表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/15

グラン森林にて

 グラン森林はグランバニア領の西部に位置する森である。

 緑豊かで自然の恵みも多く、周囲の街において重要な意味をもつ。

 森に沿って街道が作られており交通の便もいいため冒険者や商人など多くのものに親しまれる場所だ。

 

 出てくる魔物もE~D級の魔物がほとんどであるためさほどの危険性はない。

 森の深部にはC級の魔物もいることがあるが出くわすことは稀である。


 そんな森の中で俺は周囲を警戒しつつ道を歩いていた。

 

 今回は調査依頼だ。

 この手の公的な組織が出す依頼はやるべきことがある程度明確になっている。

 森のなかの順路を巡回しつつ変わったことがないかを調べるのである。

 

 とはいっても変わったことがあるなんてことの方が難しい。

 強いていえば魔物のスタンピードが起きる兆候があるかどうか、そしてはぐれ個体がいるかどうかを確かめるくらいだ。

 

 前者はあまり起きないし、仮に起きるとしても魔物の個体数が目に見えて増えるので結構露骨にわかるものだ。

 

 気をつけなければならないのは後者。

 縄張り争いに負けた個体が森の浅いところに流れ着くことがそれなりにある。そういった個体は傷ついていて気性が荒くなっていることが多く、少なくない被害が出る。

 この森で言うなら深部にいるC級のワイルドベアがよくはぐれ個体になる。


 まあそれでも俺ならひとりで倒すこともできなくはない。

 十分問題ない範疇である。


「こうして考えると気楽なもんだ」


 ただ気は決して抜かない。

 シフィルの持ってきた依頼ということは忘れてない。

 何が起こるかはわからないのだ、気を張っておいて損はない。


 とはいえどもう既に半分近くの道程を踏破している。

 これからアクシデントが起きるとも考えづらいが。


 つまるところ俺は楽観していた。色々ひどいことがあった後だからなにかいいことがあるだろうと思ったのだ。

 しかし現実はそうも上手くは出来てはいなかった。


 歩いている先の方からいくつかの気配が近づいてきているのに俺は気が付いた。

 ガサガサと少し先の草むらが揺れる。

 魔物かもしれない。

 俺は素早く剣を引き抜けるように身構えた。


 そこから飛び出してきたのは女の子だ。

 まず目に入ったのはその特徴的な髪の毛の色だった。黒色に朱が混じっているそれを長いサイドテールに結んでいる。

 手にはナイフ、服装は初心者のような皮当てをつけており、走っていたのか息を切らしている。


 魔物ではないことがわかり俺は少し警戒を解く。


「どうした?」

「はぁ、はぁ、ま、魔物が……」


 なるほど、魔物に追われているわけか。たしかに女の子が来た方向から他にもいくつかの気配がこちらに近づいてきている。

 しかし、これは……


 再び草むらが揺れ、そこからいくつかの影が表れる。

 そこにはこの森の深部にしかいないはずのワイルドベアが3体、立っていた。

 3体か……なるほど。


「ひっ」


 女の子はその姿をみて怯える。

 確かにあからさまに駆け出しっぽいこの女の子にはワイルドベアが危険な相手なのは理解できる。

 

 しかし、まあなんとかなる。

 必ずしも全部倒す必要はないのだ。女の子が逃げるための時間を適当に稼いで増援を呼んでもらえばいい。

 俺は後ろにいる女の子に声をかける。


「おい、聞いてるか。こいつらは俺が相手するから助けを呼んで来い。頼むぞ」


 女の子は泣きそうな顔で首を振る。なんでだ? どう考えても俺の判断が正しいと思うんだが。

 俺が不思議に思っていると女の子は声を上げる。


「違うんです! クマじゃないんです!」


「え?」


 一瞬俺はその言葉に気を取られて無防備になっていた。その隙を突くようにワイルドベアが走り出す。

 しまった!

 とっさに衝撃に備えて身を硬くするが、

 









 ……あれ?

 

 想像していたような痛みは一向に訪れない。

 それどころかワイルドベアたちは俺と女の子には見向きもせずに横を走り抜けていく。

 そのまま草むらを抜けてどこかに消えてしまった。

 どういうことだ? 俺たちは標的じゃなかったのか?


 その瞬間だ。圧倒的な気配が空から感じられる。

 周囲の木々をなぎ倒しながらそれは現れた。

 

 てらてらと光る鱗に包まれた巨躯。鋭い爬虫類のような瞳に牙の生えそろった口。

 そして最も特徴的なのは前腕と一体化した翼。それはその生き物が空を飛ぶ生き物ということを示している。

 圧倒的な存在感。その殺意は確実に、俺たちに向けられていた。


「マジかよ……」


 女の子は震える声で言う。


「追われてるのはクマじゃなくてワイバーンです!!!」




 ~~~~~~~~~~




 ワイバーン。空を駆ける竜の眷属である。

 主に高度の高い山をねぐらとしている肉食の魔物で、その力は本物の竜に迫るほどの強力なものである。

 その腕から放たれる攻撃は普通の魔物であれば一撃で死に至らしめるほどのものであり、その身に秘めた力は計り知れない。

 

 そして最たるものはその飛行能力だ。竜のように精霊を操る力はないにせよ、ただ空中にいると言うだけで人間にとっては脅威である。


 それは冒険者の討伐難易度認定にも表れている。

 普通の冒険者が一生を費やして到達できるランクがB級であるのに対してワイバーンの認定ランクはA級。

 

 故にA級を超える魔物や冒険者はこう呼ばれる。

 規格外(イリーガル)と。


 そしてアランにとって生まれて初めてといえる規格外との対峙であった。

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ