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プロローグ

日本の教育現場において、生徒の個性が遺憾なく発揮される場はいつだろう。学校行事? 授業中? その答えは授業と授業の間の5分休みだと俺は思う。

例えば我が2年2組の教室を見渡してみよう。


教室の1番前の席で次の授業の教科書をめくっているのは学級委員長の「雛菊(ひなぎく)さん」三つ編みにされたおさげと言い、顔の輪郭が歪むほど度の強い眼鏡と言い、誰もが認める真面目な優等生だ。


対して教室の1番後ろで仲間内と騒いでいるのは「逸野城(いつのじょう)くん」先生から呼び出されていることも多い。悪くいえば不良。しかし、良く言えばクラスのムードメーカーだ。


そんな彼らの中にいる「山根(やまね)くん」は小柄な体と温和すぎる性格のせいかよくからかわれる立場にいる。逸野城くんにあたまを小突かれ弱々しく笑った。


自分の席に来た友達とお喋りをしている「杉琴(すぎこと)さん」はクラスのヒロインだ。正統派の美人で目の保養に持ってこいである。彼女をチラチラと視界に入れる男子生徒も少なくない。


いつも同じ3人組で話している「五十嵐(いがらし)くん」達は自他共に認めるオタクだ。

教室の中央でファッションの話を高笑いを響かせながら語る「鳥海(とりかい)さん」達は絵に描いたようなギャル。

昼休みにある部活の練習のために、早弁に精を出す「柳沢(やなぎさわ)くん」達はスポーツマンタイプ。

教室の隅で本を読む「天野(あまの)さん」は少し地味な大人しい少女。

机に突っ伏して寝ているのは「吉田(よしだ)くん」クラスでもあまり人と話しているところは見かけない。


「日本教育は『出る杭を打つ』個性の均等化だ!」そんな記事を新聞で見たが、ライターにこの様子を見せてあげたいものである。


「なあ、(しゅう)


俺の名前を呼んだのは高1から同じクラスの「徳永(とくなが)」だ。大雑把な性格だが気のいい奴で友達も多い。


「数学の宿題やってきた?」

「また忘れたのか?」

「いやー、彼女が寝かしてくれなくて」

「おまえ彼女いねーだろ!」


俺は渋々数学のプリントを差し出すと徳永はペコペコと会釈をしながら受け取った。この光景を見るのも今月三度目だ。


「サンキューな。写し終わったら回すから!」


徳永は小走りで自分の席に戻った。


「たいへんだねー」


反対側から声をかけられる。見ると隣の席の「今村(いまむら)」さんが声をかけてきた。


「ま、まったくだよ」


今村さんは特別かわいい子ではない。しかし、その優しい性格のおかげでクラスメイトの誰からも信用されている。


……はっきり言おう。俺は今村さんに惚れている。この事を知ってるのは親友の徳永くらいだが。


せっかく今村さんが話しかけてくれた。俺は会話を広げようと脳内の引き出しを開けては閉める。そして、近々行われる体育祭の話を振ろうとしたその時。


キーンゴーンカーンコーン。


無情にもチャイムが鳴った。ガタガタと皆んなが自分の席に戻る。今村さんも英単語帳を机の中にしまい前を向いてしまった。


お察しの通り、せっかく隣の席になったのにあまり仲良くなれていない。もっとかっこいいところを見せれればよいのだが。なんて事を考えていると床が光り出した。


そう、床が光出したのである!


「お、おわあああああっ!?」

「きゃあっ!」

「なんだぁっ!」


床は紫色の光を放つ。よく見れば幾何学模様やら見たこともない文字が並んでいる。俺にはそれが何かを理解する時間も頭脳もなかった。


やがて、光はさらに輝きを増し、俺の意識もそこで途切れた。



●◯


「しゅ……ろ! ……う……しゅ……」


誰かの声。やめろ、うるさい。俺は朝は弱いんだ。


「秀!」


パチリと脳が覚醒する。目を開けると不安げに俺の顔を覗き込む親友の姿。


「秀、やっと起きたか」

「お、おう。えっと……」


状況を理解できず俺は辺りを見渡す。


まず目に入るのは重なるように倒れるクラスメイトの姿。5.6人ほどのクラスメイトは目を覚ましているが、大半はぐったりと床に倒れている。


そしてその周りを取り囲む、鉄の鎧を身につけた兵士達。


「な、何だよこれ……」


世界史の資料集で見たような西洋風の鎧を着た兵士達は等間隔で並び俺達を監視しているようだった。

ふと天井を見上げると豪奢なシャンデリアが輝いている。床にはレッドカーペットが敷かれており、さながらお城の中のようだった。


「徳永……これって……?」


親友は静かに首を振った。


「俺も分からん。とにかく今はみんなを起こそうと……」

「そ、そうだな」


俺は近くに居た五十嵐くんの肩を揺すり始めた。


●◯


最後に吉田くんの目が覚めた。普段無表情な吉田くんもこの状況には驚いたらしく口をあんぐりと開けた。

全員が一様に不安そうな表情を浮かべている。取り囲む兵士たちに怯え、俺達はおしくらまんじゅうのように寄り添いあっていた。


「全員目が覚めたようじゃな」


厳かな声が響いた。

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