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惨めな成り上がり

 豁然として大原野が展開するここは、1970年代、軍事政権の下の大韓民国ソウル市江南(カンナム)区であった。周りには、南ソウルの開発を報せる標木が次々と並んで、中には寂しい道が一つあった。


 李江慕(イ•ガンモ)は中学校一年生の少年だった。親と別れ、兄上とも別れて、甘えてばかりいた彼は、一夜にして二人の弟を養う立場となった。彼は、絶望的ながらも何かの決意に満ちた表情で、妹の美珠(ミジュウ)の手を握って、背中には赤ちゃんをおんぶしたまま、その寂しい道を向いた。


 江南、漢江の南側、小川流れ、牛の鳴き声響いたこの田舎では、かつて無い大開発の序幕が始まった。

 軍事政権の下で国家的に行われた江南開発は大成功して、僅か四十年後、原野しか見えなかった江南は、高層ビルの森となり、ソウルの新しい中心となった。勿論、江南の地価は70年代に比べ何十万倍も上がった。


 この黄金の地を巡った争いは、どんな戦争よりも非情で、悲惨だった。


 2010年代の江南、あるビルの屋上で、みすぼらしい身なりの老人一人が、悔恨にとらわれた眼差しで江南のビルの森を眺めていた。彼の名は趙弼然(チョ・ピルヨン)だった。


 彼は諦念した顔で持ってきた小袋から拳銃を取り出して、自分の頭に狙った。ようやく涙が零れて、彼は目をぎゅっと閉じて引き金を引こうとした。


 その途端、向こうのビルの電光掲示板で見慣れた顔が見られた。


「漢江建設の李江慕社長、インタナショナル•ビジネスアワードの【今年の経営者】賞を受賞」


 趙弼然は銃を下げて、狂気の視線でそのニュースを睨めた。


 漢江建設本社に到着したリムジンで、李江慕が降りた。

 やがてカメラのフラッシュが光り,記者らが彼の周りに押し寄せた.


「李江慕社長!受賞をおめでとうございます!」

「ビジネス系のアカデミー賞とも呼ばれるんですけど、何かお言葉お願いします」

「今年の受賞で漢江建設の位相が国際的にも高まったという評価です!」


「まぁまぁとりあえず退いてくれます?」


 秘書の朴少泰(パク•ソテ)と随行員たちが道を開くと、李江慕は堂々とその中を通して待期していたエレベーターに乗った。


「一言でも言って下さいよ、社長!」


 李江慕は、後ろ向きに言った。


「ただ、健やかで良い建物を建てようと努力しただけです...では。」


 そう言って彼は去り、轟くフラッシュと共にエレベーターのドアは閉まった。


 エレベーターの中で、朴少泰は李江慕に言った。

「どうやら趙弼然が刑務精神病院から脱出したそうです」


 李江慕も知っているみたいだ。

「本当しんどい奴ですね...もし彼が社長に来たらどうしましょう?」


「社内の職員みんな退勤させて。」


「えっ?あぁ承知致しました。」


 ペントハウスに到着した李江慕はワインをワインを注いで椅子に座った。そして、物思いにふけったまま、江南の夜景を眺め続けていた。


 窓を閉めたはずだが、どこからか風が吹き、やがて彼の頭に誰かが銃を狙った。趙弼然である。


「お久しぶりですね。一杯如何ですか?」


 趙弼然は銃でワイングラスを投げ出して云った。


「この(わし)が...そのまま滅ぼしたとでも思ったのか?あの趙弼然だぜ...?儂は未だ死んでない!」


 趙弼然は夜景を指して言った。


「あれ...あれ全部儂の作品じゃ!この儂が、我が國の発展の為に、骨を削って血を流して成し遂げたものじゃ!」

「その江南を...てめえが奪ったのよ!儂が全人生をかけて成し遂げたものをてめえが全部奪い去った!」


「あなたじゃなかったら、この都市はもっと良くなっただろう。」


「何?」


「貴方達が台無しにした。開発だの発展だの言いながら私欲を満たすことに血眼になって...」


「黙れクソッ!!てめえがどんなに偉そうに言ってもな、死んじゃったらお終いだぞ?」


「一切も変わってねな、あなたは。」


「命だけは助けてくださいっと言ってみろ...早く!儂の前でそう詫びろ!」


 趙弼然は嘲笑しながら言った。


「てめえの父にも命を乞う機会くらい与えたら良かったな...あの時哀願してたら、儂が殺さなかったかも知らんじゃ。」


 李江慕は動揺した。


「つまんなかったな。頭で真っ赤な血を流しながらくたばったんだぜ...」


 江慕は瞬間、趙弼然の手をひねり、拳銃を奪った。 彼をテーブルの方に追いやって頭に銃を向ける李江慕の目は、怒りに満ちていた。


「てめえの父殺しは虫よりも簡単だった...悲鳴すら残らず死んだからさ...()()だったぜ」


 李江慕は引き金を引いて、今でも討つ気であった。


「そうだぜ、殺せ...お前の父の仇を討たなくちゃ...」


 銃を握った李江慕の手が震えた。趙弼然はそれを嘲笑した。


「てめえは儂を殺せない...その度胸がないからね...殺人?易しいもんじゃねよ、それは。」

「度胸があるのなら早く討て...父の仇を討て!早く!!早く!!」


 銃声が鳴った. 趙弼然は一瞬目を閉じ、お腹に手を置いた。 しかし、彼の腹は一切も温まっていなかった。 むしろ冬の日、高い屋上にいたせいか、依然として冷たいままだった。


 彼の後ろの窓から亀裂が入り,すぐにバラバラになってきた. 高度と冬の気候にふさわしい冷たい風が強く入ってきて、机の上の書類はなびかせ、散髪になった趙弼然の髪の毛もみっともなくなびいた。


 李江慕はリボルバーに残っていた銃弾を全て外に投げ捨てた。


「何しあがってんだ!」


「貴様は殺す価値もない人間だ」


「なんで殺さなかった?てめえビビってんのか?」


「俺の手に、貴様のその汚い血を付けろっていうんだ?そんなに死にたいなら、自分でここで落ちろ」


 趙弼然は、その言葉を聞いて、怒りに満ちて李江慕に飛び込んだ


「てめえぇ李江慕!!!」


 しかし、李カンモは簡単に彼を避け、チョ·ピルヨンは無様に倒れた。


「あなたを殺すわけにはいかない。あなたが犯した多くの悪行、みんなが忘れないように。」


「李...李江慕ォォォォ!!!」


 趙弼然の絶叫を後にして、李江慕は江南のビルを眺めながらお酒を飲んだ。


 この噺は、兄弟の成り上がり、そして悲惨な復讐の物語であり、産業化時代の悲劇である。

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