは破棄する」


2名とも遺書を書いていた。


兵士が持ってきた朝食はまるでお茶会のような品々であった。


「最後の談笑の場にもなるかもしれぬ。もちろん全部食べる必要はない。食べ終わったら連絡してくれ。それではいったん私はこの部屋を出る」


2人の朝食は無言であった。すると何やら人の気配が増えて来た。


「これって……」


アネットはちょっと引いた。


「そうだな。たぶん公開でかたき討ちが行われるのだろう。そしてそれが奴らの本当の狙いだ。何万人と観客がいる中でだ」


(つまり、それは……元聖女を討ったという誇りが欲しいわけ? なんて愚かなのかしら)


「愚かね……」


「そうだな」


「私が愛でもってそれは間違ってるとエレシュキガルに教えましょう」


「それがいい」


朝食を食べ終わった事を伝えると2人は待機となった。


やがてその時は来た。兵士とマルコシアスが来た。


「アネット、フェルナンデス、そして2体の人形兵! 決闘の場に出るのだ」


マルコシアスの声は凛としていた。

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