第二章 オトハ視点 黄泉川駅
私の近所にある『黄泉川駅』。
その名前の起源は、かつてこの近辺に流れていた川の名前が由来。今はもう土地開発により埋め立てられたけど、私の住む地域では、『黄泉』と付けられた地名が多い。
その川は、大昔の人々にとって、命を繋ぐ大切な存在。水道なんてなかった時代、その川の水は生活用水として、飲み水や洗濯の水としても活用されていた。
しかし、その川は単なる生活用水としての役割だけではなく、『葬儀』にも使われていた歴史がある。
その川は、あの世である『黄泉』と繋がっていた言い伝えがあり、川近くの村や町で人が亡くなると、その川に流して、あの世へ送っていたそう。
この話は、小・中学校の授業で習った。当時の事が事細かに記載されてある書物を市役所まで見に行ったり、黄泉川の歴史博物館にも遠足で行った。
きっとこの地域に住む人なら殆どが知っている話なのかもしれない。子供の頃は『黄泉』とか『あの世』なんて言葉をまだ理解できなかった。ようやく理解できるようになったのが、小学校高学年頃。
私が小学校五年生の頃、父方の祖父が病気で亡くなってしまった。
その時になって初めて、自分の中にあった漠然とした疑問が解け、怖いけど奥深い歴史を、改めて感じる事ができた。
でも、現代で故人を川に流したら犯罪沙汰だ。
今はもうそんな昔の風習はとっくに無くなってしまったけど、名残として、葬式ではお坊さんのお経と共に、黄泉川の流れがカセットテープで再生される。
ちなみに、昔聞いた市長さんの話によると、この地域の葬式場が、まるで一直線に繋がっているように建てられているのは、黄泉川の名残。
大昔は、葬式が終わるとそのまま川に流される儀式が執り行われていたんだとか。
土地開発の時にはだいぶ揉めていたみたいだけど、結果その川を埋め立てた事により、多くの人がこの地域に住むようになった。
昔の価値観を私達で比べる事はできないけど、少なくとも私は、故人を川に流すのが、残酷に思える。きっと、私の様な価値観を持つ人が多くいたから、土地開発が行われたんだと思う。
別の地域から人の中には、この地域を『心霊スポット』として騒ぎ立てる人もいる。でもその話の大半が、『確証』の『か』の字すらない、ネットに転がるファンタジーな話。
元々私自身、ホラーが苦手。友人から「ホラー映画観に行こう!」なんて誘われても、全力で断ってきた。
小さい頃、家族で遊園地に行った時、お父さん抱っこされながらお化け屋敷に行ったけど、私は気絶するほど絶叫していたらしい。
私自身その時の記憶は全くないけど、お化け屋敷のお化け役から心配される程だったとか。お父さんの話によると、あの時もう少し目覚めるのが遅かったら、救急車を呼ぶつもりだったらしい。
それがトラウマになっているのか、そもそも自分自身が根っからのホラー嫌いなのかは分からないけど、とにかく私は、ホラーを自ら遠ざけていた。