アランという冒険者
俺、アラン=ウィルバートは平々凡々な冒険者である。
日々ギルドから出るクエストを淡々とこなし、一定の報酬を得て暮らしている。
階級はC級で25歳にしてはけっこう高いと言ってもいい。
モットーは「冒険せずに堅実に」だ。
普通、冒険者と言えば命を懸けて様々な危険を乗り越えて多大な財宝や名声を得るような命知らずの集まりと思われている。
実際それは正しいが俺には当てはまらない。
俺は自分の身の程を理解している。自分はしがない一冒険者にしかすぎず、物語の英雄ではない。
実力以上のクエストを受ける、なんてことは決してしない。
命あっての物種だからだ。
故に今日もD級の簡単な依頼を受ける。
依頼は確実に遂行できるものを選ぶ。それがプロフェッショナルというものだ。
お蔭様で俺の依頼達成率は100%。ギルドからの信頼も厚く順風満帆な冒険者人生と言えるだろう。
ただ、困ったことが一つだけある。
どうにも俺は呪われてしまったようだ。
クソ厄介な呪いに。
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早朝、街の静けさとは反対に冒険者ギルドは人でごった返していた。
皆掲示板の前に群がり依頼が書かれた紙とにらめっこしている。依頼票の張り出しの時間である。
割りの良い依頼を探すのは冒険者として生きるために必須のスキルであり、皆真剣に依頼の検討をしていた。
そして俺もその人ごみの中にいた。
しかし他の連中と違って俺は既に受けたい依頼は決まっている。
声を上げながら人ごみをかき分けてある依頼の用紙に手を伸ばす。
「ちょっと退いてくれ!」
だれもその依頼には興味がないのかそれは簡単に手に入った。
その依頼こそ、俺の大好きな依頼。
そう、薬草取りである。
安全な割に知識が必要でこなせる人間が少ないそれはまさしく穴場である。
それを持って俺はこそこそと受付に向かって走っていく。
「すいません、これ受けたいんですけど……」
受付の人の顔を確認する。よしッ! アイツじゃない!
「ギルド証はお持ちですか?」
「はいっ!」
俺は急いで首に掛けたギルド証を差し出して依頼票に名前を書き込もうとする。
アイツが来る前に何とかせねば……そう思って急いでペンを持つが、あまりにも急いだせいかそれを取り落してしまう。
コロコロと地面を転がるペン。それはある人物の足元でぴたりと止まり拾い上げられる。
「落としましたよ」
「あっ、どうも……って」
そこに立っていたのは一番会いたくなかった人間。
シフィルその人だった。
「ぎゃっ!」
「なんですか? レディの顔を見て悲鳴を上げるなんてひどいですよアランさん。今日も依頼を受けに来たんですね、私が取り次ぎましょうか?」
この人は受付嬢のシフィル、俺の担当受付嬢である。本来担当がついたらその人を通して依頼を受けるのだが、今の俺はそうしたくない理由があった。
シフィルは俺の依頼票を横から覗き見、その内容を見ると顔を曇らせる。
「また薬草取りですか? いつもそれですね……飽きませんか? C級ならC級向けの依頼を受けましょうよ」
彼女が言うことはもっともだ。薬草取りは本来準ベテランのC級の冒険者が受けるようなものでは無い。そこまでなら俺も頷けなくはない。
しかし彼女はそこでは止まらない。
シフィル。この街では色々と有名な受付嬢である。美人で若いだけでも冒険者連中には絶大な人気を誇っているがそれだけではない。
彼女はトラブルを引き寄せる性質があるようだ。
依頼の等級違いや、内容に不備が起きる程度ならいい。
なぜか彼女から受けた依頼では凄まじいアクシデントが起きるのだ。
E級の依頼なのに危険な魔物が出没したり、河川での依頼なら雨も降ってないのにいきなり洪水が起きたりする。
彼女の持ってくる依頼だけは受けてはいけない。
これはこの街の冒険者ならだれでも知ってることだ。当然俺も知っている。
彼女は何か思いついたのか手を打って声を弾ませる。
「そうだ! 私がアランさんに適したいい依頼を選びましょうか?」
普段の俺なら当然断っている。
俺はシフィルにいい所を見せようなんて全く思わないのだ。大切なのは第一に自分の命、あとのことは二の次だ。
しかし俺の口は俺の思いとは別に動いてしまう。
(やめてくれっ、勘弁してください神様!)
「喜んで!」
そう。俺は呪いのせいでイエスマンになってしまったのだ。