第四話
マルコシアスが病室に入る。ここは人間が獣族になる準備をするための病院だ。ここは個室病棟だけの病院だ。
「朗報だ。死ねなくなったな」
ベッドで鎖につながれているギルバード。だんだんと人間の面影が消えている。皮膚も赤みがかったものになっていた。注射器で人間の血肉を体内に入れることで獣族にすることまで行っているのだ。ギルバードもその1人だ。
「お前が講和条約の筆頭交渉人となった」
「なん……だと」
「人の命を守りたいんだろ?」
「くっ!」
「講和条約後、お前の身柄も返してやる。移転した学園に帰ってもらう。カラン魔導学院はもう獣族のものだ。そこには入学できんからな。また交換留学生として1人だれかクル・ヌ・ギアに来てもらう」
「ぬくっ!!」
ギルバードの躰に異変が起きた。額の瘤がいよいよ破裂しそうなのだ。それは人間の死をも意味する。
「おお!」
マルコシアスは嬉しそうに驚く。見慣れた光景だがこいつの場合は格別だ。ようやくこいつはこの姿となったのだ。
瘤が破裂し角が一つ生えてきた。まだ非常に小さいが「もう人じゃない」とアピールするのには十分な大きさである。背中の瘤にある翼ももうすぐ出てきそうだ。
「看護師!!」
マルコシアスは看護師を呼んだ。
「立派な角ですねー。おめでとうございます」
ギルバードは無言だ。
「看護師、この方はVIPだ。角だけでなく背中の翼を大事にケアしてくれ」
「もちろんです」
「ギルバード、本来は獣族になったばかりの者はここクル・ヌ・ギアで教育を受けるのだ。しかし残念だな。そのような時間はないようだ。まもなくエレシュギガル様が講和の呼びかけを行う。おまえが筆頭交渉人である事も伝えてな」
マルコシアスは鎖に目をやる。
「看護師、鎖を外してくれ。もう自傷他害の危険性はないはずだ」
看護師が鎖と枷を外す。
「枷によってできたアザも獣族の回復力なら消えるのでご安心ください」
「だとよ。よかったな。ちなみに同行者は俺だ。変な真似はするなよ」
◆◇◆◇
エレシュキガルの呼びかけに人は大喜びだった。実質的に勝利だったからだ。
だがアネットとフェルナンデスは心穏やかじゃなかった。
(ギルバードが筆頭交渉人!? まさか……)
条約締結場所は……今は獣族が学ぶカラン魔導学院であった。




