第四話
本来貴族は家庭教師をつけて上流教育を身に付ける。
貴族の親……もしくは親権者がこの子はダメだとされたものに限って魔導学院に入校となり本当に貴族としてダメなのかをチェックされる。つまり家庭教師組で育った者は貴族籍を剥奪されない。
そのため入試問題で中等教育部では点数の低い子が合格となるのだ。ここで重要なのは面接はもちろんの事周りの意見なども重要視されるという点にある。だからはめられてこの学校に入校してしまった貴族の子がいるのだ。
逆に神父推薦で入った平民の子は文字の習得から徹底して行われる。
そう、この制度を悪用して虐待する親もいる。そういった子は学校側もお見通しで保護する意味を持つ。だから全寮制なのだ。そして……虐待されて育った子は残念なことに精神が荒廃していじめが横行しやすい。学校事務職員や教師・准教授・教授が必死に監視しているがいじめというのは目の届かないところで行う。
よっぽどでないかぎり高等教育から入校することはできない。合計10年間の一貫教育なのだ。場合によっては初等部からの入学となる。初等部入学は1年次(6歳)からと4年次(9歳)からになる。
学費はどの学年も基本親もちだが自分でバイトして払える額である。払えない場合は担保として差し押さえて聖女領とするので学費未納はほとんどない。
そんな彼らに夏休みが来た。
貴族にとっては自分を捨てた親になど会いたいとは思わずほとんど寮暮らしを継続する。一方へ平民は近場に住む子に限って実家に帰る子も中にはいるが彼らも彼らでバイトで仕送りをする。一般平民には考えられない高額な収入を得られるのでそれを仕送りするのだ。夏休みや冬休みは彼らの稼ぎ時なのだ。
フェルナンデスは一旦実家に帰るかどうかなどの聞き込みをしている。中等教育6年時に級長だったものはなんと自動的に高等教育部の寮長になってしまうのだ。4年間も。フェルナンデスは第八寮にいる子、つまり高等教育2年の寮長である。
◆◇◆◇
「何事もなかったかい?」
フェルナンデスが聞く。
「無かったとは……いえない。寮長におもいっきりにらまれた」
「コルネルか」
「うん……」
「なんかあったら言えよ?」
「もちろん」
「それとアッシュ君の事も気になるな」
「ええ」
「夏休みの課題は何か出たか?」
「何もないわ」
「俺もない。じゃあ行くか。君の領主の館へ」
◆◇◆◇
カーミラ村はもう廃墟同然だった。
すでに聞き込みは騎士団が行っていたが改めて確認した。
残った村人は魔族になりたくない人だったのだ。危うく殺されそうになったとも言う。たったの5人、二世帯だけだ。よくぞ耐えたものだ。この二世帯の親や兄弟は他の村との交易があったのが救いだった。
屋敷に着いた。ここにはアッシュとメイドのエリーザも居た。
なぜもっとも怪しそうなメイドのエリーザはこの事件に加担しなかったのか。答えは簡単でメイド経由での通報を恐れてあえて何も加担させず何も吹き込まなかったのだ。
領土はカーミラ村とその周辺だけじゃない。サムラ村とミムラ村の合計3村の経営がある。経営への被害は甚大だった。税収の落ち込みは危機的だった。3分1が消えたのに等しい。
「ん? アネット。今気が付いたが君は一人っ子か?」
「そんなことないわ。私末っ子よ。一男二女の末っ子」
「じゃあ長男、長女はどこに行った?」
「ああ……」
「落ち着け!!」
「グランドツアラーに出かけております。3人とも……」
エリーザが慌てて補足する。
グランドツアラー。それは家庭教師の教育を終えた貴族が1年、もしくは2年の旅を馬車で行うものである。そこでいろんな貴族と出会い親交を深めるのだ。グランドツアラーは男女ともに最重要で婚約相手を見つける旅でもあるのだ。単に教育の総仕上げで旅をするのではない。しかし、それはまっとうな貴族の話の場合だ。クロエ家は……。
「それはグランドツアラーと称した魔界への旅では?」
(だとしたら、もう私の兄妹は!)
「カーミラ村の人も保護しないと!」
「どこに? たったの5人だぞ? あとここはダメだぞ。もろばれだ」
※なお障害を持って生まれた貴族の場合は特別支援学校に入って卒業後に貴族籍剥奪となる。物語には触れないがそういう制度になっている。初等部と中等教育部しかない。




