8 プリン姿で告白
そして場所は変わって体育館裏。
オレはチイ子に運ばれてここまでやって来た。
目の前には向かい合って高梨さんが居る。
ちなみにオレはチイ子が両手に持っている皿の上に乗っかっているのやけど、そのチイ子は、演劇部で借りてきたという黒子の格好をしている。
チイ子いわく、
『ウチの姿が見えたらお兄ちゃんは告白に集中でけへんやろうから、ウチは黒子になって存在を消すわ。だからお兄ちゃんはウチの事を気にせんと、思う存分高梨さんに告白してな!』
という事やったけど、いや、気になるっちゅうに。
オレもそうやけど、目の前に居る高梨さんはもっと気になってるはずやろ。
何せ目の前に、黒子の格好をしたチイ子が、顔のついたプリンが乗った皿を両手に持って立ってるんやからな。
しかもそのプリンに、今から愛の告白をされるんやからな。
これ以上シュールなシチュエーションがあるかね?
全くと言っていいほどに、告白のムードではないで?
試しにオレの頭の中で、いっぺんシミュレーションしてみるわ。
黒子の格好をしたチイ子に皿を持ってもらっているプリン姿のオレが、高梨さんに告白をしたらどうなるか。
プリン姿のオレ『高梨さん、ずっと前から好きでした!オレと、付き合って下さい!』
高梨さん『え~と、ショートコントの練習、かな?』
そりゃそうなるってばさ!
絶対まともには受け取ってもらわれへんわいな!
だって格好が格好だもの!
少女漫画やったら一番の見せ場のシーンなはずやのに、完全にギャグ漫画で一番笑いを取りに行くシーンみたいになってしまっているもの!
あかんあかんあかん!
絶対無理絶対無理絶対無理!
こんな状況で告白したらあかんわやっぱり。
うまくいくかどうか以前に、告白をしていい格好とちゃうわこれ。
ああ、でももうここまで高梨さんを連れて来てしもうたし、今更やっぱり帰ってくださいとも言われへんし、一体どうしたらええんや⁉
と、心の中で頭を抱えていると、背後の黒子姿のチイ子が、さっさと告白せぇやとばかりにオレの乗った皿を揺らしてきた。
しかしガチガチに緊張しているオレは声を出す事もできず、揺れる皿の振動で、体をプルンプルンさせる事しかでけへんかった。
黒子が皿に乗ったプリンをプルンプルン揺らしている。
その何ともマヌケでシュールな光景を見せられている高梨さんが、首をかしげながら口を開いた。
「え、え~と、丸野、君?私に、お話があるんだよね?一体、何の話なの?」
はぅあっ!
高梨さんの方から話を振られてしもうた!
これはもう逃げ場がない!
どうしようどうしようどうしよう⁉
ドクドクドク!
オレの心臓(プリンに心臓があるのかどうか知らんけど)が激しく高鳴る!
脳みそに血液が(プリンに脳みそや血液が以下同文)集中し、頭がクラクラした。
くそぅ!もはや告白するしかないんか⁉
この場をうまくやり過ごす方法はないんか⁉
するとそんな中、シビレを切らした様子のチイ子が口を開いた。
「もぉう!じれったいなぁ!お兄ちゃんは高梨さんに告白するんやろ⁉告白するなら告白するでさっさと告白しぃや告白!」
「うぉおおおおおいっ!」
怒りの声を上げるオレ。
言いおった!言いおったでコイツ!
一番この場で言うたらあかん言葉を言いおったで!
なのでオレは後ろに振り向き、背後のチイ子にブチ切れた。
「何で告白って言うねん⁉それは一番言うたらあかんヤツやろ⁉お前は黒子で存在を消すんやなかったんかい⁉」
するとチイ子は顔を黒い布で覆ったまま、シレっとした口調でこう返す。
「ウチは黒子なのでモノは言いません。告白なんて一言も言うてません」
「いや言うたやろ⁉合計五回も告白って言うたやないか!」
「うっさいなぁ!お兄ちゃんが緊張し過ぎて何も言わんのが悪いんやないの!せっかく高梨さんがこうして来てくれたのに!」
「う、うっさいわい!こ、これから言おうとしてたのに、寸前でお前が口出ししてきたんやないか・・・」
「嘘やね!ウチが何も言わんかったらお兄ちゃんは何も言われへんまま日付が変わってたもん!」
「そ、そそそそんな訳あるかい!」
などと言い合っていると、背後の高梨さんが、
「プッ、クスクスクス」
笑った。
その笑い声にオレが振り向いて高梨さんを見ると、高梨さんは口を押さえ、さも愉快そうに笑っていた。
その笑顔は太陽よりもまぶしく、胸が締め付けられて窒息しそうなほどに愛おしかったけれど、チイ子との無様なやりとりを笑われ、オレはこのプリンの体が溶けて液体になってしまいそうなほどに恥ずかしかった。
そんな中ひとしきり笑ってようやく落ち着いた様子の高梨さんは、目に涙を浮かべながら言った。
「ご、ごめんなさい。丸野君とチイちゃんのやりとりがあんまり面白くて、つい笑っちゃったの。ところで、私はさっきのチイちゃんの言葉がよく聞こえなかった(・・・・・・・)んだけど、丸野君は私に、何の話があるの?」
「う、うぇええええっ⁉」
高梨さんの思わぬ言葉に、心臓が飛び出そうな叫び声を上げるオレ。
こ、これはつまり、改めてオレは高梨さんに告白をせなあかんっちゅう事か⁉
ま、マジでか⁉こんなグダグダな状況で⁉
すると背後のチイ子が、再び皿を揺らしながら急かしてきた。
「ほら!高梨さんがこう言うてくれてるんやから、さっさと言いや!男やったらビシッと言わんかい!」
く、くそぅ、チイ子のヤツ、何が黒子になって存在を消すやねん!
思いっきり出しゃばっとるやないかい!
これじゃあ完全に黒子失格やぞ!
でも、まあ、おかげでふんぎりがついたわ。
もうこの状況がどうとかどうでもええわ。
フラれようがどうしようが関係あるかい。
オレは今ここで、高梨さんに告白するんや!
なのでオレは大きく息を吸い、ハッキリとした声で高梨さんにこう言った。
「高梨さん!ずっと前から好きでした!オレと、お付き合いして下さい!」
言うた!よう言うたオレ!これでもう思い残す事は何もない!
例えフラれたとしても、オレは清々(すがすが)しい気持ちでこれからの人生を歩んで行けるやろう!
さあさあ高梨さん、スッパリオレの事を振ってくださいな!
オレは逃げも隠れもせぇへんで!
色んな意味で吹っ切れたオレ。
そんな中高梨さんはペコリと頭を下げ、ハッキリとした口調でこう言った。
「分かりました。お付き合いしましょう」
うん、これでよかったんや。
やっぱりこんなプリンの姿のオレに告白されても、お付き合いしましょうなんて言う訳・・・・・・
ん?あれ?今、お付き合いしましょうって言うた?
え?マジで?
「ええええええええっ⁉」