第二話
「取り戻しましたな」
マルコシアスが感慨深く告げる。旧王都のインフラも復旧していった。街の様子を見終わると接見室の玉座に座る者に眼を戻す。
「そうね……。ここは旧都とか離宮にしましょう」
エレシュキガルは「失地王」などと侮辱されずに済んだことになる。
「アネットには感謝ね」
「そうですな。彼女が居なければ貴殿はエレシュキガルの地位があぶないところでした……下手すると命も」
そう、下手すると革命やクーデターが起こるところであった。
「影裏族の王はミナレス火山のふもとに?」
「そのようで」
「この戦いが終わると真の戦いが」
「そうです。聖女アネットとかの家族との一騎打ちが」
「でも4対1じゃ卑怯よ」
「それも考えてあります。あのフェルナンデスらも参加してもらいましょう」
「決闘場所はどこがいいかしら?」
この問いにマルコシアスは考えた。
「生贄を捧げし場所……この旧王都にあるテンカロ神殿がふさわしいでしょう。アネットが負けたら彼女を生贄に捧げるのです。それこそ人間族にとって最大の屈辱でしょう」
そこはエレシュキガルにとって偽聖女の心臓を食べた勝利の場であった。つまりアネットを利用するだけして最後は獲物にするという意味である。もちろんアネットの心臓を食べる者はエレシュキガルである。
「……あなたはとことん悪ね」
「そう、あなたも悪役にならねばならない。エレシュキガルであるうちは。そして因縁の人物をぶつけるのです」
「クロエ=シャーロットの事ね」
「負けてもあなたは別のエレシュキガルを指名すればいいだけ。まだエレシュキガル候補の段階なら替わりはいくらでもいる。でも彼女には次期エレシュキガルとして奥義をいくらでも授けられる。つまり勝ちはこちらにある。戦争せずして我らは勝つのです。……まあ向こうも国のトップである聖女を退位してからアネットは挑むのだろうけど。それでも名誉で我らが勝てばよい」
それを聞いた悪役令嬢はおぞましさのあまり笑いいそしんだ。思わず震えてしまった。
(恩を仇で返すとは……なんという悪人かしら……私)
◆◇◆◇
「これが『魔王』の城」
アネットは驚く。周りの人間も驚いていた。
中は質実剛健であり美も備えていた。庭園はきれいで人間の美学と何も変わらぬ。王宮図書館まであり知を大事にしていることが分かる。鍛錬場もあれば博物館もあった。
「なんと見事な」
フェルナンデスが感心する。歴代のビヒモスラージャや聖女やエレシュキガル達の美学というものがよくわかる。
人間族も獣族も王城にすべて収容しきれないので近くの使われてないホテルを使っている。この光景を見るのは限られたものだけだ。大食堂も見た。普段の食事も見た。何も人間族と変わらない。でもそれは当たり前なのだ。獣族はかなりが元人間出自なのだから。
アネットはグレモリーの部屋を、フェルナンデスはベレトの部屋を使うこととなった。中は人間の貴族の王室と変わらない。
復旧工事のためここに獣族の軍隊の一部を置くことになる。それは戦力が少しそがれる事を意味していた。
いくらここまで快進撃とは言え、大丈夫なのだろうか。結界の二重張りに死角はないのか。
アネットはどことなく不安だった。




