~序~
「クロエ=アネット侯爵! 貴様の幼稚っぷりには愛想が尽きた! 婚約を破棄して無かったことにする!」
カラン魔法学院の卒業パーティ。学食堂を使ったそんな場で、ローガン=ギルバートの声が会場に響き渡った。
「な、なぜですか……」
アネットの悲痛な声が響き渡る。
「当たり前だ、お前はいくつだ?」
「十八歳です……」
「その手に持つ人形は何だ?」
「これは……」
アネットは幼少期に両親を病気で失ってしまっている。親戚に引き取られたが虐待された。人形だけが友達だったのだ。そして精神的成長が止まってしまった。育ての親は愛想をつかし全寮制のカラン魔法学院に放り込んだ。中等課程を終えたアネットは高等課程への内部推薦にも落ち貴族の身分も剥奪された。
そう、結婚さえうまくいけば貴族の身分の剥奪は免れるのだが。
ここカラン魔法学院はカラン王国の法律に従って出来た王立学園。貴族の子にとっては出来の悪い子にラストチャンスを与えるための学校である。魔法を習得できなければ高等課程に進学できず貴族の身分は剥奪となるのだ。逆に平民の子がここに進学し高等教育課程を終えると1代限りで貴族の身分を獲得できる。つまり平民にとってはあこがれの学校なわけで平民の子に蹴落とされる場でもあるのだ。
――惨めねえ、アネット
――しょうがいじゃない。まるで八歳児ですわ、いろんな意味で
アネットの人生は、文字通り破滅フラグが立った。
アネットはトランクに荷物を詰め込む。
(あっという間の貴族人生でしたわ)
自分にとって唯一信頼できる人形は大事に包んでトランクに入れた。
六年もお世話になった寮を後にする。
これからどうやって生きて行けば……。
アネットは忌まわしい学園を後にした。
親からの手紙にはこう書かれていた。
山奥の地を分け与えると。それでもって絶縁すると。
アネットの居場所はもうそこしかなかった。