呪いにかけられた
俺がその呪いを受けたのはある日の夜。
酒場でたんまりと酒を飲んだ後の帰る道の最中だった。
もう家屋の灯りはほとんど消え、街灯の明かりだけが道を照らしている。
酒場の喧騒とは真逆に外の闇は静けさを保っていた。
そんな中を一人で俺は歩いていた。
不用心と思われるかもしれない。
しかし俺は知っていた。この道は衛兵のパトロール順路であり、ここの道においては犯罪者の類は全く寄り付かないということを。
故に安心してふらふらとした足取りで宿へと歩を進める。
そんな道の途中だった。視界の端に小さな露店のようなものが映ったのは。
俺は不思議に思った。なぜならこんな時間に露店なんて開いている者がいるならすぐに衛兵にしょっ引かれるからだ。
なんの店だろうか。不覚にも興味を抱き、広げられた机に近づいていく。
そこにいたのは背の曲がった小柄な老婆の姿だった。
春の夜の肌寒い風に体を震わせながらそこにちょこんと座っている。
机の上には怪しげな人形やら数珠やらがいくつも置かれておりいかにもといった雰囲気である。
「いらっしゃい」
「これは一体なんの店なんだ?」
俺が問いかけると老婆はにやりと笑いながら言う。
「呪具の店ですよ」
「呪具?」
「そう、呪いをかけるような道具を取り揃えていますよ、ひっひ」
そういって机の上に置いてあった人形を手に取って言う。
「こいつは呪いたい相手の髪の毛を入れてやって釘で打ち付けると、翌日には相手が死ぬってやつですよ」
「なんか物騒だな」
「そりゃそうですよ。なんてたって呪いなんですから」
正直眉唾な話だ。そんな呪いなんて聞いたこともないし信じがたい。本物ならすごいことであるが。
「なんか他のはないのか? 面白そうなやつ」
人を殺めるようなものは正直俺には使い道がない。なにかもっといいものはないものか。
「じゃあこいつはどうですかい? 人をアンタの言いなりにできるっていう呪具だよ」
そういって今度は老婆が取り出したのはブレスレットのような小物だった。
「へえ、それが本当ならすごいな」
俺はそれを手に取ってしげしげと見つめる。小さな宝石が埋め込まれてはいるが何の変哲もないブレスレッドにしか見えない。
「これはどう使うんだ?」
「呪いをかけたい人間の腕にはめるだけでいい。プレゼントとか言って渡せばイチコロさ」
そういって老婆は邪悪な笑みを浮かべる。その容貌はまさしく人を惑わす魔女のようだった。
しかし俺は酔っていた。その表情を見てもどうとも思わなかった。
ただ、ブレスレッドにはまっていた宝石が綺麗でなんとなく欲しくなったのだ。
「じゃあこれ、くれ。いくらだ?」
「開店サービスだ、お代は結構だよ」
「そうか、なら貰っとく」
そういって懐にそれを入れる。そして踵を返し、元のように帰路へとつく。
その背中に老婆は語りかける。
「有効に使えよ、アラン?」
呼ばれたような気がして俺は振り返る。
しかしそこにはもう既に老婆の姿も、露店の跡すら一つも残っていなかった。
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翌朝、アランは宿のベッドの上で目を覚ました。
皮鎧をつけたままベッドに横になっていたようだ、体中の節々が痛む。
何とか宿に帰ってきてはいるみたいだが昨日の記憶があいまいだ。
「み、水……」
喉が渇いた。
部屋においてある水差しからコップに水を注ぎ一気に飲み干す。
そうすると一気に意識が覚醒してくる。
「そうだ……今日も仕事だ」
アランは休みを最低限しかとらない。というのも目標のためにお金を貯めているからだ。
昨日は飲み過ぎた。そのせいで今日は依頼競争に出遅れたのは間違いない。
急いでギルドにいかないと。
そう思い、ベッドから立ち上がり荷物のチェックをする。
「鎧よし、剣よし、薬に短剣よし、財布もある」
そうおもった瞬間ゴトリと何かを落としたような音がする。
「ん?」
音のした方を顧みるとそこには昨日買ったブレスレットが落ちていた。
そのとき、昨日の老婆が思い出される。
「そういえばなんかもらったな」
金属でできたソレを拾い上げて俺は首をかしげる。
「人に言うことを聞かせる道具だったか? 確か使い方は……腕にはめるんだっけ?」
ためしに腕にはめてみた。が、何も起こらない。
宝石が輝いたりするのかとばかり思っていたがそうでもないらしい。
「まあそりゃそうか」
あんな怪しげな店でもらったものだし、なんの効果もないブレスレッドでも何の不思議もない。
俺はこんなことに時間を費やしたことをちょっと後悔しながら部屋を出て、ギルドへと向かう。
外に出るともうすでにすっかり日は上っており道には様々な出店が出ており、客引きが声を上げている。
いつもなら気にならないそれも二日酔い明けの頭にはガンガン響いてかなわない。
そそくさと抜けてしまおうとしたそのときだ。
「そこのお兄さん、顔を青くして二日酔いかい? そんな時にはこのポーションが効くぜ! 買っていけよ!」
ここの親父のポーションは相場より結構高い。
俺はノーと言える男である。
当然、俺は断ろうと思い口を開いた。
「もちろんだ!」
アレ?
言い間違えたかな? もう一度。
「もちろんだ!」
「二度も言わなくてもいいさぁ! お買い上げありがとうございやーす!」
そうすると体が勝手に財布からお金を支払ってしまった。
なんだ今のは。呆然とする俺。
しかしそんな俺には構わず刺客(客引き)たちの声は襲いかかってくる。
「おにいさん! この野菜も買っていってな!」
「あんちゃん冒険者かい? こいつを買っていけば冒険も安心だ! いまならこの薬が特価で買えるぞ! 買っていきな!」
「もちろんだ!」
俺をカモだと思った出店の人間たちは、財布の中身がなくなるまでそうして俺から金を巻き上げ?(売り付け)ていく。
そして最後には無一文となった俺が残された。
「……なんだこれええええええええええええ!!」