満身創痍のその後
俺は夢を見ていた。
遠い、昔の夢だ。
かつて安穏と毎日を過ごしていたころの記憶だ。
その頃の俺はまだ幼く、現実を知らない夢見がちな年頃だった。
毎日村中を駆けずり回っては冒険者の真似事をする。チャンバラやごっこ遊びの延長戦のようなものだ。
無邪気に信じていた。
自分の才能を、その未来を。
俺はそれを俯瞰している。
懐かしい光景だった。俺にもこういう時期があったのだと。様々な冒険譚や英雄譚に憧れる少年の時代が。
その輝かしさに、眩しさに思わず手を伸ばす。
しかし懐かしさと共に胸に去来するものがあった。それはドロドロと俺の肺に張り付くように息苦しくさせるものだ。
それを感じたとき、光へと伸ばした手は勢いを無くし止まる。
苦い思いが胸の中で広がっていく。
そうか、俺はまだ後悔しているのか。
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そうして俺は目を覚ました。
視界いっぱいに広がるのは天井の白、そして窓から降り注ぐ太陽の光だった。
寝起きの気分は最悪だった。
「嫌な夢を見たな」
俺はすぐ横に置かれていた水差しから水を飲む。
確か俺はワイバーンと戦って……そのまま気絶したんだろう。
あのあとどうなったのかは分からないが、少なくとも俺は病院に運び込まれたようだ。
それを裏付けるように扉がノックされ看護婦が中に入ってくる。
彼女は身を起こしたアランを見て声をかけてくる。
「おや、アランさん起きたんですか?」
「ああ、さっき目が覚めました」
彼女は手にいくつかの薬瓶を持っている。きっと投薬の時間だったのだろう。
「気分はどうですか? アランさん、三日も寝てたんですよ」
「三日!」
「そうですよ。なかなか起きないから心配してたんですよ」
言われて俺は体の調子を確かめる。たしかにいつもよりも体にだるさのようなものが残っている。
「そういえば俺と一緒に居たはずの女の子は同じ病院に来てないんですか?」
「さあ? 詳しいことは分かりませんが何度か女の子がお見舞いに来てましたよ」
「どんな子ですか?」
それが気になった。ちゃんとあの子は無事だったのだろうか。
「黒に赤の混じった髪をした子ですよ」
それを聞いて俺はほっと息を吐く。
どうやら彼女も無事に森から出られたらしい。
しかし彼女が来たというのに俺は全く目覚めなかったのか。
また変に心配をかけてないと良いが。
「どうです、体の調子は。三日も寝てたからどこかおかしくなってたりしませんか?」
「そうですね……」
俺は体を軽く動かして全身の調子を確かめる。たしかにちょっとした気だるさのようなものはあるが痛みなどはない。
というか傷一つついていないのではないだろうか。
「全く問題ないです」
それを聞くと彼女は頷いた。
「薬のお蔭ですね。骨折も明日の朝には治りますから、昼には退院です。じゃあ失礼します」
そういって扉の方から去って行った。
そうか、皆無事に済んだのか。よかった。
俺は安心してそのままベッドに横になる。
なんか色々と話が済んだら腹が減った。三日も寝てたのだ。仕方がないと言える。
なにか食べられるものがないかと思い周囲を見回す。
すると棚の上に果物が置いてあるのに気が付く。
この部屋は個室であるようだからあれも多分俺のものだろう。
誰が持ってきてくれたのかわからないがありがたく頂くことにしよう。
そうして俺は果物を夕食までに摘まんでその一日を過ごした。
その次の日、予定通り俺は退院した。
入院費用や薬代の心配をしていたが請求されることはなかった。
というのも誰かが払ったとのことだ。
誰が払ってくれたのかと俺は首をかしげながら冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドはいつものように騒がしかった。
昼間だというのに酒を飲み、酔っぱらって騒いでいる者も少なくない。
そのうるさいほどの喧騒もワイバーンとの戦いから生き延びて帰ってきたと思うとなんだか感慨深い。
そんな風に思いながら俺は受付の方へと歩く。
ワイバーンと遭遇したことで放置してしまった依頼の件についてだ。
一応話はしておかないと不味いのは間違いないので話をしに来たのだ。
受付に並んで俺は言う。
「C級のアラン=ウィルバートというものなんだが依頼についてちょっとした話がある。上の人に話を通してくれないか?」
すると受付嬢は驚いたように言う。
「あ、アランさんですか!! 退院されていたのですね! こちらからも窺いたいことがあって、ご案内しようと思ってました。どうぞどうぞ!」
その瞬間ギルドが静まりかえる。
声が大きかったのだろうか、周囲にも聞こえてしまったようだ。
さっきまで騒いでいた冒険者やそうでない冒険者もジロジロとこちらを見てくる。
変に注目を集めている。
しかし、いつもうるさいこの場所で大声を上げた程度でここまで注目されるものだろうか?
俺は他の冒険者の態度を不可解に思ったが、なにか文句を言うのもおかしな気がしたので黙っておくことにした。
そして逃げるように受付嬢の後を追い、ギルドの仕切りの裏に入っていったのだ。