第三章 オトハ視点 突然起こった悲劇
数日前、私がいつもの様に、学校に行く為に駅へ向かっていた。その道中、私の耳に入ってきたのは、甲高いサイレン音。
いつも乗る電車まで時間があったから、私はそのサイレン音がする方向へ、ゆっくりと歩いていた。
こんな住宅街でサイレンが鳴るなんて、滅多にない事。近所の人もかなりザワザワしていた。私の様な野次馬は、一人ひとり着実に増え、私達が行き着いた先にあったのは、橋だった。
その橋の下を流れる川は、黄泉川ではない。いや、正確には、『黄泉川の親戚』。
黄泉川の元となる山脈からは、山水が多量に流れ出ていた。だから黄泉川以外にも、その山脈は多くの川を生んでいた。
今はもう山水を塞ぎ込むダムが作成されたから、川の数は昔と比べてだいぶ減った。でも、まだ幾つかの川は残されている。
その一つが、今私の目の前を流れている小さな川。でも、侮ってはいけない。地形の影響か、水流の強さが原因なのか、私は詳しく知らないけど、その川幅は狭いけど、底がかなり深い。
だから、地元住民の間で、この川は『底無し川』と呼ばれている。この川に物を落としたら、二度と帰ってこないから。
そんな場所にパトカーが数台止まっている時点で、嫌な予感はした。しかも、川には酸素ボンベを背中に背負った人が、必死で『ナニ』かを探している。
この橋は手すりが高いから、飛び降り防止用のネットは張られていない。そもそも、こんな場所を『選ぶ人』が、今までにいなかったから。
この橋からは、朝日が昇る瞬間も、日が沈む瞬間も捉える事ができる、写真家にとっては有名なスポット。
野次馬の中には、大掛かりなカメラを背負っている人の姿も。そして、警察官から話を聞かれているカメラマンの顔は、明らかに青ざめていた。
警察官の何人かが、野次馬を散らそうとはしているけど、数が足りないのか悪戦苦闘している様子。
そりゃそうだ。この地域で事件が起きる事なんて滅多にない。応援を要請しても、なかなか来てはくれない。