第四話
一方ギルバードはアッシュと入れ替えで王宮住まいとなった。
ギルバードは牢獄から、学園寮、そして王宮と一気に生活が激変した。ギルバードは既に国立イブラヒム大学所属でこのあと約1年の交換留学を終えると国立イブラヒム大学に2年通うことになる。実質3年次編入のようなものだ。
ギルバードは獣族、つまり人間にとって魔族と同義であるため人はほとんど近寄ってこなかったがなんと衛兵によって守られていたという。するとアッシュにも同様の措置がなされたことを聞いて余計に親近感を持った。
ギルバードの角も翼も成長し伸びも止まった。翼は皮膚の色に似て朱色であった。まるで鳳凰の羽のように彩やかであった。
衛兵たちはおかえり、おかえりと言ってくれる。そうか、ここがやっぱり俺の新しい居場所になるのかとしみじみ実感した。
念のためにギルバードもここで人形を作って人形操術ができるか試してみた。やっぱり土地の差異は関係なく獣族になると人形操術は出来なくなりゴーレムも動かせないようだ。血が関係するのだろう。
牛や豚の血を一週間に1度でもいいからちゃんと飲んだかとメイドのノインが心配する。飲まないと獣族として弱くなってしまう。幸い向こうでも配慮してもらったおかげでそのようなことはなかった。
ギルバードは接見準備室と接見室、接見室の奥にあるエレシュキガルの居室と武器庫と魔法陣の部屋以外自由に王宮を行くことが出来る。ただし、王宮の外には出られないが。
王宮には図書館もあった。そこらの大学来図書館に匹敵する蔵書数だ。試しに建国史というものを見てみる。
なんとこの国でも遠い昔6人の獣族の勇者が魔族を倒し地中深く封印したとある。伝承まで似ている。一人は王となり、一人は聖女となり、残り4人は四天王となって国を治めたのだ。
王宮の外には出られないが王宮の訓練場で準備運動がてら模擬戦に誘われた。グレモリーはさすがだ。四天王というだけあって勝てない。槍使いのギルバードは同じ槍使いのグレモリーに手も足も出ない。ギルバードが持つ木の棒がはじかれる。
「さすがは一騎当千の騎士。実力を感じる」
グレモリーはそう言ってるがギルバードは歴然とした力の差を感じた。なにせ自分はマルコシアスに負けたのだから。同じ四天王に勝てるわけが無かった。
最後にギルバードは獣族としての秘術を教えてもらう。なんと獣族は影になることもできるし、影となってる間は老人や子供に擬態することまで出来るのだ。ギルバードも影だけの姿になることが出来る。つまり闇世で敵にばれずに動くことも人を脅かすことも可能なのだ。
グレモリーも影になっていく。
「どうだ? 我々は夜に攻撃を仕掛ける事が多いのだ。子供の影の姿になるのはより敵に見つからないようにしたりあえて恐怖を与えたりするためだ。闇世で密会を開くときも効果的だ。人に何かを伝授するときは老人の影の姿になることがあるな」
グレモリーの声も少女の声そのものだ。影が三日月の笑みを浮かべる。確かにこんな姿を見たら人は恐怖や畏怖を感じるだろう。
少年の影になったときの自分の声は少年時代の声そのものであった。訓練場で黒い物体が2つ動く。もちろん影を攻撃しある程度のダメージを与えさえすれば本性を現すこととなる。影の姿から元の姿に戻る解除方法も簡単な呪文であった。
そうか、そうやって獣族は勝ったのかと改めてギルバードは実感する。これでは人は負けるな、と。
そうこうしてるうちに新年となった。獣族の新年は花火を大々的に打ち上げてパレードまで行うという。人間の新年とはまるで違うのだなと暗夜の空を見てギルバードはカラン魔法学院時代を思い出した。
冬休みが終わろうとしていた。




