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第一話

 アネットは事の顛末を聞いて目の前が真っ暗になった。


 カーミラ村の住民がほとんど消えた。

 残った者から聞くと彼らも悪魔の儀式に加担してた。

 そんな人たちと何食わぬ顔で自分は魔導石を買ってたのだ。こんな落ちこぼれの私にみんな優しくしてくれたのに――!

 

 そして新たに発見した魔法陣の場所はあろうことか教会の地下室であった。


 用意周到なことに生贄としてささげられた人間は埋葬されていて分からないようにしていた。


 今度の地下室は広い。


 それが報告の概要だった。聖女直属の騎士団が発見したとのこと。しかも村の神父もグルだったということ。


 ――嘘だ


 「嘘だ~!」


 アネットが事務室を飛び出す。


 学校を飛び出す。


 ――また、あの子だわ


 ――また何かしたのかしら、人形姫


 ――気を付けた方がいいですわ人形を通じて呪いの魔法をかけるみたいですの


 ――まあ、魔女そのものですわ!


 中庭で泣いてるアネットに声をかける者はいない。むしろ罵声まで飛ぶ始末。


 そんな状況を聞きつけて駆け付けた者がいた。


 「アネット、しっかりするんだ!」


 「フェルナンデス……どうしてそこまで」

 

「大丈夫だ……」


 なんとフェルナンデスはそっとアネットを抱いた。


 周りが驚く。


 「大丈夫だ……」


 そっとなでるフェルナンデス。


 (私、うれしい……)


 アネットの頬から涙がこぼれる。


 「さあ、ここじゃなんだ。ちょっと茶店に行くか」


◆◇◆◇


 グランダル亭には豪華なケーキスタンドとお茶が用意されていた。


 「今日はちょっと奮発した。さ、座って」


 「ありがとうございます」


 「さ、まずはサンドイッチどうぞ」


 言われるがままにアネットはサンドイッチを少し食べた。


 「大丈夫だな。食欲はあるようだな」


 「どうして、そこまで……」


 「どうして? 貴族たるもの困ってる淑女が居たら助けるのが当たり前だ」


 アネットはこの答えに困惑した。


 「私は君を級長として救えなかったことを後悔してる」


 「え?」


 「婚約破棄の時もそうだ。黙って見てるだけだ。黙って見てるのも立派に加担行為だ」


 (ありがとう……)


 「本当は適切に教育したり、補助具使えば落ちこぼれなんてならないのだから。それに私は君の才能にびっくりした」


 アネットはもう真っ赤だ。


 「君の人形見て思った。これは凄いのではないかと。単に芸術品としてではない。魔道具としても使える。ゴーレムが上位魔法の術で人形操術が下位の魔法とかおかしい。私は教科書の内容に常に疑問に思っていた。それは戦争、しかも攻撃力から見た発想だ。だが誰もアネットの価値に気が付くものはいなかった。それと……」


 「それと?」


 「もし中等教育時代に私が君を助けたら私もよりいじめのターゲットにされたことだろう」


 ――!!


 「これを見てくれ」


 それは……。


 「熱湯をかけられてこうなった」


 察しがついた。あの取り巻き組3人に違いない。メリグ フレグル メイベルの三人。


 「かっこつけるなと……級長なんてかっこつけやがっていと言われてこのざまだ。不意打ちで電気魔法も食らった。パシリもされた」


 (こんな優等生に? やっぱこの学校は貴族にとっていろんな意味で落ちこぼれの収容所なんだわ)


 「さ、そんな顔せずにスコーンもどうぞ」


 「あ、はい……」


 アネットはスコーンをちぎって食べた。


 「自分の事しか考えてない自分に罪悪感を感じた。ここで中退したら貴族籍剥奪だからな」


 「そんなことないです。それみんな同じ」


 「だって私は四男の末っ子ってだけでいじめられたんだしな」


 「……」


 「だからこの魔導学院に放り込まれた」


 (やっぱり、この学校に入ってくるのはみんな心に傷持ってるんだ)

 

 「それに服が破けてるとこを君に直してくれたとき本当に感謝の念でいっぱいで」


 (えっ? そんなことあったっけ? 人形のついでに直したあの事かな)


 「なのに君を婚約破棄された時に助けようとしなかった。そんな罪の意識を贖罪したい」


 「ありがとう……」


 「もう大丈夫だ。人形も守ってくれる。そして俺も」


 アネットは思わずまた泣いてしまった。


 そんなアネットを優しくなでるフェルナンデス。


 「この店は上段にあるクッキーが一番おいしいんだ。食べよう」


 甘く、切なく、宝物のようなお茶会は静かに進んでいく……。

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