第二話
どうして私は気が付かなかったんだろう。
どうして身近な人の異変にすら気が付かなったんだろう。
アッシュの新しい寮の部屋が荒れていた。
それを「自分のせい」とか言って……。
「コルネル、てめえか?」
もうこいつは寮長でもなんでもない。しかも同じ1年のくせに3年の学生をいじめたのだ。
大学生にもなって、いい年齢こいて。しかも、先輩を。
「模擬戦場に来い!!」
もうアネットの姿は校長でも学生でもなかった。コルネルを引っ張るようにして模擬戦場へ連れて行った。
アネットはゴーレムに乗ったコルネルをこれでもかとこれでもかとゴーレムに刺さった旗を折り、さらには何度も蹴飛ばす。旗を折り勝利するたびに係員が旗を指しかえる。もう5回目だ。
「もう一回!」
まるでアネットが乗ったゴーレムは舞っているかのようだ。もはや芸術である。
アネットはゴーレムに刺さった旗を折り己のゴーレムに乗りながらコルネルのゴーレムを踏みつけた。
「調子に乗るなよ? てめえはただの雑魚だよ? 次こんなことやったらお前のゴーレム破壊してやる……」
コルネルは恐怖を覚えた。5連続の敗北となった。
「ここまでにしておくわ」
――勝利! 勝者はアネット! 今回の模擬戦はここまで!
係員の声がモニター越しで伝わる。
◆◇◆◇
「ごめんね」
『グランダル亭』にはアネットとアッシュが居た。紅茶とクッキーが並んでいる。
「聖女様……本当にありがとうございます。」
「聖女様はやめて。同じ生徒なんだし。『アネット』と呼び捨てにして」
その願いにアッシュは同意した。
「ゴーレムにはうまく乗れてる?」
「出来てない……。何もかも生活変わってしまったよ」
「別にさ、ゴーレム操縦だけが人間の出来じゃないよ」
「え?」
「だって私なんて簿記出来ないから君に仕事頼んだんだよ。だって君、神父になるんでしょ?」
「そうだけど……」
「しょせん、こんなの人殺しの道具だよ? 本当は私お人形と仲良くしたいからあの魔法作っただけなのに……」
静かにお茶会が進んでいく。
「パイロットに祈りをささげる従軍神父になるんだよね」
「たぶん、そう。若いときは。教会の神父になるのはずっと先」
「それだって立派な仕事だよ。だってパイロットなんていつも恐怖と戦ってるんだよ」
紅茶を飲み干す。ちょっとみっともないアネット。
「『ゴーレム操縦だけが人間の出来じゃない』って朝礼の時に言わなきゃ」
「あ、ありがとう」
「それにこれってなにも軍事用とは限らないし」
「え?」
「考えてもみなさいよ。人を載せることが出来るということは、物も載せることが出来るって意味だよ」
「あ……」
「自動車っていうの。文字通りオートモビリティーね」
「もしかして」
「この国は単なる都市国家にしない。工業大国にするつもりよ。工業社会ってのはね、いろんな人が居て成り立つの。ゴーレム操縦に適さないからってそれで下級市民にするとかそういう世界に私はしない」
「ありがとう」
「ありがとうじゃないよ。人間困ったら助け合うのが当たり前」
コルネルについては第三章第四話にちらっと出ますのでご確認ください




