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第五話

講和条約はカラン魔法学院の食堂で行われた。


全権委任状を手にしたマルコシアスとフェルナンデス。


さすがにお互いの聖女が直接行くのはリスクがあるのだろう。両者とも全権委任状を持ってきた。


そしてギルバード。翼も小さいが生えていた。


そして交換留学生になるものはなんとアッシュだった。自分で買って出てきたのである。聖職者たるものは世のために犠牲になることも必要だと……。このため伝道実習を代替にたうえで交換留学生となった。


「すまねえな、こんなざまになった」


頭を下げるギルバード。衆人環視の目の中で調印式が交わされる。交換留学生とは名ばかりの人質交換である。


「ギルバード、くどいほど言うがこれは交換留学だ。戻ってこい。さもないと条約破棄となるぞ」


「わかってる」


「行ってこい」


ギルバードは人類側の椅子、つまりフェルナンデス側に移った。


「すまない」


「つもる話は帰ってからにしよう。君の学籍も寮もそのままだ」


アッシュもマルコシアス側に座った。


「私も念のために言うがアッシュを獣人化したりしたら条約破棄する」


フェルナンデスが強い口調で言った。


「当然だな」


「租借地料の口座はここに振り込めばいいのだな」


「そうだ」


「条約成立だ」


マルコシアスが宣言する。


「そのようだな」


互いが握手する。


「互いの留学生は夏休み・春休み・冬休みに帰還すること水晶玉によるリモート通話を1日1回許すことになってる」


獣人たちの目線が刺さる。まさか学食の場が条約締結の場とは。


「一つ提案したい」


フェルナンデスが提案した。


「言ってみろ」


マルコシアスが警戒した。


「この条約の名を番号ではなく『カラン条約』と名付けたい。『条約番号258番』などという無機質なものではない。これは重大な条約だ」


「いいだろう。だがそれは通称にしてほしい。あくまで正式名称は『条約番号258番』だ」


食堂に並べられた飲料は互いが一切口にしなかった。


「おかえり」


「いいのかフェルナンデス」


「心からそう思ってる」


「ありがとう」


「それとアッシュ!」


「はい!」


「無事でいろよ」


「大丈夫だ。丁重にもてなす。最高級の待遇でだ」


「その言葉、信じよう」


食堂を出るとやはり視線が刺さった。


「学院の寮に戻って次の日に校長室に来てほしい。さあ、アッシュが乗って来た馬に乗って帰るぞ」

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