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第一話

フェルナンデスは異様な光景を見てしまった。


それはアネットが人形と共に食事をしていることである。同席してる人がいない。彼女にとって信じられるのは人形だけ。人は彼女の心を傷つけ、侮蔑する恐ろしい存在なのだ。ゆえに彼女が心を開くのは人形だけである。人形なら100%言うこと聞く。しかも人間への不信感が彼女が形成した監視社会の原因なのだ。


ケーキスタンドもお茶も人形分ちゃんと用意してある。もちろん少量であとからアネットが食べるものなのだが。これが我が国の聖女にして最高峰の大学の学長のお姿である。はたから見ると少女というか可哀想な人物にしか見えない。精神的成長が幼少期で止まってしまったのだ。人形と会話している。人形は何も言えない。独り言にしかならない。まさにホラーである。


「アネット」


「あらフェルナンデス。どうしたの? お仕事の話なら後にして。私、午後の茶会やってるの」


「仕事じゃないよ。一緒に同席していいかな」


「……いいわよ。でも仕事の話はなしね」


「実はこの春休みにリゾート地に出かける予定でね」


「あら? どこに? この都市国家でリゾートなんてあったかしら? 海外はダメよ」


「あるのさ。街のはずれに。ビーチもある。まあまだ冬だから泳げないが。都市型リゾートという奴だ。根詰めるとよくない。一緒に行かないか?」


◆◇◆◇


このリゾート地も巨大なホテルになるようである。旧館はビリヤードやボウリング場まで完備してた。しかしアネットたちが行くのはそこじゃない。しかもビリヤードもボウリング場ももうすぐ閉館予定だ。


巨大な釣り堀だった。さすがに沿海漁業は食料自給率の観点から漁業者以外の漁は禁止されているが釣り堀なら話は別だ。


アネットはなかなか釣れない。フェルナンデスに教えてもらいようやく釣った。小魚だが……。釣った魚は持ち帰ることが出来る。


「へえ、おもしろいじゃない!」


「一人でも遊べるものって人形だけじゃないんだ」


フェルナンデスにしゃべりかけて来る者も居る。孤独だが孤独でなくともよいのが釣り堀の魅力だ。


「今度、美術館にも行こうか」


「へえ、いいね」


1人でも楽しめるところ。そこからアネットの人間不信を除去しないとこの国は息苦しい監視社会になっていく。アネットが人間を信用しない限りこの監視社会は強化されて行く。だから少しでもアネットの心の傷をいやさねばならなかった。


釣った魚は学園の食堂に持ち込んだ。調理人に調理法を教えてもらいフェルナンデスと一緒に調理する。


「調理って楽しいですわね。私、聖女になってから調理なんてしたことない」


「調理はいいぞ。これからも俺だけでなくいろんな調理相手を探そう」


アネットの興味が少し広がった。

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