第一話
「何よこの城?」
アネットは驚く。イブラヒムの市街地の中心部にそびえたつ城。
「どうだ、すごいだろう。旧王城の名は『ペンタグラム』だ」
マルコシアスが誇らしげに言う。そう、逆五芒星のような形をしてるのだ。魔の根城にふさわしいおどろおどろしさを持っていた。同時に高貴な姿も見せている。
「城の両先端部分から魔導砲を撃てるようにしてある」
エレシュキガルも言う。
「それでは人形兵が全滅してしまう」
人間側の兵士が畏怖を覚えた。
アネットが暮らす王城がフォーサイトつまり4つの尖塔があるのならここは5つの尖塔があるのだ。そんな難攻不落の城を取られたのだ。フェルナンデスが戸惑う。
「そうだ。自分たちが作った城で我々が苦しめられるとは」
エレシュキガルが残念そうに言う。
「あれ、この城、魔法陣に似てない?」
アネットが疑問を投げた。
「その通り、ここから簡単に別の魔法陣に行ける増幅装置にもなる。そしてこの城そのものが聖女が張る結界の増幅装置でもある。魔法陣は尖塔にある」
つまりこの城をもってしても影裏族は突破してきたのだ。爆発魔法で壊された痕がその証拠だ。
「さて、そんな城を兵糧攻めにします」
ここまで結界を張って来たのだ。もう彼らは逃げられないのに。さらに兵糧攻めにするというのだ。エレシュキガルというのはなんと冷酷なのだろう。
「魔導線を切れ! 変電設備もだ!」
首都は一気に暗黒に覆われた。
二重結界を張りながら旧王城へ進撃するぞ!
「「おお~っ!!」」
◆◇◆◇
「暗くなったぞ!!」
この城を任されたゾロギフが玉座でうろたえる。その玉座はエレシュキガルが座ってた場所だ。
「我らはいざとなったら壁からでも逃げられる。案ずるな!」
「ゾロギフ様……それが」
部下が慌てる。
「抜けられません。地中へも抜けられません」
扉を開けて駆け付ける衛兵。
「大変です。部隊丸ごと体が散って行くように……ぐはっ!!」
なぜ指揮官に情報が行ってないのか。簡単だ。占領地の影裏族は殲滅したからなのだ。
蝙蝠の翼をもつ影ゾロギフなるものが座っていた。
「やれやれ。そこはエレシュキガル様の玉座だ」
マルコシアスが呆れる。
魔導の縄がゾロギフを縛る。フェルナンデスがゾロギフの動きを止めた。
「ばかな!! 我らの魔導の力の方が上のはず!」
「聖女って1人じゃないの」
そう言ってぐっとエレシュキガルが縄を握り締める。すると縄から波動が伝わり影が散るようにして消えていく。断末魔が響き渡る。
旧王城を奪還した。強力な魔法も発動させずに王城を奪還できた。残党狩りも順調なようだ。
本来座るべき場所にエレシュキガルが座る。魔導の縄が玉座から出て衛兵を縛り上げた。影裏族の衛兵が呻く。
「ここを拠点に影裏族は滅ぼしましょう」
マルコシアスも獣族の兵士もみんなひざまつく。
「聖女アネット」
「はい!」
「あなたが居なければ私たちの故郷を奪還できませんでした」
「ありがとうございます」
「後半戦も気を抜かないで。貴方が消えたら元の劣勢に戻るのよ」
エレシュキガルはまた縄をぐっと握った。接見室に悲鳴が響いた。エレシュキガルは表情一つ変えぬ。
アネットはこれが魔の王なのだと畏怖を覚えた。




