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転生者の大冒険 ‐絶海の孤島から脱出せよ!‐

作者: 回天

ルビ機能を使ってみたかったので、難読と思われた語句にはルビを振ってあります。読みにくかったらごめんなさい。


よくある転生物です。

「ついに出来たぞ!」


 手製の丸太舟を前にして俺は喜んだ。14年間暮らしたこの島からやっと脱出できるのだ。


 これから始まるであろう冒険の予感に、心が高鳴っていた。





 前世では日本人だった俺は、絶海の孤島に暮らす漁労(ぎょろう)採集民に転生した。


 孤島と言っても、周囲を1周するのに歩いて2時間はかかるほどで、そこそこの大きさがある。しかし外周を歩いてみても、海と空と水平線しか見えない、本当の孤島だ。島のほとんどのは密林で、大きな動物もいない。


人口は400人前後、長老といわれる老人たちが色々なことを決めていた。気候は温暖で、男女を問わず、みんな腰みのだけで生活している。


 島での生活は単調だった。浜辺で魚を釣る。虫やトカゲのような小動物を捕まえる。果実や芋などを採る。島の中央で湧いている水を汲む。それがメインの活動だ。


食料を確保し、それらを調理(と言っても、焼くだけだ)して食べると、他にやることはほとんどない。せいぜい歌を歌い、獲物もいないのに弓の練習をするくらいだ。


 俺は前世で多少の教育を受けていたので、物を数える時に掛け算を披露(ひろう)して驚かれた。しかし、前世からの知識を使えたのはそれくらいで、単調で原始的すぎる生活の中で発揮できるものはほとんど無かった。


 長老たちによれば、昔は島の外の世界とも交流があり、魔術師や、体が白い亜人が島を訪れることもあったらしい。だが、空飛ぶ竜を使役し、火の魔術を使う「悪魔」が外の世界に蔓延るようになり、先祖たちは島を閉ざした。今は、世界でこの島にしか人間は住んでいないという。


 それを聞いた俺は、「ここは異世界なんだな!」と考え、いつか外の世界へ出て行こうと考えた。ここが安住の地だったとしても、あまりに退屈だ。外の世界にどんな脅威があったとしても、何があるのかを知りたかった。



 俺が10歳くらいのとき、両親が相次いで死んだ。父は小動物を追っかけている最中に足を石で切り、それが化膿し、ついには高熱を出して死んだ。母は、釣った魚を食べたら口から泡を吹いて死んだ。


 世話をしてくれた両親が死んだのは悲しかったが、それ以上に自分が死と隣り合わせの環境にいると分かって戦慄(せんりつ)した。前世とは違って「医療」というものがほぼ存在しないのだ。長老たちが(まじな)いのようなことをしているが、効果は感じられない。


 この島にいては、長生きするのは難しい。俺は外の世界を目指す、という決意を深くした。


 それからの俺はとにかく、毎日を生き延びるために使った。食料を確保したら、両親が残してくれた竪穴式(たてあなしき)住居のような家で、1人で動かずにじっとする。その間に、島を脱出して外の世界へ向かう計画を立てた。


 島からの脱出には問題があった。長老たちは、外の世界には「悪魔」しかいない、と主張しており、俺以外の島の人間も皆それを信じていた。昔、竜が島にやってきて、それを弓で撃退したことがあるとかで、年長の世代は特に(かたく)なだった。


 島の第一の(おきて)は、島の外に興味を持つな、であり、脱出計画などを立てているのを知ったら、どんな目にあうのか想像もできない。「悪魔の手先」として殺されるかもしれなかった。計画は何よりも秘密裏に進める必要があった。




 最低限の食料を確保したら、後は何もしようとしない俺を、島民たちは「(なま)け者」と馬鹿にした。しかし、陰口を叩く以上のことは何もしてこない。狭い島の平穏を乱す行いは強く忌避(きひ)されている。


 12歳くらいになると、島の同世代の若者たちが結婚し出した。だが両親がおらず、「怠け者」で知られている俺に縁談の話はまったく来なかった。俺もそれでよかった。前世で美容に気を使った女性を見てきた俺にとって、島の女性たちが女だとは感じられなかったのだ。それに、下手に家族が出来ると、脱出計画が露見(ろけん)したり、島に愛着が湧いてしまう可能性があった。


 島から脱出するには、船が必要である。材料となる木はあちこちにあったが、大規模な準備を行なうとバレてしまう。俺は集落から遠く、また海に近い所に生えている場所の木々を物色し、手ごろな大きさのものを見つけ、それで丸太舟を作ることに決めた。


 夜に家を出て、少しずつ木の根元を石で削っていく。自分の体を傷付けないように慎重に行ったので、作業は難航した。そんなことをしていると、段々と夜目が利くようになってきた。


台風でも来たのか、暴風雨が吹き荒れる夜に、俺は木を切り倒した。このタイミングなら、朝になって木が倒れていても、誰も不審に思わない。


 その後は、毎夜、切り倒した木をくりぬくように加工していった。これも夜に少しずつ作業を行なう。やはり作業は難航した。


 俺が生来の怠け者だと思っている島の人間は、俺が夜な夜な家を抜け出し、そんなことをしているとは夢にも思わなかったようで、邪魔されることは無かった。


 丸太舟が完成間近になった時、俺が夜に家を抜け出しているのを、同世代の男に見られた。何をしているのか、と聞く彼に、俺は「昼間は食料を取るとすぐに寝てしまうので、夜に目が()えてしまう。だから、夜に島を歩くんだ」と答えたら、彼は納得したようで、それ以上は追及してこなかった。





 そして俺は、ついに舟を完成させた。


 舟が完成した翌日の夜、俺は力を振り絞って舟を担いで海まで運ぶと、数日分の食料と、木で作った水筒、釣りの道具などを持って乗り込んだ。寄せてくる波に立ち向かうようにオールを()ぐ。


 他の皆に気付かれることはなかったらしく、俺は無事に沖へ出ることが出来た。とにかく島から離れたかった俺は、夜を徹してオールを漕ぎ続けた。


 朝になる頃には島はどこにも見えない。俺は一抹(いちまつ)の不安と寂しさを感じていたが、それ以上に未知の世界へと踏み出したことに喜びを感じていた。



 干した魚を食べ、水を飲み、少し休憩しようと舟の上で横になっていた俺の耳に、遠くの空からなにやらバラバラという音が聞こえてきた。雷の音かと思ったが、何かが違う。起き上がって周囲を眺めると、遠くの空から豆粒のような何かが向かってくるのが見えた。


 最初は鳥かと思ったが、鳥にしては大きく、しかも一直線にこちらに向かってくる。すごい早さだ。


 俺は驚いた。もしや長老たちが言っていた「竜」じゃないか?


 大海原のど真ん中で、身を隠す方法は無い。俺はとりあえず祈った。


(やっと、島から出られたんだ! こんな所で死にたくない! 神様仏様なんでもいいから助けてください!)


 祈りむなしく、飛んできた何かが立てるバラバラ、という音は近づくにつれてますます大きくなり、轟音と形容すべき程になっていた。

 

 それは、ついに俺の頭上にやってきた。光沢と丸みを帯びたフォルム、上部と後部とで何かを回転させており、そこから音が発せられているようだ。それは俺の上をグルグルと旋回している。島では一度も見たことがない異形(いぎょう)だ。


(待てよ、どこかで見たような……)


 俺は強烈な怖れを感じる一方で、それに懐かしさのようなものを感じた。島では一度も見たことがないはずなのに、どこかで見たことがある。俺は長年の島での生活で()び付いた前世の記憶から、それが何かを思い出した。


(ヘリコプターじゃないか!)


 前世で乗ったことは無かったが、見たことはある。プロペラを回転させて空を飛ぶ機械だ。


 なんでヘリコプターがここにいるんだ、と上空を見上げながら呆然としていると、更に水平線上に何かが現れた。


 今度はヘリコプターより遅く、音も少ないが大きい。


 近づいてくると、それが船であることが分かった。俺が苦労して作り上げた丸太舟の何十倍も大きい。それが隣にやってくると、俺の丸太舟は大きく揺れた。


 船の後方に旗がひらめている。上から、黄・白・緑で三分割され、真ん中には何やら丸い図案が書かれていた。


 船上には、迷彩柄の服を着た男たちが何人もいて、俺の方を珍獣でも見るかのように覗き込んでいた。






 その後、俺は丸太舟から強引に出され、船の一室に入れられ、鍵を掛けられてしまった。


 しばらく揺られていると、今度は全身を白いビニールのようなもので覆った人たちが何人も部屋に入ってくる。俺は連れ出された。


 船から下ろされると、桟橋のすぐ前に止まったトラックの後ろの部分に放り込まれる。


 トラックから下ろされると、そこは何やら研究施設のような場所であった。


 そして今、俺は大きな部屋の中央に置かれた透明な箱のような部屋に閉じ込められている。周囲には白衣を着た男たちがいて、色々な設備の設置作業が進められていた。こちらに向けて、カメラも設置されている。


 食事も排泄も、常に見られ、記録されて落ち着かない。


 今の状況が分からないことも、俺を混乱させていた。怒涛(どとう)の展開に、頭が付いていけてないのだ。



 悶々(もんもん)としていると、白衣を着た女性と、ラフな格好をしたおっさんが外の部屋に入ってきた。彼らは、他の白衣の人たちと話し、白いビニールを被ると、俺の部屋の中に入ってくる。


 疲れ果ててベッドの上に座った俺の前に彼らが立つ。女性が口を開いた。


『あの島から出てきたのかどうかを確認してください』


 女性の声はビニールのせいで聞き取りづらいが、なぜか俺は理解できる気がした。


(これは、英語じゃないか?)


 俺が前世で聞いたことがある言葉だった。前世でリスニングは苦手だったので、理解するのが一瞬遅れたのだ。


 彼女の言葉を聞いたおっさんが、俺に話しかけてくる。


「あなーたは、あのー、島から、その……木で、出てきましたーね」


 こちらは今の俺が島で使っていた言葉だ。語彙(ごい)が明らかに足りておらず、不明瞭で、非常に訛ってはいるが何とか聞き取れた。このおっさんは通訳らしい。情報を集めるためにも、とにかく対話してみることにした。


「はい、そうです」


 俺の言葉を聞いたおっさんは、今度は女性の方を向く。


『彼は、そうだ、と言っています。博士』



 その後、博士と呼ばれた女性による、通訳のおっさんを介した俺への質疑は続いた。


 その結果として、俺が脱出したのはインド洋上、インド政府の主権下にある有人島で、その住民たちは政府に記録されている限りずっと、最低でも100年近く他との接触を拒み続けているらしい。


 インド政府及び国際社会は彼らの意思を尊重し、長い間、周辺を封鎖して他の船が進入できないようにしていたようだ。以前は、島にヘリコプターが近づいたこともあったようだが、島から弓で攻撃を受け、それ以後は誰も近づけないようにしてきたらしい。


 そんな状況で、俺が島を脱出した。インド政府は島の内情を知る貴重な人間として、俺を救助したのだという。


 俺たちは長年、他の社会から隔離されていたため、病原菌やウィルスへの免疫がない可能性が高く、医療的措置と検査のために、一時的にここに隔離されているのだとか。


 どうやら俺は異世界ではなく、現実世界に転生したらしい。俺ははっきりと理解したのだった。






 国際記者会見に引っ張り出された俺が、日本人記者の質問に日本語で答えてしまい、転生者であることがバレたこと。俺の脳の調査から人間の魂の存在が立証され、そのメカニズムについて一挙に研究が進んだこと。そして、それらの成果が人類の科学、哲学、宗教文化に重大な影響をもたらし、最終的に人類全体がより高次な生命体へと発展したこと。それらはまた別の話である。



この物語はフィクションです。作中で登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


モデルとなった島は存在します。


感想や評価をしてくれたら嬉しいです。


よかったら他の作品も読んでいって下さい。

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[一言] あの島ですね。しかし、当事者ではなくただニュースを聞いていたいと思ってしまう話
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